第三十話 実行
昨日義人から「明日は旦那一人で歩いて登校しろよな、俺も石川さんも用意あるから(笑)」とのメールが来た。その文章のどこに笑える要素があるというんだ。あれか、馬鹿にしてるのか。「俺たちはお前と違って忙しいんだ、いいよな暇な人は。うらやましいぜ(笑)」的な(笑)なのか。そうだとしたら義人とは一度じっくり話し合う機会を設けないといけない。
まあ、それはさておき今日は久々に一人で、しかも歩いて登校する。義人の命令に従うのもバカ臭いが、常日頃はよく話す奴らがいるので、こういう機会は珍しいかもしれん。じっくり登校するかな……などと考え、徒歩通学したのが運の尽きだった。……もともとあってないような運なのが悲しいところだが。北高への道を半分ほど行ったところだった。
「い、いっけなーい。ちこくちこくー」
……よく聞き覚えのある声が、物凄い棒読み(これ以上はないほど。例えるなら声優経験のないアイドルが外国映画に吹き替えたレベル)で聞こえてきた。
「……何やってんだ、タツミは……?」
用事があるんじゃないのか? それとも、それで遅刻だと騒いでいるのか? そんなことを思いながら声がした曲がり角付近に行くと、
「えい!」
「ぐはあ!?」
なんか勢いよくぶつかってきた!?
「……何してんだお前は……」
ぶつかった拍子にタツミから飛んで行ったものを見て、一瞬思考が停止する。
……なぜに食パン……?
「…………」
「…………」
よし、状況を整理してみよう。
1義人からメールがきて、一人で学校に歩いて行けと指定される。
2指示通り歩いて行くと、いないはずのタツミの声(棒読み)がする。
3見に行ったら、激突。
4周りには食パン。
なんだこのカオスな状況。
「……あっ、い、いったーい、どこ見てるのよー」
「……どこって、まあ、お前を見ようとしたんだが(あまりに不審だったから)」
「えっ、私を……見ようと……?」
いや別に深い意味はないが。
「それはそうと、急いでるんじゃないのか?」
ちこくちこくー、と声に出していたくらいだ。理由は知らんが何かあるんだろう。
「そうだね……。うん、行ってくる……」
何と無くボーっとした状態のまま、タツミは学校へと向かっていった。
……あまり急いでいるように見えないのは気のせいなのだろうか。
「まあ、とりあえず……」
こんな不自然なことが起こるのは、馬鹿が暗躍しているからだろう。悲しいことに今までの経験から、それはほぼ100%なのである。