94 鉢合わせ
本日は季節ネタ番外編とこちらで二話投稿となります。(1/2)
・前回のあらすじ
ワールドクエストを始めた。
前回の野良で一緒になったプレイヤーと会った。
そこから浮気が妹にバレた。
「な、なにしてるんですか? 師匠……」
「ふん……こんな所で膝を突くとは、みっともない奴だ」
「アイダリン――とセイか」
残念ながら、今回ばかりは反論の余地がないなぁ……。
領主の屋敷から出て来た人の中に、アイダリンとセイが混ざっていた。
そして、屋敷前で正座させられる僕を、彼女らに見られてしまったらしい。
「むぅ、アイダリン、実はかくかくしがじか――」
「なるほど、――まるまるうまうまですね?」
……なんだか分からないが、二人の間で意思の疎通はできたらしい。
「でもライムさん、これは逆にチャンスかも知れませんよ。恋愛モノに障害は付きものです。その障害の中で、やっぱり誰が一番大切なのかに気付いて、男は愛する女の下へ還っていくものですよ!」
「でも、一時的にといっても、にーちゃが他のオンナに走るのはちょっと……」
「大丈夫! 師匠はヘタレだから、なにも出来ませんって!」
「おいこらアイダリン……。好き放題言ってくれてるな」
背後から近づき、アイダリンのこめかみを拳骨でグリグリとしてやる。
「ひぃ! 痛っ! いたたた――――くない?」
ちっ、VRだから効かないか。
だが、腹立たしいので、全力を込めてグリグリを続ける。
グリグリグリ……
「し、師匠?」
グリグリグリグリ……
「た、確かに肉体的には痛くないんですが、精神的には痛――」
グリグリグリグリグリグリ……
「っていうか、背筋がゾゾゾってしますから」
グリグリグリグリグリグリグリグリ……
「ごめんなさい! やめて、やめてください! 背筋がぁ……背筋がぁっ!!」
……ふぅ、まぁこのぐらいにしておいてやるか。
「Ohh、アイダリン、セイ、コンニチワ!」
「あ、マルちゃん。こんにちわ!」
と、アイダリンとマルタが「イエーイ」とハイタッチを交わす。
――とは言っても、身長差からして、マルタの手は胸の辺りだったが。
「知り合いだったのか?」
「はい、この間、セイと行った東の森突破の野良で、一緒になりました」
ああうん、そうだったのか。
「師匠たちも新クエですね? どうせだからパーティを組みませんか?」
「ああ、それは構わないが」
と、そうしてアイダリンとセイがパーティに参加。これで五人パーティになった。
どうやらクエスト中でも、同じクエストを受けている場合は、進行度の低い方に合わせてパーティを組めるらしい。
とはいっても、アイダリンたちも僕たちもとりあえず領主の話を聞いてきただけだから、進行度に変わりは無かったが……。
「サテ、それでは行きマショウ」
「おーっ!」
なんだか、濃い二人が元気に指揮を取り始めた。
……いやまぁいいんだけどね。
「セイくん、アレはいいの?」
シスコンとして。
「……ふんっ、なんとも言い難いところではあるが――」
「あ、マルちゃんマルちゃん。昨日のマス☆らお見ました?」
「Oh No! NYではリアルタイムで見られないのデスよ。配信を待たねばなりまセン!」
「アレがどうこうなるとは思えんのだ」
「さいですか」
―― …… ―― …… ―― …… ――
ファアートを出て北西。
そこにクエストの目的地である魔力聖域があるという。
どうでもいいが、ペネローザさんの影が薄すぎる。
放っておくと一言も喋らないし、適当に放っておいても勝手についてくる。
……まぁ、NPCなんてそんなものか。
そのまま北西に進んでいくと、ファアートらしくまた森の中に入り、そこには北の森のモンスターであるモグモグ男爵とクレセントベアー、オオリクガメ――
それと西の森のリトルビッツウルフとエテモンキー、アンクレットディアーと、北と西の森エリアに出るモンスターの混成部隊が襲ってきた。
おそらくファアート地帯をクリア出来たプレイヤーを対象にした難易度のようだが、今さらといえば今さらな敵のラインナップなので、特に危うげもなく進んでゆく。
そうして森の中を進んでいった先に、なにやら不気味な洋館が姿を現した。
『ここです。この屋敷の奥に魔力聖域があると、古文書には書かれていました』
これまで空気状態だったペネローザが、ここが目的地なのだと語る。
「……ま、そりゃそうだよな」
森の中にぽつんと一軒だけたたずむ洋館。
ここまで来て、これがクエストには何の関係もないご隠居さんの住んでいる屋敷だと言われたら、こちらが困惑する。
何やらどんよりとした薄暗い雰囲気を出す洋館。
ひび割れた洋漆喰の壁の全面には蔦が張っており、錆付いた門扉に雑草だらけの庭、割れた洋瓦の破片があちらこちらに落ちていて、いかにもおどろおどろしい外観だ。
――だがしかし、その洋館の周りを大勢のプレイヤーが囲んでおり、ロロクの遺跡ダンジョンと同じように、まるで観光地のような状況になってしまっていた。スクリーンショットを撮影する音までもがそこかしこから聞こえる。
「色々と台無しだな……」
「出たばっかりのクエストだから仕方ないよ、にーちゃ」
屋敷前にならぶプレイヤーの最後尾に付き、屋敷の中に入れるまでしばし待つ。
なんだか、これでは遊園地のおばけ屋敷の順番待ちでもしているようだ。
『魔力聖域はあそこです。早く行きましょう』
はいはいペネローザさん。いま並んでますよ。
『何をしているのですか? もう目の前ですよ?』
いや、だから順番待ちしてるんだよ。
『魔力聖域はあそこです。早く行きましょう』
しかしなんだ? この洋館の近くに来たら突然喋り出すようになったな、コイツ。
『何をしているのですか? もう目の前ですよ?』
「うるっせぇッ!」
並んでんだよ! 何? 割り込めって言ってんの? こいつ。
言っとくが日本では割り込み行為は犯罪なんだよ! 列に並ぶのは国民性だけじゃねーんだよ!
