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孤児院にて 1

 ガイル大陸南部の海上に浮かぶ島国、ローヴィエ。ヴィエ語で『夢の島』という意味のその国が俺、もといフィーネの母国だった。暖かい気候に穏やかでおおらかな人々の気質。作物も豊富で豊かな国であると言えた。そして海を挟んだ北にはリムルガンド帝国、エシパジャ連合王国、ハルメニア王国。さらに向こうにはアルドメニア王国、ヴィーツェリー皇国が存在している。

 ローヴィエとの因縁が深いのはリムルガンド帝国だろう。かつては属国の扱いを受けていたという。他にも何十年もの間、戦争をしていたこともあるらしい。イメージとしては地球でのフランスとイギリスのようなものだろうか。島国だしな。

 その他の国はよくわかってない。孤児院にそこまで教えられるような人間はおらず、また、リムルガンドに関するちょっとした話も、俺達が住む孤児院がある小さな町、リヴァールにやってきた行商人のおじちゃんから聞いた話である。


 俺の死からカミサマと対話、フィーネへの転生という衝撃的なコンボを決めてから3年がたち、おれは6歳になっていた。

 フィーネが3歳の時に俺はフィーネになったわけだが、それ以前の俺は会話することが滅多になく、覇気のない人形のような子供だったという。おそらくだが魂的ななにかがなかったのではないかな?と予想する。カミサマならどうにかできてしまいそうだしな。

 ともかく、抜け殻であったフィーネに俺が入りこみ生活していく上で分かったことがあるのだ。


 俺、やたらと人受けがいい。


 例えばパン屋の前を通れば1つ焼きたてのパンをもらい、八百屋の前を通れば新鮮なリンゴを1個もらい、肉屋で買い物すればサービスだよとおまけしてくれる。おかげで店が立ち並ぶ通りを通過したあとは腕にたくさんの“おまけ”を抱えることになるのだ。

 悲しげな顔を見せれば何かしらに誤解され、ニコリと微笑めば頑固親父も笑顔になる。それが俺だった。


 無論、俺はそんな効果を持つスキルはとってない。ヒロインと言われるだけあって見た目はびっくりするぐらいかわいいが、これは異常だ。大方、カミサマ余計な特典のようなものをつけたのではないかと考えている。魔法とかも使ってるわけじゃないしな。


 魔法といえば、俺はまだそれを習得するに至っていない。そもそも幼い子供に火や刃物など事故を招きかねないものを扱わせるのはどこの世界だって怖いものだろう。10歳になったら教えてくれるらしい。

 俺はそれでもいいかと思っていた。孤児であるため豊かな暮らしはできないが、みんなと暮らす現状は気に入っている。だが、今、この時ばかりは隠れてでも習得しておくべきだったと強く後悔していた。ああ、風魔法が使えれば安全に降りることもできたろうに。


 「フィーネちゃん!大丈夫?降りてこれる?」


 む、無理で〜す!

 なんて、情けないことは言えない。下から聞こえてきた声の主は私の妹分であるアリスだ。アリスは俺の1つ下の引っ込みがちな少女で、常に俺が引っ張って色んなところに連れ回している。

 震える足を止められず、腕の中に収まっている猫は不安そうな声で鳴く。しらすと名付けてこっそり隠れて可愛がっていた子猫が木の上に登って降りられなくなってしまったのをアリスが発見したのだ。俺が助けてやるぜ!と意気揚々と気を登り、いざ降りようと下を向いたところで怖くなってしまったのだ。

 昔はそんなことなかった。俺が俺であった頃は木登りなんてちょちょいのちょいだったし、煙となんとかは高いところが好きと言わんばかりに高いところは好きだった。これは完全に死んだ時に落ちたことが原因だろう。どうやら高いところがトラウマになってしまっていたらしい。

 これは大きな誤算である。こめかみをたらりと冷や汗が伝ったのがわかった。


 「ど、どうしよう。誰か呼んできた方がいいかな」


 アリスの声に涙が混じってくる。慰めるのが俺の役割だってのに声を上げることもできない。いや、まじで怖すぎる。下を向くことが怖くて空を見上げている。あー空がきれいだなー(震え声)


 「アリス?こんな所でなにやってんだ?」

 「ケルトくん!」


 嫌な奴が来ちまった。ケルトは俺と同い年の悪ガキだ。何かと俺のことを目の敵にしており、よくつっかかってくるのだ。


 「上になにか、ってフィーネじゃねーか。何してんだ?」

 「……」


 お前はどっかいってろ!と言いたいがそんな大きな声を出したら落ちそうで怖い。俺はただ黙り込むしかなかった。


 「あのね、猫ちゃんが木に登って降りられなくなっちゃってね……」

 「それでフィーネが木に登ったのか。けど、いつまでそこにいるんだよ。……あ、もしかして」

 「う、うるさい!別に俺は、ひぇ…っ!」


 突然風が吹き座っている木が揺れた。慌てて木につかまる。だめだ、怖い。いよいよ視界が滲んできた。情けないから涙なんて流したくない。それに、俺が涙を零したらなにかを勘違いしてくる輩が確実に出てきてしまう……!(ガチ)


 「……仕方ねぇなぁ。おい、ちょっとそこでじっとしてろ」

 「じっとしてろっておま、」


 ケルトがスイスイと木を登ってくる。あっという間に俺がいる枝までやってきた。そして片手を差し出してくる。


 「ほれ、とりあえず猫だけ渡せ」

 「む、むり、動けない……」

 「はあ?」


 何言ってんだこいつ、と言わんばかりにケルトの顔が歪む。無理なものは無理なのだ。体がカチコチに固まってしまい、腕を動かすことさえできなかった。

 もうやだ、こんなやつに弱みを晒すことになるなんて。俺、一生の不覚。


 「ああもう、もうしばらく我慢してろ」


 見かねたケルトが腕の中の子猫を掴み、片手でだき抱えながら枝にぶら下がり飛び降りた。ビックリして思わず下を見てしまいさらに怖くなってしまう。己の足の震えで枝が揺れてるような気さえしてきた。思わず枝にしがみつき目を瞑る。

 本気で降りれる気がしない。もう俺、ここで生活する。いや、やっぱやだ。怖い。ストレスで1日もたたず死んでしまいそうだ。


 「おい、お前も降りるぞ」

 「ひょえっ」


 いつの間にかまたケルトが木を登ってきていたようだ。驚いて体が縦に揺れ、思わず手を枝から離してしまった。そのままぐらりと体が後方に傾く。やばい、と手を前方に出すが、何も掴むことが──


 「ばかっ!」

 「うわ!」


 できはしなかったがケルトに腕を掴まれはした。勢いよく引っ張られ、今度は前方に傾いていく。ああ、もうだめだ。少しの浮遊感の後、俺達は地面に落下したのだった。


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