第三十六話 歌
「当然だが旦那の歌を作ってみた」
「作らんでいいし、嫌な予感しかせんから歌わなくてもいい。ってか歌うな」
「聞いてください、《旦那の歌》。……ミュージックスタートゥ!」
スタートゥってなんだ。ノリノリか。ノリノリだとそうなるのか。止めても聞かないのは想定内だが、突然バックミュージックが聞こえてきたのには驚いた。振り返るとそこには石井。余計な事を……。
「〜♪」
……しかも曲はサザ○さんのテーマかよ……。せめてもっと格好いい曲にしてくれ。
「先日旦那の休みに〜、付〜け〜てた〜ら〜」
「待て! いきなり問題発言が飛び出したぞ!?」
なぜナチュラルに後をつけることを歌詞にしてるんだ!? 音源止めろ、石井! そう思いつつ石井を見ると、ノリノリで踊っている。駄目だこいつ、早く何とかしないと。
「特売 にんじん 見つけーて ご満悦」
ほっとけ! 別にいいだろそんなこと!
「キャベツもたまねぎもー じゃがいもぶたにくもー」
「今日ーは肉じゃがかー つぶやく旦那萌えー」
やかましい! その食材が安くて出来る料理なんて肉じゃがかカレーくらいなもんだ! サンドウィッチマン(一昨年のM-1覇者)も言ってただろ!
「三井萌えー」
「うるさいぞ石井! いいだろ別に! しかもその日の夕飯、実際に肉じゃがだったんだから余計に!」
く……、とんだ屈辱だ。一体何でこんな恥ずかしい思いをしないといかんのだ。
「大体義人も、どうして俺をつけようなんて考えた!?」
そもそもそれが問題だ。そんなことをする意味がわからない。
「いやー、偶然だよ偶然。おっと」
「……何か落としたぞ。……ってなんだこの写真!? まさに俺がにんじん持ってる写真じゃねえか!?」
「なるほどー、確かにご満悦だねー」
「写真撮るのは構わんが、なぜに隠れて、しかもそんなとこを撮るんだ? やっぱ脅迫のためか?」
「イッシーじゃあるまいし、そんなことには使わんよ。悪用はしないから安心してくれ」
「その言い方は引っかかるなー。まるで僕が脅迫に写真を使ってるみたいじゃない―」
その通りだろうが。否定する材料が見当たらん。
「あくまでー、あれは交渉の一環だよー」
……、石井はともかく、いくら考えてもわからん。一体義人がどうしてそんな写真を?
数日後。
「杉田先輩、頼んでたものが撮れたって本当ですか?」
「うむ。これを見るがいい」
「…………。本当に先輩が笑ってる写真だ……」
「旦那は写真に笑って写らないからな。隠し撮りでもせんと手に入らん。もっとも笑うこと自体少ない気もするが」
「…………」
「どうした保護者ちゃん。報酬なら別にいいぞ? 今まで通り俺たちを楽しませてくれれば」
「……それも引っかかりますが、複雑です……」
「なんで?」
「……私の魅力って、人参に負けてるんでしょうか……」
「それは違うな」
「どういうことです?」
「特売の人参に負けたんだ」
「……まさか特売の人参に負ける日がこようとは、思いもしませんでした」
「まず競うことがありえんわな」
ルーバランさんの小説で、この小説を取り扱ってくれるそうです。ありがたいことなので宣伝。
「タスキ〜雑草達の走り〜」、ぜひご一読を。




