第九話 暴走
昼休み。本来なら弁当を食うか、宿題をやるか、図書室で読書でもしているのだが、今日は少しばかりいつもと事情が違う。
「……ひもじい……」
「旦那、そう落ち込むなよ」
「黙れこの厄病神が。誰が原因でこの悲しい事件(俺の昼食抜き事件)が発生したと思ってやがる。反省してお前の昼飯をよこせ」
「断る」
「少しくらい分けてくれたっていいじゃないかよう!」
「だってもう早弁したし」
いつの間に!?
「じゃあパンを奢れ。お前にはそれくらいの義務がある」
「財布忘れた」
「お前ってやつは!」
「そういう旦那は? 購買でパン買ってくればいいじゃん」
「……できるならそうしとる。今日は朝からごたごたしてたせいで俺も財布を忘れたんだよ」
くう、こういう日に限って。タツミが朝から押し掛けてくるなんてイベントさえなければ、ここまでひどいことにはならなかったものを……。
「……アイム、ハングリー」
「言葉にしたら少しは空腹が紛れたか?」
「まぎれるわけなかろうが!」
ああ、怒鳴るとますます空腹が……。
「ねえねえ辰美ー」
「…………」
「最近私太っちゃってさー」
「…………」
「ダイエットしようにも、味覚の秋だしー、どうしようかと思ってさー」
「…………」
「……三井君ってそこそこ顔いいし、告っちゃおっかなー」
「……にゃ、にゃに!?」
「動揺しすぎ。……って安心しなタツミ、冗談だから、がくがく揺すると会話が成り立たなくなるでしょーが!」
「……冗談? 本当に冗談?」
「私はあんたと張り合おうとか思ってないから。趣味じゃないし」
「……よかった……」
「心底ほっとしたみたいね……まあいいや。で? そんなに気になるなら、タツミの旦那に弁当でも分けてあげたら?」
「だだだ旦那!?」
「動揺しすぎだって。杉田君だって三井君をそう呼んでるでしょうが。過剰反応しすぎだぞ? 何かあったか?」
「…………」
「いや、黙られると何かあっただろうと邪推したくなるんだが」
「それに食べさせてあげるなんて早すぎるよ!」
「そこまでも言ってないから」
「……でも……それくらいなら……」
「そんなことクラスのど真ん中でやられたら、普通逃げ出したくなると思うけど」
「少しくらい、大胆になってもいいよね……?」
「……青春だなあ……。若々しいわ」
「……あの、ちょっと……なおくんのとこ行ってきていい?」
「はいはい、いってらっしゃい」
「……あの様子だと……告白したんだろうなあ……」
「ねえねえ、何かあったの?」
「タツミが告白したっぽい」
「ついに!?」
「本当!?」
「面白そうだし観察ね!」
「「「当然」」」