第四十六話 別離
保護者と健三さんの娘さんは、これからまだ準備が残っているらしい。そのため、俺と義人に必ず観に来るように念を押してきた。
「絶対、ぜーったい来てくださいね!?」
「はいはい」
「絶対ですよ!? 杉田先輩、必ず連れてきてください!」
気合入ってるな。
「そこまで言われたなら行ってやらんこともないが、出し物は何なんだ?」
それを教えてもらわんことには、どうしようもない。
「それは秘密です」
何故だ。
「それも秘密です」
「……義人、別の場所回るぞ」
「先輩ー、いいじゃないですかー」
すがるような目つきで俺を誘う保護者。若干涙目である。
「……仕方ない、行ってやろう」
「弱いなー、旦那」
うるさい、ほっとけ。
「……先輩、また後で会いましょうね……」
「はいはい」
「いい加減にしてください、ルリ。何回別れのあいさつをすれば気が済むのですか」
「でも、せっかくの機会なのに……」
「クラスの面々に怒られますよ。ただでさえ、いい意味でも悪い意味でもルリは目立ってるんですから」
やっぱり目立ってるのか。
「……健三さんの娘さんも大変だな」
「それと三井先輩」
「なんだ?」
「岬でいいです。あの親の娘と言われるのは一々気に障ります」
健三さん泣くぞ。
健三さんの娘さん……改め岬ちゃんが、ルリを引きずって行く。襟の裏をつかんで、文字通り引きずって行くのは慣れているのだろう。あの子も苦労してるんだろうな……。
「あの二人は、俺たちのような名コンビみたいだな」
「いやいや、どう考えても岬ちゃんが一方的に苦労してるだろ」
その点では確かに俺たちに近いかもしれんが。
「で、旦那? これからどうするよ? 俺は腹が減ったんだが」
「忘れたか義人。この中学は食い物関係の出し物は禁止だろ」
衛生上の関係でいかんらしい。単に教師陣が面倒だからなのでは、と疑ったのは昔の話。
「旦那こそ忘れたか。一つ飯が食える場所があるだろ?」
「そんなのあったっけか……?」
公立中学であり、九色があるため、学食も購買もない。だから食うものなんて……。
「あ」
「……思い出したか。そう、一つだけあり、しかも無料で食える場所……それが家庭科部の本拠地、調理室だ!」
「せこいな」
「旦那に言われたくはない」
この後、義人は調理室で無料配布していたケーキを食い荒らすのだった。全くもって迷惑な客である。
mixiにて読んでくださってる方からメッセージもらいました。尻をたたかれないと書く気になれない自分は駄目人間ですね、わかります。