大戦の始まり
軍艦の艦橋で一人の若い女が空を見上げていた。
空は青く晴れ渡り、太陽が彼女を照らす。
風が吹くたびに彼女の髪を揺らした
太陽の陽にあたり、彼女の燃えるような赤い髪が一層際立って見えた。
彼女の首に下げられたドックタグには『ライラ・ルルーシュ』と刻まれていた。
彼女の名はライラ・ルルーシュ一等兵
アメリカ陸軍第35歩兵連隊第5女性遊撃部隊『ダミア隊』に所属していた。
彼女はしばらく空を見上げると、立ち上がり軍艦の中へと入って行った。
細い艦内を歩いて行くと、彼女と同じ服を着た男や女とすれ違う。
彼らは彼女を見ると、にこやかに挨拶をしていった。
彼女も同じように返しながら、艦内を歩いていく。
しばらく歩くと、彼女は一つの部屋の前で止まった。
金属製の扉を開け、部屋の中に入ると、いくつもの二段ベッドが並んでいた。
そのうちの一つに腰をかけ、側にあったペットボトルに口を付けた。
すると、彼女と同じ歳くらいの女が3人ほど部屋に入ってきた。
黒髪の長身で筋肉質の女の名はミシェル・アルベルト軍曹
第35歩兵連隊第5女性遊撃部隊『ダミア隊』の隊長を務めていた。
そしてその横にいる茶髪少女の名はエリー・クルッツ伍長
彼女も同じダミア隊の一員だ。15歳の少女に見えるが実際は18歳であり、ミシェルやライラと同じ年齢だった。
彼女は長距離ライフル兵として隊の一員を担っている。
そしてもう一人の金髪の女はカーラ・セオドア伍長だ。
長身の彼女はダミア隊の重機関銃兵を担っていた。
彼女らは皆10代と歳が近く、友人同士だった。
ミシェルが口を開く。
「ライラ、そろそろ時間だ… 甲板に全員集まれ、だそうだ」
「了解、すぐ行くよ」
長身の女はそう言うと、通路を歩いていった。
ライラと呼ばれた女は立ち上がり、ベッドに転がる写真を見つめた。
写真には、40代ほど男性が赤い髪の少女を抱えていた。
二人とも笑顔で写真に向かって笑っている。
「父さん……、ついに、この日が来たよ…」
ライラはしばらく写真を見つめると、部屋を出た。
しばらく通路を歩き、甲板へ出ると、外にはすでに多くの兵士が並んでいた。
ライラは列に並び、他の兵士と同じく背筋を伸ばした。
すると、列の前に向かって白髪混じりの男性がゆっくりと歩いていく。
彼はこの連合部隊の司令官のゼス・マクファーレン海兵隊総司令官だ。
彼は列の前に立つと、軽く咳払いをした。
そして、マイクを持ち、演説を始めた。
「諸君。本日、新ソ連連邦に占領された釜山に対し、奪還作戦を行う。
45分後に長崎港を離れ、他の部隊と合流する。
合流後は釜山沖に停泊し、そこから攻撃を行う
しかし市街地により、先制砲撃は行えない。
その為、歩兵によりピンポイントでの攻撃が必須となる。
分かってると思うが、本作戦は大戦の戦争の開始の意味を持つ。新ソ連の戦力は我々以上だ、しかし君達の能力ならば戦力差を上回ると信じている」
ゼスは深呼吸をし、息を大きく吸い込んだ。
「この戦いが!アメリカ、世界の明日へと繋がる! 我々アメリカ軍には!敗北の文字は無い!!世界を牛耳ろうとする新ソ連連邦に正義の痛みを思い知らせてやれ!!!諸君らに期待している!!!以上だ!!」
そう言うと、彼の演説を聞いている兵士たちも大きく息を吸い込んだ。
ライラも大きく息を吸い込み、他の兵士と声を合わせ
「Hoo-ah!!!」
と叫んだ。
少し離れた位置からも「Ooh-Rah!!」
と大きな掛け声が聞こえた。
ゼスが艦内へと消えると、兵士達はバラバラに散らばった。
ライラも艦内へ入り、一時の平穏を部屋で過ごすこととした。
2101年 7月15日 14:08
釜山湾
ライラ達ダミア隊は小型船舶に乗り込み、波に揺られていた。
