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第五十五話 謙三娘

 とある休日、忙しさで枯渇しがちな読書欲を満たすために図書館へとやってきた。俺の身の周りは「読書? 毎日読んでるよ、漫画で」(S田氏)や「文章? 読んでるよ、ビジュアルノベルゲー絵付きのゲームで。一般的にはギャルゲーとか言われたりもするけど」(I井氏)などという間違った人間ばかりのため、縁遠くなりがちなのである。そのため、そいつらが来ることなどないであろう安息の地で、たまの読書日を作るのが心の平穏につながる。ビバ読書。知り合いのいない状況でゆったりと時間を過ごす……なんと安堵できる瞬間であろうか。

「見たことのある顔だと思えば、三井先輩ではないですか」

「!?」

 一瞬身構える俺。とうとう安息の地にも魔の手が来てしまったのか!?

「お久しぶりです、いつもルリと、不本意ながら父がお世話になっております」

「……なんだ健三さんの娘さんか」

「なんだとは失礼ですね。それに父の娘、という言い方はいい加減やめていただけませんか?」

 これは失敬。

「でもなんて呼べばいいんだ? 名字……山本さんか?」

「できれば父を連想するのでやめてほしいです」

 健三さん泣くぞ。

「それなら下の名前か。保護者が呼んでたよな、えーっと?」

「岬です」

「岬さんでいいのか?」

「結構です」

 それはよかった。しかし女子を下の名前で呼ぶのは気恥ずかしいな、うん。

「……ところで、三井先輩は何をしにここへ?」

「そら読書だろ」

「……そうですね、愚問でした」

 まあ、勉強しに来る人も中にはいるけどな。俺から見たら本だらけという誘惑の中よく集中できるなと思うわけだ。

「しかし……岬さんは何を読んでるんだ?」

「これですか? <破戒>です。やはりこういった小説は考えさせられますね。素晴らしい作品だと思います」

「あー……」

「時代を感じさせられる場面もありますが、人の機微についても読み手に推察させる点がいいですね」

 意気揚揚と語る岬さん。なかなかのものだとは思うが、俺は彼女にある意味残酷な事実を突きつけなければならなかった。

「……一言いいか?」

「はい、なんでしょうか」

「その本、健三さんも薦めてた」

「……!?」

 あ、固まった。

「ま、まあ気にすることはないと思うけど。きっとあれだ。同じ家で暮らしてるんだから性格が似てくるのは当然なんだよ」

「そ、そんな……」

 絶句とはこの様子を言うんです、と教科書に載せたいくらいだな、この光景。

「客観的にみるとかなり親子で似てると思うけど、頑張れ」

「て……訂正してください!」

「おう!?」

 いつも冷静な印象があった岬さんだが、逆鱗に触れたようだ。逆鱗が健三さんに似ている、という点であることが不憫でならない。

「ちょ、落ち着いて、ここ図書館!」

「三井先輩が訂正してくださったら今すぐにでも!」

 頬を紅潮させて俺に迫る岬さん。ち、近い。

「ですから私と父では何もかもが違うんです! 同じなのは苗字と血液型くらいなんです!」

 血液型も同じなのか。ああ、この子も感情を表に出して怒ることもあるのかー、近くで見ると可愛い顔してるんだなー、眼鏡外せばいいのにー、などと気押されながらも現実逃避気味なことを考えていると。

「……何してるんですか、先輩、岬……?」

 般若の顔をした保護者が立っていた。



 話を聞くと、もともと二人で来ていたらしく、俺が岬さんに見つかったときは偶然「お花を摘みに」行っていたそうな。戻ってくると俺、岬さんが顔を突き合わせていたから切れかけた、とそう言うわけらしい。

「先輩、岬とキスしようとしていたとか、そういうわけではないんですよね?」

「ない」

「そうです。少し熱くなってしまってつい……」

 保護者の声を聞き、冷静になった岬さんは驚くべき反応速度で俺から離れた。今も若干距離を置かれていることからしても、怒らせてしまったようだ。

「先輩、からかったらいけませんよ? 何か岬に一言あってもいいんじゃないですか?」

 じと目で俺を見る保護者。こちらはまだ疑っているのだろう。少しは信用しろ。

「そうさな……」

 そう言われると何かしたくなるのが人間というもの。

「岬さん、近くで見ると可愛いね」

「な」

「可愛いんだから、眼鏡外したらいいのに」

「……はぅ……」

「機械的に無表情を作るんじゃなくてさ、さっきみたく感情を表に出して……ってうぉう!?」

「せ・ん・ぱぁ・い? なに口説いてるんですかぁ?」

 笑顔が怖いよ。戦車が裸足で逃げ出すくらい怖いよ。

「じゃ、じゃあな二人とも、また今度!」

 三十八計逃げるが勝ち。これは敗北ではない、戦略的撤退なのだ。

「あ……。ちっ、先輩を逃しました」

「…………」

「岬?」

「ルリ」

「どうしたの?」

「……私、男性にあんなこと言われたの、初めてです……」

「―――っ」





 後日譚。

「……娘が別居したいと言い出したんですが、どうしたらいいんでしょうかね」

 ……あれ? もしかして俺が原因?


十二時間耐久カラオケ(アニソンしばり)誕生パーティーは死ねますね。しかも途中なぜか巫女服に着替えさせられたりするオプション付き。誰かあの写真を消去してください。

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