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children war  作者: 待屋 西
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第七話 残酷な告白

少し遅れてダイキがやって来た。俯いて考え込む二人を見るとダイキは心配そうな顔をする。

 

「お、お二人さん、朝から暗い顔してどうしたのさ。これからトロに聞くんだろ?」

「いや、実はもう聞いたんだ。それがよお……」

 

ダイキは一通り聞き終わると二人と同じくほんの少しの間俯いていたが、すぐに顔を上げた。その顔はなぜか少し得意そうだった。

 

「でも、でもさ、話から推測するとあいつらは僕たちみたいな記憶の残ったやつらのためにカモフラージュしたんだよね?それなら……」

 

ダイキは目を片方閉じてウィンクしたような表情で続けた。

 

「多分僕たちがここまで早く真実……というか真相?に近づくことは予想できてないんじゃないかな」

 

おお、とレクが嬉しそうな顔をして言う。リョウもその言葉には確かにそうだと頭を大きく縦に振った。 


「そうだ、落ち込むことないよ。この調子でいけばすぐに必ずあいつらに辿り着く。今はただ探し続けよう」

 

リョウがそう言うと三人は拳を握り、互いの拳をぶつけ合った。そして、これからの予定を立てることにした。


「とりあえず、昨日のことを覚えている人がいないか、放課後に聞き込みをしてみよう」

 

そんなダイキの提案に、レクとリョウは首を縦に振る。

 

「じゃあ決まりだね。うーん、それにしても……」

 

何か言おうとして止めたダイキをリョウは不思議そうに思って問いただす。

 

「それにしても?」

「あ、いや、なんか今日、朝から体がムカムカするっていうか、何か違和感があるんだよね」

 

ダイキが頬をぽりぽりと掻きながらそう言うと、レクは目を丸くして口を開く。

 

「おお、実は俺もだ。なんかムカムカするっつうか、ピリピリするっつうか、変な感じがするんだよな」

 

リョウは二人の話を聞いて心配そうに言う。

 

「え、二人とも大丈夫?なんだろう、原因はストレスかなあ、昨日のことで」

 

まあそれならそのうち消えるから大丈夫だぜとレクが笑って見せるのを見て、リョウの胸の奥がざわついた。

 

そんな話をしているうちに、多田先生が教室に入ってきた。

いつもと変わらない、朝が始まる。

いつもと変わらない、一日が始まる。

 

リョウは授業の間、少しそわそわしながら外を眺めていた。

もしかしたら、また昨日のようなことになるかもしれない。今度は皆無事というわけにはいかないだろう。もし、そうなったら、僕さえやつらに従えば皆は助かるだろうか。それなら、僕がそうするしか……。そんな事を考えていた。

だが、少年は怖かった。本当にそうする勇気が自分にあるか。本当にそうできる自信があるのか。そう考えると、怖かった。少年は震える足をどうにか必死に抑えようとしていた。

 

午前中ずっとそんな様子でいたせいか、昼休みに先生に呼び出されてしまった。

 

「おい、リョウ、大丈夫か?昨日からなんか変だぞ?心配事があるなら遠慮なく話せ」

 

遠慮なく話せったって、昨日話したじゃないかとリョウは溜め息をつく。だが、先生の気遣い自体は嬉しく思った。


「大丈夫です。少し寝不足でボーッとしてただけなので」

「……そうか。今日は早く寝てゆっくり体を休めろよ」

  

リョウはありがとうございますと礼をして職員室を出た。なぜかはわからないが、なんだか泣きたい気分になってしまった。早く教室に戻ろう。リョウは早歩きで教室に向かった。

 

そしてその後、そんなリョウに追い討ちをかけるように、一人の少女があることをリョウに告げる。

 

「あの、リョウ君。ちょっと話があるんだけど」

 

そう言って姿を見せたのは、他でもない、ユウカだった。机に突っ伏していたリョウは顔を上げ、彼女の方を向く。昼休みの教室はクラスメイトの明るい声で満たされていた。温かい昼の空気がそこにあった。そんな中で、自分に話しかけた少女の顔だけが、リョウには少し暗く曇っているように見えた。


「えっと、急にどうしたの?」

「その……黙っててごめんなさい。私実は昨日の事覚えてるんだ。リョウ君が助けてくれたことも」

 

その時リョウは、途端に温かく感じていた昼の空気が感じられなくなってしまった。リョウの表情が険しいものに変わる。どうして、どうしてなんだ。ユウカには、ユウカにだけはあの事を覚えていてほしくはなかった。忘れるべきだった。それなのに……どうして。


「あの、本当にありがとう。リョウ君が助けてくれたこと、本当に感謝してる。だからお返しに、私にも何か出来ることがないかって思って」


リョウはそれを聞いて嬉しく思うことはできなかった。悲しい、苦しい、腹立たしい、そんな言葉がリョウの心を振り回し、掻き乱し、埋め尽くした。


そして、リョウは立ち上がり、俯いたまま小さな声で言った。

 

「ごめん。ユウカ。昨日のことは早く忘れたほうがいい」


それが一番いいとリョウは思った。あんな怖い思いをしたことを、その記憶を、残していいわけがない。


「で、でも……」

「いいから早く忘れて」

 

リョウは出来るだけ冷たく言い放った。しかし、ユウカはその言葉が冷たく成りきれていないことを、温かさの有るものであることを、感じとっていた。だからこそ、こう言うしかなかった。

 

「……わかった。でも、リョウ君、無理はしないで。あと、私本当に感謝してる。勿論昨日のこと怖くなかったって言ったら嘘になるけど、でも」

 

少女は、精一杯の笑顔を浮かべて続ける。

 

「いつでも困った時は私に言って。リョウ君の力になりたいから」

 

そう言ってユウカは自分の席に戻って行った。暗く、重く、冷たい風が、昼下がりの夢に溶けていった。

 

 


「ユウカさん、大丈夫でしょうか……」

 

教室の片隅、一人の少女がそれを見守っていた。その少女の手には、季節外れの雪の結晶が握られていた。その結晶は、すぐに溶けて消えてしまいそうな、小さく、脆く、儚いものだった。

 

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