第十三話 学び舎
ある休日の午後、俺と義人はかつて毎日のように通った塾の前に来ていた。
「ここに来るのも久しぶりだな……」
「神田先生は元気かね?」
北高に合格するため、義人たちと共に精進してきた塾。その風貌は以前と変わらない様子だった。
「しかし中身も一緒だとは限らん」
「実際に見て確かめるのが吉だな」
義人の言う通りだ。勝手知ったる嘗ての学び舎。ずかずかと遠慮なく入っていった。随分と騒がしいので、授業はまだ始まってないらしい。
「あれ……三井先輩に杉田先輩!?」
「俺たちの名を知っているとは……何奴!?」
「義人、そんなノリ必要ないから。……えーっと、お前は……、そうだ! 井上だな!」
「……今、名前忘れてませんでしたか?」
「宗平、仕方ない。旦那は役に立たない知識は覚えていない主義だから」
「フォローになってませんって! 結構ひどいこと言ってますからね!?」
「まあまあ、俺に免じて許してやってくれ」
「三井先輩も同罪です! いやむしろ先輩の方が元凶で、重いくらいですよ!」
まったく、無礼な後輩だ。中学の水泳部時代に、もっと躾けておくべきだったか。
「また何か失礼なこと考えてません!?」
鋭いな。
「ところで、俺たちがここに来たのは用事があるからなんだが……」
「先生呼んできますか?」
「いや、別にいい。こっちから先生のとこ行くから。客として呼ばれたわけでもなんでもないからな」
「神田先生は職員室か?」
「たぶん……今の時間なら。ただ、他の生徒が質問とかに行ってるかもしれんですよ?」
「そうだとしたら待つさ」
「……用事があるんでしょう?」
「用事は金井先生とは関係ない、別件だ。ただ挨拶だけはしとこうと思ってな」
お世話になったし、久々の再会だし。
「旦那がお礼まいりをしたいらしいからな」
「しねえよ!」
「……でも先輩、ここだけの話ですけどね?」
「なんだ後輩」
「先輩二人の話は、神田先生がよく授業の小ネタに使ってますよ?」
「聞いた」
「ここだけの話じゃないな」
「誰から聞いたんですか?」
「「保護者」」
「……最近、妙に嬉しそうなのはそういうわけですか……」
「な、何のことだ?」
「旦那、動揺が見え見えだぞ」
「古木とようやく付き合いだしたんですか?」
「付き合ってないし、ようやくってなんだよ!?」
「……昔からアプローチかけまくってたじゃないすか」
「……そうなのか?」
「旦那、少しは気づけよこの鈍感」