第七話 五七五
「残暑が厳しいですねえ」
確かに、九月も後半なのに三十度近く気温があるのはきついですね、健三さん。
「こんなことでは授業に身が入らなくなるのも必然と言えるでしょう」
それでも授業を受けるのが高校生の宿命なんですよ。
「主に私が」
健三さんがかよ!
「……クーラー効いた部屋で酒でも飲みたいですねえ、今」
給料もらってんだから、税金分くらいしっかり働いてください!
「誰か! 私に酒を持ってくる勇氏はいませんか!」
未成年! 俺たち見成年! しかも授業中に堂々とサボろうとしないでください!
「やる気がなくなったので、授業以外のことをやります。いつも通りあなた方は私を楽しませることに心血を注いでください」
二学期になってもやりたい放題だなこの人は! テスト範囲を順調すぎるペースで終えてるからといって、これでいいのか!?
「今の気持ちを五七五で表してください。ではまず清水」
突っ込み入れる暇もねえ!
「人間は どうしてお腹が へるのかな」
腹減ってるのか清水!? さっき購買のパン何個か食ってただろうが! 昼前なのに!
「次、深谷」
「おかしくね 十二連勝 ありえんて」
授業中に巨人の連勝について考察!? 今まで授業何受けてたんだよ!?
「杉田」
「おかしくない 他の球団 弱いだけ」
なんか会話始めたこの二人! 巨人ファンと中日ファンの争いが始まったのか!?
「次石井」
「ぽーにょぽーにょポニョ 魚の子ー」
空気読んでねえー! しかも何これ!? 五七五ですらないよ! 今の気持ちもわからないよ! 何がしたいんだお前は!?
「なるほど……中国古典文学には名作が多いので、日本人ももっと積極的に読むべきだと思うのですか」
ポニョの歌にそんな意味が込められていたのか!? 暗号!? 誰かつっこめよ!
「いえー、トイレに行きたいのでー、許可を求めたのですがー」
「そうですか。どうぞいってらっしゃい」
しかも意味違った! なのに健三さんピクリとも表情を変えてないよ! なんだこの異空間!? 飛び出してえ!
「次は玉野、どうぞ」
「パルプンテ いいから起きろ パルプンテ」
何があったんだ玉野!? 打開したいのか!? どうにもならない事態にあって、その事態を打開したいのか!?
「もう少し詳しく、もう一度玉野」
「数学の 今日の宿題 まだ未完」
ただ提出できないのをどうにかしたかっただけかよ! あれか!? サッティーが宿題出していたことを忘れるとか、そういう奇跡を起こしたかったのか!?
「ダメな生徒ですねえ」
あんたが言うな! 教師として駄目だからな健三さんも!