第六十二話 苦悩
石川家にて、一人の少女が悶々と悩んでいた。
「なおくんが興味を持ってくれるプレゼント、何が最適だろう?」
なんでも喜んでくれそうな気もするし、嬉しそうにしていても内心はそうでもないかもしれない。まして再会してから初めての贈り物、妥協はしたくない。お金をかけるのは気を遣わせるだけのような気もするし……。
「男の子って何を貰うと喜ぶのかな? ……そうだ」
……知り合いの男の子に聞いてみよう。そう、なおくんといつも一緒にいるような……。
所変わって古木家。ここにも悩める少女が一人。
「そもそも先輩が去年までに私の気持ちに気付いていてくれれば……っ」
今年は初めて、先輩を争う本格的なライバルともいえる存在が現われてしまった。中学時代は、私が先輩の周りを見張っていた甲斐もあって、そこまで先輩を狙う人はいなかった。先輩の魅力に気付きかけた人には、先輩の恥ずかしい、百年の恋も冷めるような姿を見せることでご退場いただいた。……そういう悪戯をしたから、私の気持ちを気づいてもらえなかったとも言えるが、今はそれを悔やんでも仕方がない。
「……石川先輩は、確かにいい先輩だと思う」
周りに気を配ることもできるし、温厚篤実な性格は私から見ても魅力的だ。……でもだからといって。
「……胸に無駄な脂肪をあんなにつけている人に、先輩を取られたくない……っ!」
なんとなく決意を新たにした。
そしてもう一人、まじめな故に考えが迷宮入りしている少女がいた。
「男性が貰って喜ぶもの……? でも男性に相談できる知り合いだなんていないですし……」
自分ひとりで考えたところで、答えは出ないのではないでしょうか? そんな気がしてきました。
「……そもそも私には、男性に好かれるための方法なんて、習得する必要がなかったのですから……」
と、そこまで考えたところで赤面する。三井先輩に好かれるため、などという思いが心の奥にあったことに気付いたからである。
「……別にそういう関係になりたい、というわけではないのに……。しかもルリの思い人ですよ? ……これはきっと気の迷いです。あくまでも日ごろの感謝の気持ちを表すプレゼントなのです……」
普段はいくら考え事をしても痛くならない頭が、今日に限って痛い。やはりこういうことは私一人で答えの出せることでは……。
「……一人、いましたね。身近で、一応相談できる男性が……」
あまり相談したくはないのですが、背に腹は代えられません。すぐに聞きに行くことにしましょう。
「……娘が男性への贈り物について相談してきたのですが。私としては、一度でいいから「お前に娘はやれん!」と言ってみたいのですが……。しかしこの言葉をいう日が来てほしくはないですねえ……」
授業しろよ。
十時間半、男二人でカラオケで歌い続けたら喉が潰れた件