第三十五話 龍
「旦那、ドラゴンっているよな」
「お前の脳内にはな。実在はしないだろ」
藪から棒に。何を言ってくるんだこいつは。
「言い方を変えよう、龍っているよな」
「訳しただけじゃねーか。で、なぜにそんなことを聞く?」
本当に言い方を変えただけなのに呆れつつ、尋ね返してみる。
「旦那は親に、質問を質問で返すよう教わったのか?」
「……とりあえず殴っていいか」
ストレス解消には、義人をどうにかするのが一番手っ取り早い気がする。
「冗談だ冗談、旦那は頭が固いなあ。そんなんじゃ彼女できないぞ……ってすでに二人候補がいるな、はっはっは」
「……そういうことを言うんじゃない。俺だって悩んでるんだからな」
「世の中のもてない人類に暗殺されるぞ。クラスで言うなら清水みたいな」
「あの暑苦しいのが集団で攻めてこられたら、生きて帰れる保証はないな……。大体、義人はどうなんだ。お前だって彼女はいないだろ」
「何言ってるんだ。俺には彼女いるぞ?」
何!?
「そうだったのか!? そんな気配感じなかったぞ!?」
衝撃の事実発覚である。義人のことなら大抵知っているつもりだったので、かなりショックだ。
「水くさいな、そんなことなら今度紹介してくれよ。いやー、あの義人が……」
「わかった。なら今日にでもうちに来てくれ」
「……? どうして義人の家じゃないといかんのだ?」
「いやー、俺の彼女は恥ずかしがり屋で、画面の中から出てこないんだよ」
「ところで、龍は各地で伝承が残ってるらしいな。案外、昔は恐竜以外にもそういうのがいたのかもしれん」
「強引に話を戻した!? そして俺の彼女はスルー!?」
やはり義人だった。このアホさは間違いなく俺の知っているものである。だから一々突っ込むのも面倒なので、華麗にスルー。
「まあいいや。龍って……あれって、爬虫類なのか?」
「……飛んでるし、鳥なんじゃないか?」
「確かに。恐竜は鳥に進化したって説もあるくらいだしな」
「へー、そうなのか」
相変わらず博識だ。それなら俺に聞くなよ、とも思うが。
「だが、いろんなドラゴンの絵は間違いなく鱗があるじゃん。あれはワニに近いものがある」
「言われてみればそうだな。うーむ、そう考えると爬虫類に思えてきた……」
鳥とか爬虫類の間が龍なのか? で、進化の途中を見たのが絵を描いたとか……? よくわからんなあ。
「……しかし、一体どうしてそんなことを聞いてくるんだ? どうでもよさそうなものだが」
「何を言ってる! 重要な問題だ!」
「うお!? ど、どうしてだ?」
妙な気迫を持って、迫ってくる義人。正直怖い。
「ドラゴンの擬人化娘が爬虫類か鳥かじゃ大違いだろ! 全くこれだから旦那は……おーい、旦那、どうして蔑んだ目で俺を見る?」
……義人ほど才能と能力の無駄遣いをする奴はそういないんだろうな……。