金属で覆われた船には装備を整えた兵士達が男女問わず、ぎゅうぎゅうに押し込まれていた。
釜山湾に数百とも言える船が同じように海に浮かぶ。
ライラは胸の十字架を握り締めて祈った。
その他の兵士も同じように祈る者、ガタガタと震える者。
様々な反応をしていた。
すると、船内に付けられた無線から野太い男の声が聞こえる。
『よし、皆。戦闘開始だ。幸運を祈る』
船の後ろの方で船のハンドルを持つ兵士はそれを聞くと、胸で十字架をきる。
そして、ギアを入れ、スロットルを吹かすと、船が動き出した。
ガガガガと船の動作音と、波の音だけが聞こえる。
ライラは息を飲み込み、ただ下を向いていた。
すると横に座ったミシェルがライラの顔を覗き込む。
「ライラ、大丈夫か?…そうなるのも、無理もないけどな」
「ええ…やっぱり、今から戦場に行くと思うと…」
「私たちも同じよ。正直ビビってる…この中で何人生き残るか…いえ、生き残る人間がいるのかと考えると」
「エリー、不吉な事は言わないで。…私たちまでブルーになるじゃない」
「ごめんごめん、カーラ。でも…」
「でもじゃないわよ、私達は必ず生き残る。そう考えなさい?」
「その通りだ、私は仲間を失わない。何があってもだ」
「ミシェルは頼りになるわね」
ライラはミシェルの肩を叩く。
釜山の陸地がそれなりの距離に近づくと、遠くから砲の音が聞こえた。
すると前方の兵士が大声を上げる。
「耐衝撃体制!!」
ライラはヘルメットを抑え、船の手すりにつかまった。
その瞬間、ライラ達の隣の船の前部に穴が空き、中は一瞬で火に包まれた。
中から火に包まれた男や女がいくつも船から飛び降りようとしていた。
新ソ連からの砲撃である
船は大きく揺れるが、ライラはしがみついて耐えた
ライラの前の兵士は火柱を上げ、沈んでいく隣の船を見ると嘔吐していた。
「いきなりなご挨拶だな!」
エリーはしがみつきながら叫ぶ
所々彼女たちの船のそばを砲弾が掠めるが、運良く被弾はしなかった。
しかし、時々船の爆発する音が聞こえる。
そして、それに連鎖するように叫び声も
ライラは船にしがみつきながら、首から下がっているロザリオを握りしめる。
「上陸準備!!!」
しばらくすると、船の運転手がそう叫んだ。
ミシェルはエリーとカーラの側に近寄って何かを言い終わるライラの方へと近づいてきた。
「行くぞ!訓練の成果を見せる時だ!!気合いを入れろ!」
ミシェルはライラの肩に手を置き、掴む。
ライラはロザリオから手を離し、M14を掴んだ。
そして、安全装置を外して船の壁越しに釜山を睨む。
カーラは船に備え付けられた防弾シールドを持ち上げ、船の前方へ並んだ。
他数人の兵士も同じようにシールドを持ち、構えた。
すると彼女たちが乗る船に衝撃が走った。
どうやら上陸したようだった。
「開けるぞ!!」
運転手はそう言い、レバーを引いた。
船の壁が徐々に斜めになり、陸地への道を作る。
壁が完全に開くと、ヒュンヒュンと風を切る音が聞こえ、シールドに弾丸が叩きつけられる音が響く。
カーラ達シールド兵はシールドを構えながら、ゆっくりと前へと進む。
腕を叩きつけられる様な衝撃に耐えながら、シールド兵はゆっくりと前に進む。
その後ろに続々と兵士たちが並び、シールドの隙間から射撃を行なっていた。
他の兵士たちと同じ様にライラはカーラの後ろにミシェルとエリーと一列に並び、弾を避ける。
そして、近くのコンテナに近づきコンテナを遮蔽物とした。
ライラはコンテナにへばりつき、一息ついた。
自分たちが進んできた道を見ると、すでに数十名の死体が転がっていた。
中には先程同じ船だった兵士達もいる
「全員無事か?」
ミシェルはコンテナから顔を覗かせながら聞いた。
「まあ、なんとかね…」
カーラはそう答えると、シールドを置きM249を取り出した。
