カミサマ 2
思考が一瞬フリーズしてしまった。おとめげーむというのはあれだろうか。主人公が色んな種類のイケメンたちを攻略していくというあれなのか。
「そう、それそれ。僕の世界でもやって欲しいんだよね」
「軽く言われても困るって。そもそも俺、男だし」
「男か女かなんて些末な問題でしょ」
「些末じゃないから!?」
やばい、このカミサマ、男と女の違いを些末といい切った。思考回路やら生殖における役割まで男か女かによってたくさんのことが左右されるのだが。でもカミサマだしな……ものごとをとらえるスケールが違うのだろうか。
「あーそんな感じ。まあ僕としては別に君じゃなくてもいいし、転生したくないっていうなら構わないんだけど」
「ちなみに、拒否した場合は?」
「先輩に返してそのまま魂の洗浄、つまり君という存在を魂からデリートして、まっさらな魂になってからチキュウでの転生かな。むしろそれが正しい形なんだよ?僕が先輩に無茶言ったからこんなことになっているだけで」
「なるほど!つまり俺は乙女ゲームの主人公として生きていけばいいんだな?」
「だいせいかーい!僕、物分りのいい子大好き!」
よく分かった。分かってないけど分かったぞ。
少なくとも俺は消えるのは怖い。それは分かっている。
分かってないのは乙女ゲームうんぬんかんぬんである。
「じゃあ早速なんだけど、君が産まれるのは、」
「ちょ、ちょっと待て。俺、記憶が曖昧で名前も思い出せないんだがこれってどういうことなんだ?」
説明が始まりそうな空気を察知して疑問をねじ込む。それはここに来てからずっと不安だった俺の記憶のことだ。
「それは手違いというか、なんというか……」
「ぶっちゃけ?」
「戻りません!」
てへ!と声が聞こえてくるかのような声色だった。絶対反省してない。
現在、1番の違和感は自分の名前が思い出せないことだ。それ以外は分からないが、きっとまだ何か忘れてることがあるのだろう。思い出すことも違和感を覚えることも出来ないそれに漠然とした不安が心の中にひろがった。
「あー…ごめんね?そっか、そうだよね。大事なものだよね。うーん、でも戻せもしないんだよなぁ」
カミサマが今度は本気で申し訳なさそうに言ってきた。カミサマにもどうにも出来なければどうにもできないんだろう。
「わかった。じゃあ名前だけでも教えてくれ」
「あ、名前ね。フィーネって名前だよ」
「フィーネか。おお、確かに馴染むような、気が、しないぞ……」
いや、フィーネて。こちとら純日本人だぞ。こう、もうちょい漢字多くてもいいんじゃないかと思うんだが。
「……あ、なるほどね。チキュウでの名前ね。ごめんごめん。そっちの名前はわかんないなー。先輩に頼めば調べてもらえるかもしれないけど、さすがにそこまでしてもらうのもな」
どうやらボケたわけじゃなかったらしい。普通にツッコミをいれてしまった。心の中でだけど。
「まあそれでもよくない?だめ?これから君はフィーネちゃんとして生きていくんだからさ」
「よくない……。俺の名前はなんなんだ、権三郎なのか、又三郎なのか」
「三郎にこだわりでもあるの?」
「ない」
三郎にこだわりはないが、名前にこだわりはある。
名前とは個を表す上で欠かせないものだろう。それは1つのアイデンティティであり、俺を俺たらしめる重要なものだ。
「ぬー……これから君はフィーネちゃん。それではだめなの?」
「だめだ。だめなんだが……はあ、もうわかったよ。譲歩しよう」
「ああ、よかった。さすがにあれ以上先輩働かせるのも罪悪感?があったんだ」
「そのかわり」
「え?」
俺の記憶を諦めたのはこのためだ。カミサマの言う通り、過去のことに固執するよりかは未来をどう良くするかを考えたのだ。
「俺になにか強い、特別な力を備えてくれ」
「え、なに、チートってやつ?俺TUEEEE?」
「お前はどこのサブカル人間だ!?」
人間じゃなくてカミサマだった。サブカルカミサマ。なんだか魔法少女とかになれそうだな。マジカル☆カミサマ。
「うーん、何かしら加護を与えるのはやぶさかじゃないんだけど、君ヒロインだよ?ゴリラヒロインになるの?」
「いーじゃん。男子諸君の憧れなんだよ、バッタバッタ敵を薙ぎ倒すのって」
もちろんそこには俺も含まれてるわけなのだ。霊長類最強の女になるくらいの心意気でやっていきたい。
「まあ、本人が言うなら仕方ないか。いいよいいよ、なんかあげるよ。具体的に何がいいとかないのかい?」
「あー……そう言われると困るな。そもそもカミサマの世界ってどんな世界なんだ?現代ぐらいの文明ではあるの?」
「いいや?チキュウでいうと中世ヨーロッパくらいの発展度かなぁ。街並みもどことなく似てるかも。何せ便利なものがあるから発展がそんなはやくないんだ」
「便利なもの?」
「うん、魔法があるんだ。僕の世界」
……魔法かぁ。いよいよ2次元じみてきたな。現実感がないという意味では現状も似たような感じだけど。
「それから身体能力が数値によって決められてる。いわゆるステータスってやつだね。それと誰でも1つか2つスキルを持ってる。これは後から訓練や何回も繰り返したりすることで新たに手に入れることもできる」
「もしかしてなんかそういうあれの影響うけてる?ジャパニーズアニメ好きなタイプ?」
「うん、好き」
あ〜なるほどな?異世界転生ものでも見ちゃったのかな?これなら僕の世界でもできるって思っちゃった?うーん(死)
「(死)って、君もう死んでるのに何言ってんのさ」
「そういうことじゃねぇんだよ。あと俺なんも言ってないから。思考読むのやめろよ恥ずかしい」
「それは無理なんだって。厳密に言えばできなくはないけど、リソースが割に合わない。それに、転生すれば僕の中から出るからそれまでだと思って我慢して」
なんか、カミサマ業も世知辛いな。だが確かに省エネって大事だよな。仕方ない、飲み込むことにしよう。
「そうして貰えると助かるよ。それで、どんな能力がいいの?やっぱ魔法?」
「まあ憧れるところではあるよな。スキルとかはどんな種類があるんだ?」
「いっぱいあるよー。家事スキルからチートスキルまでなんでもござれ。詳しくは直接知った方が楽かな?はい、どうぞ」
気の抜けた掛け声だな、なんて思った途端、殴るかのような衝撃とともにいきなり情報が頭に流し込まされた。槍術、皿洗い、創造、炎手、隠密、歌唱、演説、魅了、聖術、鑑定、、、
あ、これだめだ。
衝撃によりグラグラゆれる視界に耐えきれず俺は椅子から崩れ落ちた。
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