第二十二話 回想
「……そう……。あれは私が小学三年生のころになります……」
当時から〈よくできる子〉として、周囲の大人たちや男子から、ちやほやされていた私は、その実同級生の女子からは妬みの対象とされていました。中学に入学してから出会った岬のような親友もおらず、教室内ではいつも孤立。プライドの高かった私は、自分から友達を作ろうともせず、ただ無意味な毎日を過ごす生活を送っていました。
しかしそんな私に転機が訪れます。それは言うまでもない、先輩との交流の始まりです。
「ん? でも保護者とは通学団一緒だったよな?」
「旦那、低学年の頃から女子と話さなかっただろ? 旦那には同じ通学団といえど交流なんてな気に等しかったじゃん」
「それもそうか。……でも待てよ? それならどうして俺は保護者と話すようになったんだったっけか……?」
「やっぱり忘れてますね……。いいです。今から思い出させてあげますから」
その日、私は兄のソフトボールチームの観戦及び応援に駆り出されました。興味もなかったのですが、特にやることもなく、親に兄の弁当を持って行くことを頼まれ、仕方なく行ったというのが実情です。しかし、それが私に大切なものを与えてくれました。
先発した兄と相手投手、二人の好投で最終回まで両チーム無得点のまま進みますが、力尽きた相手投手を打ち崩した兄のチームが勝利を収めました。しかしその結果が気に食わなかったのでしょう。兄の妹であると察した相手投手は、私を人目のつかない林の中に連れていったのです。兄のチームメイトが誰かなど覚えていなかった私は、兄に呼ばれていると言われ、疑問を抱くことすらなかったのですからお笑い草です。
「……いや、小三で警戒心バリバリの方が不気味だ」
人間不信にすぎるだろ。同じ小学生同士ならなおさら。
「それでも万が一のことがあってもおかしくはありませんでしたから。それに小三の頃の私から見れば小六男子は大人に近い存在でしたし。本当に危なかったんですよ、その時は」
その男は大声でがなりたて、私の髪をつかんだ上、強い力で引っ張ってきました。男女の力の差、小六と小三の体格差もあり、私には抵抗らしい抵抗ができませんでした。周りに人などいない。助けを求めても届かない―――そんな恐怖感も手伝って、私は惨めにも泣き出してしまったのです。
「しかしそんな絶望的な状況の中、ヒーローのように現れたのが先輩だったのです!」
「…………」
なんだろうか。うっすらと思いだしてきたような……。