第四十三話 理解
「おい、文化祭だってのにもめ事は止め……」
注意をしようと現場に向かうと、遭遇したのは予想外の状況だった。
まず、真黒な服で身を包んだ女の子。これは先ほどの占い師だろう。いてもおかしくない。
次に、理由は知らないが若干怒り気味の保護者。まあ、こいつはここの生徒だ。いてもおかしくはない。
最後に、我が親友である義人。きっと、もう占いが終わって暇になったのだろう。そう考えれば、ここにいることに疑問をさしはさむ余地はない。
問題は、保護者が占い師を押し倒すように覆いかぶさっており、義人がそれを止めるでもなくニヤニヤと笑っていることだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
誰も声を発しない。かといって俺も何か言えるほど、状況を整理しきれていない。
「……先輩」
沈黙を破ったのは保護者だった。少しばかり乱れた制服を直しつつ、俺に話しかけようとする。
「……いや、何も言わなくていい」
情報を整理した結果、導き出される答えは一つ。保護者に言わせるべきことではない。
「あの……これは……」
「空気読んでなかったよな……。うん、保護者がそういう趣味を持っていたとしても、俺はできるだけ態度を変えないよう善処する」
「……ひょっとしなくても誤解してますよね?」
「あのだな、同性愛は日本では市民権を得ているとは言い難いが……頑張ってくれ」
「やっぱり誤解してる!?」
「もういいんだ、何も言うな……」
「違います! そういうんじゃないんです! 私は先輩一筋ですから!」
「……? だがしかし、義人がいるのに止めてないってのは……」
「うむ旦那。この子らは喧嘩していたわけではないぞ?」
「杉田先輩も煽らないでください!」
「……じゃあ、その占い師の子は……」
「……ルリ、優しくしてね……?」
「義人、ここは見てやらないのがマナーだろう。別の場所行くぞ」
「了解、旦那」
「だから違うんですってば―!」
数分後、興奮してしまった保護者をなだめることに成功した。冷静になったところで質問を開始する。
「……で、同性愛出ないなら、なぜ押し倒したりしたんだ?」
「それは……」
「私が段取り通りに仕事をしなかったからですよ」
「……そのベール取ってくれる?」
「はい」
「……ああ、健三さんの娘さんだったのか」
「はい、いつも父が迷惑をかけております」
「…………」
フォローできねえ。