生誕祭
誰も期待しなくなったであろう今になって投稿。
「誕生日おめでとう旦那!」
朝自宅マンションの駐輪場に行くと、珍しく義人が先に来ていた。いつもは奴の家までおこしに行かないといかんくらいなのに……まあ理由はあれだろうが。
「……聞きたいことがある」
「おやおや? 旦那が怒っているのはどうしてかな? まるで嫌なことでもあったみたいじゃないか」
「その言葉を冗談でなしに言っているのなら褒めてやる」
「ナンデオコッテイルノカワカラナイヨ」
はいはい棒読み棒読み。
「……なぜって? ……教えてやるよ……」
一呼吸置いてから義人の耳元で叫んでやる。
「貴様が深夜三時に携帯アラーム設定なんかするからだ!!」
耳元で突然「ハーッピーバースデー旦那! ハッピーバースデー旦那!」なんてアラームをされて
「うるさいぞ旦那。近所迷惑だと思わないのか」
その言葉そっくりそのままお前に返してやる……。
「だいたい誕生日を生まれた日時に祝って何が悪い」
「少なくとも俺の心臓と安眠に悪い」
「微々たるものだ」
……なぜここまで上から目線でものを言うかなこいつは……。
「温厚な俺でもしまいには怒るぞ?」
ニヤニヤ笑いやがって……。
「なら聞くけど、どうして三時、アラームで起こされた直後に怒りの電話を俺にかけなかったんだ?」
「……それは……」
「なんだかんだで祝われて嬉しかったんじゃないのか、ん?」
…………。
「それにもう少し理由があるだろ? 言ってみろ」
「……朝弱いお前が熟睡してるのを起こすのも気が引けた、それだけだ」
「先輩!? 何照れてるんですかぁーーーっ!?」
「なおくん!? 同性愛は非生産的だよその道に進んじゃだめだよ!?」
うわびっくりした!
「保護者にタツミ、どうした藪から棒に出てきて? 学校あるのに何やってんだこんなところで?」
道に迷った……わけではないよな、当然。毎日歩く道を間違えてここに来てしまったなら、なかなかカオスではあると思うが。
「密かに誕生日プレゼントを渡しに来てみたら、こんなことに……!」
「非生産的だよ! なおくん×杉田君は高城さんの描く同人誌の中だけで十分だよ! 現実でやっちゃだめだよ!?」
「今なんか聞き捨てならんことが聞こえてきたぞ!?」
俺の知らないところでいったい何が!?
「とりあえず皆落ちつけよ」
……正論だが、元凶の義人に言われるのが納得いかない。
落ち着いたのはいいものの、女子二人の様子が何やら険悪だった。
「……石川先輩もずるいですね、どの道教室で会うのにわざわざこんなところまで来ているなんて。歳を重ねたあと一番に会いたかった……とかそんなのですか? だとしたら随分乙女チックですねぇ」
……毒舌だな。俺以外に嫌みを言うのは珍しい。
「……とか言いながら、古木さんも来てるじゃない……。杉田君もいるし……二人で登校したかったのに……」
……空気が悪い、だれか換気してくれ……屋外だけど。
「旦那、誕生日なんだしテンション上げていこうぜ! そういえば清水が旦那は大きいのと小さいのどっちが好きか聞いてたぞ?」
なぜか保護者とタツミの眼が光った気がする。
「……何の大きさが?」
「やだなあ旦那、それを女性がいる前で聞くのはセクハラだろ」
「つかぬ事を聞くが、それを今ここで聞く必要は?」
「皆無だな」
だれか槍持ってきてくれこいつを突き刺すから。
「「…………」」
……さっきまで二人で言い合ってたのに、黙ってこっちの話に耳澄ませてるし。
「……そうだな! 平均、そう普通くらいがいいんじゃないかな! うん、それに特定部位で女性を判断するのはよくないぞ、うん!」
「おやおや? その大きさで女性を判断するなんて俺は言ってないぞ?」
「混ぜっ返してんじゃねえよ!」
「普通がいいそうですよ、大きい石川先輩」
「平均がいいそうだね、小さい古木さん」
ちなみに背の大きさは二人とも平均からプラマイ五センチ以内であるため、そこまで大きさが変わることはない。
「……なにやら針のむしろにいる雰囲気だ……」
「旦那が気の利かない返答をするからいかんのだよ」
うるさい黙れ。
「ルリ? こんなところにいたのですか……学校に行きますよ?」
「健三さんの娘さんの……岬ちゃん? ……ああ、保護者を迎えに来たのか」
「!? 三井先輩!? ……あ、あの……お誕生日、おめでとうございます……」
どうして知ってるのかを聞くのは野暮だろう。
「ありがとう……どうしたんだそこ二人は?」
見事にフリーズしとるな。
「わ……私もまだ言ってないのに! どうして岬が先に言ってるんですか!?」
「私もまだ……なおくん誕生日おめでとう……」
「あぁーー! 抜け駆けは卑怯です! 先輩! 誕生日おめでとうございます!」
「……ありがとう」
そういや言われてなかった。割と結構ここにいるのに。
「旦那旦那」
「何だ義人」
耳元でささやくな気持ち悪い。
「……健三さんの娘さん、大きさが普通くらいじゃね」
「…………」
つい胸に目が行ってしまう俺。
「……っ! あの、三井先輩……あまり胸を見ないでください……恥ずかしいですから……」
「っすまん!」
制服の上からとはいえ無遠慮だった。顔を赤くしながら胸を隠すようにする岬ちゃんは可愛くもあったが。
「旦那、やーらしい」
お前とはいつか雌雄を決しなければならないようだ。
「…………」
「…………」
「……さあ、学校に行かないとな! 遅刻するのは勘弁だし!」
沈黙を保ったまま、突き刺すような視線を浴びせてくる二人から逃げるようにして登校した。……なぜ誕生日なのにこんな気まずいのだろうか……。
忙しい二ヶ月でした。コミケとかバイトとかバイトとかバイトとか。