第三十四話 密室
「静かだな」
「……そうだね」
「暗いし」
「…………」
「何か起こりそうだよな……ってどうした?」
「な、何が?」
「何がって……何故に俺から距離をとる?」
明らかに離れているのに、何がもなかろう。
「いや、だって……二人きりだし……」
「二人きりだな」
「誰もいないし……」
「二人きりだからな」
同じことを繰り返されても。
「だ、だから……」
「だからなんだ。問題があるなら、はっきりと言ってくれ。頼むから」
察するのは得意な方だと自負しているが、情報が少なすぎるので答えは出せない。
「その! なおくんがムラムラしだしたら、私には逃げ場所がないわけでね!?」
……ムラムラ、ておい。
「あのその、なおくんを信用していないわけじゃないんだけどね!? なおくんが男の子であるのも否定しがたい事実であってそういうのはもうちょっと段階を踏んでからというか正式にお付き合いしだしてからというかまさかこんな事態になるとは思ってもみなかったというか!」
「落ち着けタツミ。妄想が駄々漏れになってるぞ」
暴走したタツミの言葉を意訳すると、意外と信用が低いことが判明した。ちょっとへこむな……。仕方のないことだといえ。
「ああもうどうしよう! 杉田君も石井君もみんなおもちゃにしてるとしか思えないよ……!」
「待て。やはり奴らが絡んでいたか」
「あ……」
タツミが嘘をつけない性格で助かった。義人が絡んでいるなら話は早い。
「……出てこい馬鹿野郎。十秒以内に出てこなかった場合、俺は貴様に報復処置をとる。十」
「すいませんでした」
「早っ!? そしてなんでそんなところに!?」
当然見てたんだろうとは思ったが、跳び箱の中に隠れていたとは予想外だ。
「……さて、言い訳を聞こうか」
「興味本位でやった。反省はしていない」
「随分ふてぶてしいなおい!」
悪いことをした自覚などないのだろう。……大多数が楽しむためなら少人数を犠牲にする男。それが義人だ。
「でも杉田君! 実際何かあったらどうするつもりだったの!?」
「それは大丈夫だ」
「どうして言いきれるの!?」
「旦那のヘたれっぷりは全世界が認めるほどだ。やれる甲斐性があるわけがない」
「……貴様そこになおれ、教育し直してやる」
誰が甲斐性なしだ馬鹿。
その後、計画を洗いざらい話させた上で、石井とともに一時間近い説教をくらわせてやったのだった。
……効果などないのだろうけど。