第四十二話 館
義人の勧めに従って、占いの館とやらを体験してみることにした。
「どっちから入る? 義人から行っとくか?」
「んー、そうだな。その方が都合がいいな」
「何の都合だよ」
その問いには答えず、義人は薄暗い闇の中に消えていった。うむ、占いの館というだけのことはある。ムード作りはほぼ完ぺきだな。暗幕が不思議な気分にさせてくれる。
「次の方どうぞー」
「む、はいはい」
考えているうちに順番が回ってきた。まあ、義人の次だったんだから、すぐ順番が来るのは当然なのだが。
「……我らの館へようこそ。……あなたは何を占って欲しいのですか……?」
くぐもった声、黒いベールで顔を隠した様子は雰囲気抜群。中学の出し物だと忘れてしまうような手の込みようだ。
……そして、あるいは保護者が占い師にでも扮して、何かしてくるかとも覚悟していたが、そんな様子はなさそうだ。疑心暗鬼にとらわれ過ぎなのだろうか。疑いすぎることはよくないし、少しは反省しておこう。
「そうだな、じゃあ二年後の受験に関して」
「と言いたいところですが、私が占って欲しいことを言い当てましょう……恋愛事について悩んでますね……?」
「いやだから受験について」
「なるほど、高校に入って初めて体験することが多くあったようですね」
「受験」
「それでは私がその解決法について占って差し上げましょう」
駄目だこいつ。人の話を聞いちゃいない。
「……まあ、それでいいです」
俺が十六年程度の人生で学んだことの一つは、ムキにならないこと、大人の対応を心掛けることだ。諦めてるだけだろ、とか突っ込んではいけない。
「……ふむ、あなたは複数の女性から告白されて悩んでいるようですね」
「!?」
置いてあった水晶をのぞき込んだ数秒後、占い師はこう言い当てた。……こいつ……できる……!?
「なぜそれを……」
「……そうですね……。……そう、星は何でも知っているのですよ」
間があったような気がしたのは気のせいか? ……決め台詞か、決め台詞を考えていたのか?
「……一人は幼なじみ、一人は後輩と見ましたが」
占い師こええ! 個人情報丸わかりなのか!?
「……どうすればいいんでしょうか」
自然と敬語になってしまう俺。この子も後輩なのだろうが。
「そうですね……なすがまま、自分の心のままに動くのがいいでしょう」
でもアドバイスは適当だ!
「……ふむ、失礼、少し席をはずします」
何を思ったか、急に占い師が立ちあがった。
「……例の二人のことを妄想しつつお待ちください」
しねえよ!
数分経っても占い師は戻ってこない。一体客を待たせて何をしているのか……」
「―――!」
「ん?」
占い師が出ていった扉から、声が聞こえた。……あれは……怒鳴り声?
「なんだよ……文化祭で穏やかじゃないな……。行ってたしなめてくるか」