第一話 朝
俺の人生でもトップスリーに入るであろう、激動の一日から一夜明け、俺は朝食をとりながら考え事をしていた。当然例の件についてである。
「……昨日のあれは夢だったんじゃないか……? 」
「おい直樹。朝食中に辛気臭い顔すんな。飯が不味くなるだろうが」
くう、まだ姉ちゃんは帰らないのか。俺だって姉ちゃんと一緒では旨い飯も不味くなるってもんだ。主に精神的圧迫感が原因で。
「ところで、あんた今日から弁当いらないんだって? 」
「……なんですと? 」
そんなことを言った覚えなんぞさらさらないんだが。こちとら成長期の男子だ。いくら食っても食い足りない、ましてや購買のパンだけでは帰ってくることすら、儘ならなくなりかねん。
「は? だってあんた、杉田君が電話で母さんにそう伝えてたぞ? 」
「何!? 」
何考えてやがる、あのバカ!?
「とにかく、あんたの弁当ないから。それだけ伝えとく」
「ちょ……ええ!? 」
母さんも俺に確認しろよ! 息子よりその友人を信用するってどういうことだ!?
「……義人め……あったらとっちめてやる……」
朝から不快指数をここまで溜めてくれるとは、やってくれる……! 台風一過だと思って洗濯をしたら、台風の目に入っただけで洗濯物が全滅した時の不快指数に匹敵するわ……!
「おい直樹、例のあの人だー。迎えに来てくれたぞー」
「……わかった、待っててもらってくれ」
くくく、飛んで火に入る夏の虫とはこのこと……。義人め……生まれてきたことを後悔させてくれる……!準備、着替えも完了、あとは学校に行くだけ、時間も充分……。お仕置きの時間はたっぷりあるな……。
「くおらぁ貴様!よくもまあ、おめおめと俺の前に姿を現せたものだな! 」
「……!? ……ごめんなさい、なおくん……」
「タツミ!? どうしてお前がここに!? 」
「あー、直樹、いけないんだー」
「姉ちゃん、図ったな!? 」
「何のことやらさっぱり」
「とぼけるな!? 義人の話題の後に〈例のあの人〉とか言っておいて悪意がなかったといいきれるのか!? 」
「狙ってやったらどうだってんだ? ああ? 」
タチ悪っ! 開き直りやがった!
「あの……ごめんね? 来ちゃって……」
「別に来るのは構わんが……用件は? 」
「……一緒に登校したくって……」
「……はい? 」
「ダメ……かな? 」
「ひゅーひゅーお二人さん、お熱いねえ」
「黙れこの腐れ外道」
「外道らしくツーショットを撮って近所に配り歩いてやろうか」
「……勘弁してください」
駄目だ、姉者に敵う気がしない。てか勝率0%だ。
「学校一緒に通うくらいいいだろ、とっとと出てけ」
「姉ちゃんは早く下宿へ帰れ」
「九月後半までは残って見物してやるから覚悟しとけ」
そんな嫌な覚悟したくねえよ!
「……それで、なおくん……いいかな……? 」
「……義人を起こしに行くから、奴も一緒になるが……それでもいいなら許可する」
「うん! 」
こうして朝の登校メンバーにタツミが加わることになったとさ。
「……若いっていいねえ……」
「年増の姉ちゃんは家でごろ寝でもしとけ」
「…………」
「……ごめんなさい失言でした殺気を放たないでください……」