第五十話 話
「保護者、話がある。今から言うところに、一人で来てくれないか」
「……え? 先輩それってどういう……」
「頼んだぞ」
「あ……は、はい!」
「とまあ、こんな会話で呼び出されたのにもかかわらずですね」
「ああ」
「どうして! 私は吉野家にいて! しかも先輩以外にもう一人いるんですか!!」
そう怒鳴りたてるな、他にもお客さんはいるんだから。いくら入客が少ない時間帯とはいえ、貸し切ってるわけじゃないんだぞ?
「ふーっ、ふーっ」
「猫かお前は……大体においてだ、相談は清水から持ちかけられたからだし」
「それならそうと電話の時に言ってください! てっきり……」
「てっきり何なんだ?」
「うるさいです先輩! それで用件はなんですか?」
「それは俺から説明しよう」
「くだらない用件でしたらその人に襲われたと大声で叫びつつ北高周辺を練り歩きます」
「うわー、清水の人生、かなりの危機的状況にあるんじゃないか?」
「人ごとか! 人選間違えてるぞ三井! この娘危険だ!」
「いやー、だがこんなこと頼める女子他に見当たらんしな」
「…………」
「保護者くらいなんだ、理由も聞かず付き合ってくれるのは……。感謝してる。ありがとうな」
「…………」
「本当に嫌なら俺なんかの相談断ってもいい。もちろんそれで恨んだりもしない……。ただ、できるなら手伝ってほしいというのも事実だ。……駄目かな?」
「……先輩……。いえ、私先輩のためなら別に構わないです……」
「おい、話続けていいか?」
「……空気読んでください、名古屋清水口の美宝堂さん」
「また東海地区限定でしかわからないネタを……」
美宝堂とは、「名古屋清水口の美宝堂へどうぞ!」のフレーズでおなじみの、眼鏡をかけた三世帯家族が出てくる老舗のCMである。東海の人間はこのCMに出てくる子供(現在はいい大人)と共に成長してきたと言っても過言ではない……。まあそれはそれとして、なぜに保護者は急に不機嫌に戻ったんだ? そこそこ機嫌がよくなったように思えたのに……? 保護者が読めといった空気が俺も読めていないな。黙っておこう、馬鹿にされるのも嫌だし。
「俺は彼女が欲しいんだ! そのための指南をお願いしたい!」
「彼女が欲しいなら性格矯正プログラムでも受けて、品行方正公明正大場の空気を読める性格を少しなりとも獲得してから出直してください」
「……保護者、清水はこれでも繊細だから。あんまり言いすぎると泣きだすぞ。こんな場所でも」
だって早くも涙目だし。吉野家で泣きだされたら俺には如何ともしがたい。今でも結構店員の目が厳しいのに。




