第五十九話 意識
目が覚めるとそこは、見知らぬ部屋でした。
「……落ち着け、俺」
こういう場合、自分を見失ったら負けだ。冷静に状況判断をすることこそ大事。慌てても事態は好転しない。どういうわけか今ここにいる理由、昨日何があったのかが思い出せない。
「……まず俺が寝ているのは……ベッド?」
当然俺のものではない。布団の色は薄い桃色、シーツは白で若干いい香りがする。
次に部屋全体を見てみる。派手なものは見当たらず、目についたのはぬいぐるみや背表紙がピンク色な漫画。……要するに少女漫画である。このことから女性の部屋であると推測される。
姉ちゃんの部屋ではないか? いや、奴の部屋は見覚えがあるし、少女漫画などない。あるのは餓狼伝などの格闘漫画だ。
「ふむふむ、ようやく頭が冴えてきたぞ……」
とりあえず言えることがある。というか叫びたい。
「ここどこだ!? なぜここにいる!? どうすればいいんだ――っ!?」
……俺全然冷静でないな。(逆境×)
冷静さを取り戻す前に足音が聞こえてきた。鬼が出るか蛇が出るか……。
「なおくん起きた? 大丈夫?」
辰が出た。
「おはようタツミ、……大丈夫とは?」
「それは、昨日の……あの、さ、気にしなくていいからね?」
「何が!?」
「私はその、別に嫌じゃなかったし……」
「だから何が!?」
「なおくんなら寝ても……ううん、なおくん以外には許さなかったと思う」
「ちょ待て! 昨日いったい何があった!?」
寝る!?
「それじゃ、朝ごはん出来てるから、それだけ!」
「言いたいことだけ言って消えるな―――! 説明を、説明をしてくれ!」
誰か、俺に真実を! 真実をくれ!
「あらあら、朝から元気ねえ?」
「望さん!?」
救世主あらわる! 望さんとはタツミの姉にして俺の姉ちゃんの親友、俺の知り合いには珍しい割と常識をもった人である!
「お久しぶりです、どうして俺はここに!? ここはタツミの家……てか望さんの家ですか!?
「そうよー? でもお久しぶり、でもないのよ? 昨夜会ってるんだから」
「……どういうことです?」
「まあ、それはさておき、直くん?」
「はい?」
「タツミのベッドの寝心地はいかがだったかしら?」
満面の笑みを浮かべ、俺に訪ねてくる望さんは小悪魔にしか見えなかった。
「……ノーコメントでお願いします」
この人は、俺の幼少時代、姉と二人で俺をおもちゃにしていたのである。……だから、いい香りがする、と思ったなどと言えば、からかわれることは疑いようがない。
「そう? 直くんを寝かせると決めてから、辰美が慌てて部屋を片付けてたのよ?」
それを聞いて俺にどうしろと。
「のぞいて見たら、「なおくんがここに寝るんだ……私のベッドで……はぅ……」なんて言って一人赤くなって布団抱きしめてるし? 寝かせた後はベッドの横で「……添い寝とか……何考えてるの私!?」とか妄想してるし? 何か一言くらいあっても罰は当たらないんじゃない?」
「……あの香りはタツミの……」
「あらあら? 香りがどうかしたの? お姉さんに話してみなさい?」
「……っ、なんでもないです、気にしないでください!」
「顔真っ赤よ?」
……不覚……!