第四話 昼飯
「旦那、俺は思うわけだよ」
「何をだ。この裏切り者。貴様が原因で昼飯がなくなってしまったのをどうしてくれる」
朝っぱらから、よくわからん出来事が続いたが、一番の悲劇はこれで決定だ。その根本である義人は、今は俺の手によって足が地から浮いている。ちょっとは苦しいはずなのにとり乱さない義人はさすがだ。常日頃、義人の姉さんからもっと酷い教育(という名の虐待)を受けてきただけのことはある。俺の渾身の脅しも、いつものと比べれば、子猫がじゃれついてきた程度の認識にしかすぎないのだろう。どれだけ痛みに塗れた少年時代を過ごしてきたんだって言う話だが、実際問題やつには動揺の欠片もないのだから困る。
「なおくん、落ち着きなよ……」
こういったことに慣れていないタツミは、おろおろするばかりで何もできないようだ。何かされても困るが。
「冷凍食品に彩られた昼食をとるのは悲しいことだと思わないかね」
「んぬ? 」
「冷凍食品には食品添加物が多く含まれている。その食品添加物は旦那の体に染み込んで、将来旦那の障害になるのはほぼ必定! 」
そんなことを無駄に熱いテンションで述べられても困るんだが。
「確かにうちの母さんの作る弁当は冷凍食品が大半だが……それを理由に俺に購買のパン派になれと? 購買のパンにだって保存料くらい使われてるだろ」
そもそもあの戦場で十分な量のパンが捕獲できるとは思えない。今まで購買でパンを買うことなど、練習で死にかけた後、人がいなくなってから買うくらいしかなかったので、歴戦の勇者たちと違って経験値が低い。その経験値の低い俺が昼のピーク時に購買に挑むなど、レベル10くらいで大魔王ゾーマとの決戦に臨むようなものだ。無謀すぎる。
「そこで提案するのが手作りの弁当だ! 」
「朝から自分でそれを作れと? 朝からそんなことしてる時間もないし、親に頼むのも気が引けるな」
「そこで紹介するのがこちら! 」
「通販か」
「旦那を想ってくれている、心憎い後輩に作ってもらう愛情たっぷりのお弁当だ! 」
「はあ? 」
「……いや、だからさ、今日保護者ちゃんに会わなかったかね? 」
「会ったな」
「何か渡されなかったかね? 」
「渡されてないな」
「…………」
「…………」
「ではまた来週」
「まてや」
「ああーーーっ!!! 」
「うるさいですよ、ルリ」
「愛妻弁当、先輩に渡すの忘れたあ! そのためにわざわざ先輩の家に行ったのに! 」
「それはご愁傷様です」
「うわーん、やけ食いしてやるー! 」
「太りますよ」
「…………」
「聞こえないふりしなくても……」
絵が……上手く……なりたい……。