「あ……」
つい大声を上げてしまった。それに釣られて他のプレイヤーの視線が僕に集まる。
だが、彼らの眼が語っていたのは『だよねー』という同意の気持ちだった。
「にーちゃ、私たちには見えてないけど、他のパーティも全部、ペネローザを連れてる。コレと同じで、他のパーティでも『早く行きましょう』って急かしてるんだと思うよ」
なるほど……、みんな同じクエストNPCを連れているから、他のパーティの人間にはクエストNPCは見えないようになっているのか。
もし見えたら、ここら一帯ペネローザだらけになって気色悪いことになってしまっていただろう……。
まあ、だったら僕がつい叫んでしまった理由も解ってもらえるか……。
『魔力聖域はあそこです。早く行きましょう』
……だからうるせぇよ。
――
「あの、その声、やっぱりユーシさんでしたか」
――と、声が掛けられた。
知っている。この声は……。いや、まさかこんなタイミングで?
ギギギ、と錆付いたように動かない首を、無理矢理そちらに向けると……。
「あの、お早うございます」
「……ミア」
にっこりと微笑んだミアが、そこにいた。
◇
「ああ……こんにちは、ミア」
そのミアの微笑みは、あの異世界での日々の中でミミアが見せていたものそっくりで……。
「にーちゃ、その人だぁれ……?」
あ、妹さんがもの凄いオーラを出し始めた。
ヤバイ。これ、ものすごくヤバイやつだ。
「あ、あぁ……、この人はその――」
落ち着け僕。そうさ、なにも疚しいことなんて一つとして無いじゃないか。
ミアは野良で偶然出会った、ミミアにそっくりな人だというだけだし、そもそも未来と恋人になったわけではない。
浮気がどうのとか言われる筋合いはまったくもってない。
そうだ、だから僕は堂々としていれば良――――
“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………”
――良いはずなんだけどなぁ……? おっかしいなぁ?
「あの、そちらの方は……?」
「ああ……えと、こいつはライム。僕の妹だ」
うん、妹です。妹なんですけど。
すっ、とライムがミアの前に立った。
「ライムです。にーちゃがお世話になりました。あ、妹とは言っても血が繋がってない義理の兄妹なので結婚できます」
初対面の人になにを主張してるんだ、なにを。
「???」
ほらぁ、ミアがぽかーんとしちゃってるじゃないか。
自重しろ、妹。
「あの、お兄さんが大好きなんですね」
「はい、ゆくゆくは結婚も考えてます」
「そうですか、ふふふ。私は兄弟がいないから羨ましいです」
と、なでなでとライムの頭を撫で始めるミア。
妹さんは嫌そぉ~な顔をしてそれを受け入れていた。
……これは、ライムの発言はミアに、本気とは取られてないようだな。
「あ、それであの、ここまで一緒に来た人達がケンカをしちゃいまして……、パーティが解散してしまったのですけれど、よろしければパーティに混ぜて頂きたいのですが……」
またかよ……。よく解散するな、ミアの入った野良パーティ。
「ほらにーちゃ、下げまん女だよ! そんな女よりわたしのほうが――」
「失礼な事を言うな! この愚妹!」
「さげまん? あの、ええと、中華まんの話ではなくて……、きのこ派か、たけのこ派かでケンカになったんですが……」
またベタな喧嘩理由だなっ!
「……ふむす、ちなみにミアは何派?」
「ポ○キーです」
別会社!?
選択肢としていいのか? ソレ。
「わたしはタラの芽が好き」
根本から違う!?
好きな山菜の名前じゃないから!
★その点ト○ポってすげぇよな、最後までチョコたっぷりだもん。
だからメッセで遊んでるヤツ、だれだッ!!
くそ! 同じクエストを受けているからか、さっきと同じヤツが居るな!?
◇
――「なんか私たち、蚊帳の外ですねー」
「Yes シカシ、この距離感がイイのデスよ」
「あ、ですよねー、わかります」
「ふんっ……くだらん、我の出る幕ではないな」




