第十五話 とばっちり
近況報告から無駄話まで、様々な話をネタに再会の喜びを分かち合っていた俺たちと先生だが、授業開始の時刻が迫ってきた。
「おお、もうこんな時間か。授業始まるから、用事があるなら早めに言ってくれ。なんなら授業後でも構わんが」
「それがですね、用事というかお願いというか……」
先生への頼み事を口にすると、驚くことに即断で許可をもらえた。
「いいんですか、こんな簡単に?」
「いいかどうかは、むしろこっちがお前らに聞きたいくらいだ。どうしてこんなことを?」
「後輩に頼まれましてね」
「……だれかは知らんが、いい先輩をもったな」
「……というわけで、今日授業を手伝ってもらう、お前らの先輩にあたる直樹と義人だ。質問があったら俺だけでなく、この二人にも聞くように。この二人は現役北高生だから、中学レベルの問題なら大抵答えてくれるだろう。科目は問わずにな」
神田先生が塾の生徒たちへの説明を終えると、教室はにわかにざわつき始めた。まあ、去年まで同じ中学に通っていて、顔くらい合わせたことがある(義人は良くも悪くも校内では顔が広く、有名人だったためその人数はかなりの量)だろうから仕方がないといえば仕方がない。保護者に関しては、まるで見てはいけないものを見たかのように口をパクパクとさせてい絶句している。酸素を求める金魚かあいつは。
「ど、ど、ど」
あ、ようやく言葉が出るようになったらしい。……しかし、ど?
「……どういうことですかこれは――――っ!!!」
保護者はパニックを起こしていたらしい。起こすのは構わんが、狭い教室で大声を出さんでくれ。響くから。塾にも近所の住人にも迷惑だから。塾がこれで周りとぎくしゃくしだしたら、どう責任をとるつもりなんだ全く。
「えー、騒ぐな。特に瑠璃。隣の席の宗平が死にかけてるから」
かわいそうに、何の関係もない井上は耳がどうにかなってしまったらしい。「……とんだとばっちりだ……」などとぼやいているが、それも当然だろう。犬にでも噛まれたと思って笑って流してもらうしかない。
「流せませんよ!」
おっと、生暖かい目で見守っていたが、井上の方はさすがに理不尽だと感じているらしい。
「確かに宗平には何の責任もないかもしれない。しかしながら、世の中には不可抗力というものがあってだな……」
「少なくとも今回の事件は防げました! 先輩が古木に一言前もって声かけとけばよかったんですから!」
「ソレハキヅカナカッタナー」
「嘘だ! 違和感ありありじゃないですか! あからさまに不自然です!」
「だって恥ずかしいじゃないか!」
「その結果がこれですよ!」
それを言われると、ぐうの音も出んな。