「奥に機銃が2人…私がやる」
ミシェルは体を少しコンテナから出し、銃を機銃兵に向けた。
そして、トリガーを引くと機銃兵は倒れ、銃弾の嵐が止まった。
「タンゴダウン!今だ!」
ミシェルの声と同時にライラはコンテナから飛び出し、走りながら見える敵に向かって発砲しながら進んだ。
見ると、先ほどの機銃を他の敵が使おうとしていた。
エリーは胸に着いているフラググレネードを取り出し、敵のいる方角へと投げた。
「グレネード!」
フラググレネードは放物線を描いて、機銃近くへと落ちた。
激しい音と共に地面が揺れる
機銃を使おうとした敵は吹き飛ばされ、コンクリートに叩きつけられた。
機銃もすでにバラバラになっており、ただのガラクタとなっていた。
「行け行け!制圧しろ!散開して敵を叩け!」
ミシェルはそう言いながら次々に敵を葬っていく。
ライラ達はバラバラに散開し、各々敵を倒して行く。
カーラはM249を土嚢の上で構え、次々と敵を葬った。
銃声がしばらく響き渡り、かなりの敵兵士が目に見えて減っていった。そして、兵士が逃げて行くのが見えた。
ミシェルは逃亡を確認すると握りしめた右手を上げ、指示を出した。
「射撃中止!ダミア隊、集合しろ」
「コピー、ほらカーラ早く」
「なんとか、上陸地点は確保できたようね…よいしょっと」
カーラはM249を肩に載せながらミシェルの元へと行った。
ミシェルは無線のスイッチを入れ、交信を始めた。
「こちらダミア隊、上陸地点を確保した。これより対空施設へと移動する」
『了解、ダミア隊。他の上陸地点もほぼ制圧完了している、そちらの被害は?』
「ダミア隊は無事だ。しかし………」
ミシェルは振り返り、上陸地点を見渡す。
地面は血に染まり、何十人もの仲間が地面に伏している。
コンクリートの地面から、血が海へ流れ赤く染めていた。
遠くの海にはいくつも煙が上がっている。
「我々の損害もかなりのものだ……」
『生存者達に救助班を送る。君達は任務を続行してくれ。
ポイント010-230だ。この対空設備のせいで救護ヘリも近づけないからな』
「コピー、ミシェル。アウト」
「よし皆、聞いた通りだ。さっさと施設を破壊しよう」
「施設まで数百メートルってとこね…… 恐らく守りは固めてるでしょうね」
「その通りだライラ。エリー、爆破物は持ってきているか?」
「ええ、施設を吹っ飛ばすくらいの爆弾は持ってるよ」
「……貴女が被弾しなくて良かったって心から思うわ」
カーラはエリーから少し離れた。
「私だって持ってきたくて持ってきたんじゃないんだから!」
「そうカッカするな。ならさっさと爆弾を処理してしまおう、念の為にエリー、お前は一番後ろだ。ライラ、お前は左だ。カーラは右に付け」
「「「了解」」」
お互いの死角をカバーしながら、歩幅を合わせて進んでいく。
沿岸沿いにあるコンクリートの施設が見えると、敵影がいくつも見えた。
ミシェル達は施設が見えると、近くにあった車両の影に隠れた。
車両の影から覗くと、建物はバンカーの様な構造になっており、建物の所々に小さな割れ目が開いていた。
そこからは銃口が覗かせていて、近づくのが容易でない事は即座に理解した。
エリーは建物を見て、小声で呟いた。
「近付いたら蜂の巣ね…」
「あの建物の壁際まで行けば、あいつらの弾は届かない」
ライラは建物の入り口辺りを指差しながら、そう言った。
「その通りだ、建物を制圧するつもりはない。足元まで行ければ、後は爆薬を投げ入れるだけだ。カーラ、あなたはこの辺りから援護射撃。ライラは私と建物まで接近。エリー、貴女も援護を。爆薬をライラに渡して」
ライラは爆薬が入った鞄を受け取り、肩にかけた。
ミシェルは車両の後方部に移動した。
ライラもミシェルの背後に着く
