第二十三話 守護
涙でかすむ私の目の前に颯爽と現れた先輩は、敵わないことを知りつつ勇敢に立ち向かいました。しかし小学生の二学年差は、当然の如く先輩を苦しめます。先輩は顔や腹、体の至るところを殴られ、蹴られるなどの暴行を受けます。それでも、倒されても倒されても幾度となく立ち上がる先輩にいら立ちを覚えたのでしょう。その六年生は先輩にこう問いかけます。「なぜそこまで無謀なことをするのか」と。すると先輩はこう答えます。「女子供は男が守るものだろう」
「涙で曇ってはいましたが、その時の先輩は輝いて見えました。その時に思ったのです。私はこの人に着いていこうと」
「ふーん、そんなことがあったのか」
「杉田君も知らなかったの?」
「俺はソフトボールはやってなかったしな」
転校初日からうちに来るような、天上天下唯我独尊幼なじみ義人でも、接点がないところはあるのである。大体その時って……
「で、その後はどうなったの?」
「私は巻き込まれ、気絶したのでその後の展開はわかりません。しかし再び目が覚めた時にはその六年生はもうおらず、傷ついた先輩だけが残されていました」
「…………」
「まだ髪が少し痛みましたが、それ以外私に目立った外傷はありませんでした。きっと先輩が守り抜いてくれたんでしょう」
「…………」
「あれ、どうした旦那。急に黙っちゃって」
「嫌なことでも思い出したー?」
……ええ、その通りですとも、はい。
「実のところどうだったんだ、旦那?」
それは。
「……手も足もでなくて、死にかけたところを救ってもらった……」
「ああ、大人に?」
それならどれだけよかったものか。
「……うえ」
「ん? なんだって?」
「……親愛なる姉上様に救ってもらった」
その小学六年生は、心と体に大きな傷を負ってお帰りいただきました。……以前そいつとふ偶然すれ違った時の恐怖の表情は忘れられん。きっとトラウマになってるんだろうな……。
「よかったじゃん」
「よくねえよ!」
貴様は女の子一人守りきれんのか、とむしろそれまでに負った傷よりも、姉ちゃんの拷問の方がダメージが大きかった。……あれがキレたら、夜叉も裸足で逃げ出すんじゃなかろうか。俺は足がすくんで逃げることすらできんだろうけど。
「……あ。そういえば、旦那はなんでそもそも人気のない林の中にいたんだ?」
「む、そうですね。どうしてああも都合よく登場できたんですか?」
「…………」
「答えられないのー?」
人気がない、人から見られることのない場所ですること―――となれば答えは一つ。
「……立ちションしてた」
「「「「…………」」」」
……五人の冷めた視線がいたたまれない。