第五話 オーディオ
「なおくんっていつも、どんな音楽聞いてるの?」
「なんだ藪から棒に」
「いや、なおくんっていつもイヤホンを耳につけてる印象があるからさ。移動中はともかく、それ以外の時にも」
確かに、目上の人と話すとき以外は、たいていつけているかもしれない。
「一万五千円もしたからな、このオーディオは。元は取ってくれないと困る。それに、だ」
「それに?」
「やかましい奴から話しかけられて、会話をしたくない時には、これを付けていることでスルーすることができる」
「やかましい奴?」
「旦那、どこのどいつだ? 旦那に対して口やかましく何度も話しかけてくる奴というのは」
「自覚症状なしにその言葉を発しているなら、脳外科に急行することを勧める」
「まあ、俺なわけだが」
「わかってるじゃねえか」
「当然。俺は旦那の好きな漫画から、もっとも恐れているものまで熟知しているからな」
なんて嫌な情報通だ。記憶操作して抹消したい。こう、頭を思いっきり殴ったら記憶飛ばないかな。斜め四十五度くらいから叩いたら、義人の脳みそも昔のテレビみたく調子が多少良くなるかもしれない。
「でも旦那は律儀にも、俺のボケには毎回反応して突っ込みを入れてくれるではないか」
「ほっておいたらどこまでも増長するだろうが。貴様は」
「わかってるなあ、流石生れながらの突っ込みマシーン」
「人を突っ込み以外に能のない機械扱いするなよ!」
ぐだぐだと義人と話していると、タツミが思いついたように聞いてきた。
「じゃあ、杉田君はなおくんの趣味嗜好を知ってるの?」
「おう、好きな漫画はラストイニング(野球漫画。スピリッツに掲載)に学園革命伝ミツルギ(ギャグ漫画。絵が綺麗)。もっとも恐れているのは実の姉さん(理由は言わずもがな)だが、他に何か知りたいことはあるかね?」
「俺の個人情報駄々漏れ!? プライバシーの侵害になるから黙りやがれ! しかももっとも恐れているものはお前も一緒だろうが!」
「いや、全世界の姉を持つ弟がそうだと思うな、うん」
「……そうなのか?」
「いやいや! そんなことないからね!? なおくん正気に戻って!?」
「……とまあ、旦那の恐れているものは実の姉さんなわけだ」
「ふむふむー、なるほどー」
「石井も急に出てきて、人の個人情報を収集してんじゃねえよ!」
「人生何事も勉強だよー」
「その知識が将来役立つことなんてないから!」
「……脅迫材料ー?」
「さらっと恐ろしいことぬかしてんじゃねえよ!」