カーラとエリーは車両の前方から銃を構え、全員息を整えた。
「行動開始!」
ミシェルがそう叫ぶとライラは胸元にあるスモークグレネードを放り投げた。
煙は瞬く間に広がり、彼女達の姿を隠す
煙に気付いた敵兵士達は煙の中に向けて、一斉に銃を向けた。
カーラ達は何となく弾の飛んで来ている方向に向けて、発砲した。
ミシェルとライラは発砲と同時に車の影から飛び出し、建物に向かって走った。
敵の重機関銃から発せられる弾はミシェルやライラの近くの地面を抉り、カーラが隠れている車に大きな穴を開けた。
ライラは走りながら、
ミシェルとライラは弾を抜け、建物の真下に着いた。
2人は銃を構えながら、建物の金属製の分厚そうなドアの近くに移動し、ライラはドアの左側に付いた。
ミシェルはライフルを構えながら、ライラを見てうなづいた。
ライラは肩に掛けてある爆薬をドアに設置し、爆薬の遠隔操作スイッチを押した。
耳建物の中からは複数の足音と声が聞こえ、それをかき消すかのように銃撃音が響き渡る。
爆薬を仕掛け終えたライラはミシェルにハンドサインを送ると、二人は建物から離れようと走った。
既に煙は薄くなっており、敵は建物から離れるライラ達に向けて、銃を放つ。
カーラ達はライラ達を狙う敵に向けて銃を放ち、挑発した。
弾が色んな方向から飛んでくる中、2人は建物から全力で走る。
ライラは、起爆装置を取り出してボタンに指を掛けた。
ミシェルは走りながら後ろを振り向き、建物との距離を確認した。
「ライラ、爆破しろ!今だ!」
ミシェルがそう叫ぶのを聞いたライラは走りながらボタンを押し込んだ。
次の瞬間、大きな火柱が建物から上がり、それに連なるように凄まじい爆風が広がった。
一帯に広がる大きな爆音は爆発の大きさを物語っていた。
爆発の衝撃がライラとミシェルを襲い、彼女達の身体を少し持ち上げた。
ライラは吹き飛ばされながら、衝撃に耐えるように丸くなり
地面を転がった。
気がつくとライラはうつ伏せになった状態で地面に伏していた。
ゆっくりと身体を起こし座り込むと、建物のあった方角に目を向けた。
先ほどまであった構造物は無くなっており、瓦礫の山と化していた。
ミシェルも近くに飛ばされていたようで、彼女は立ち上がりライラの肩に手を置いた。
「ライラ無事か…?」
「ゴホッ…ええ不思議と無傷だわ」
「なら問題ないな、何とか任務は達成だな…」
ミシェルは大きく深呼吸をするとライラに手を伸ばした。
ライラが手を握るとミシェルは手を引っ張り、彼女を立たせた。
すると、粉塵が舞う中からカーラ達が見えた。
エリーはミシェル達を見ると駆け寄った。
「ミシェル!ライラ!大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。そっちは?」
「こっちも無事よ。カーラが軽く肩を掠った位」
よく見るとカーラの腕が破れ、少しばかり肌を覗かせていた。
ライラは心配そうな顔でカーラを見た。
「掠っただけで血も出てないわ。大丈夫よ」
カーラはそう言うと、持っているM249を肩にかけた。
ミシェルはライラの手を離し、無線を入れた。
「こちらダミア隊。敵施設を破壊した。ポイント010-230だ。」
『良くやった、ダミア隊。被害は?』
「ゼロだ。1人も欠けてない。」
『天使が君達に微笑んだな、ダミア隊。他の部隊も湾岸の対空設備を破壊したようだ。…彼らの被害は凄まじいと聞いている。幸い、対空施設の破壊を皮切りに敵兵士は撤退を始めたようだ。我々は湾岸に前線拠点を構築する。君達も湾岸まで戻ってきてくれ。敵が撤退しているとは言え、残存兵士が残っているかも知れない。幸運を祈るよ』
「了解」
ミシェルが無線を切ると、ライラ達は湾岸に向け歩みを進た。