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92 ワールド・クエスト開始!

・前回のあらすじ

 長時間メンテだったこともあり、一日中イチャイチャしてた主人公とその妹。

 翌日ログインした時、メンテナンス内容が主人公の目の前に表示される。

「ワールド・クエスト実装? なんだそりゃ?」

「ワールド・クエストか、いったいなんなんだろうな?」


 目の前のダイアログの×ボタンをタップして、表示を消す。


 “ワールド”なんて表記が付いているからには、今までの普通のクエストとは、何かが違うのだろうが……。


 ま、妹さんがログインしてくれば、何かしら知っているだろう、と、僕はロロクの街を適当に散策する――が、


「なんだか人が少ないな?」


 最近はロロクに人が増えてきた――と感じていた分、今朝のロロクの人入りの少なさに違和感を覚えた。


 朝だから、ログイン人口が全体的に少なくなってしまっているのか、それともプレイヤーのほとんどが、何処かしらのダンジョンに向かって行ってしまったからか――はたまた、もうロロクの次の街に進んで行ってしまったのだろうか。


 否、どれを取ってもいまいち説得力がない推測だ。

 もしかしたら、メンテナンス情報にあった“ワールド・クエスト”が何か関係しているのだろうか?



「にーちゃ、おまたー」


 と、タイミングよくライムがログインしてくる。


「ライム。なんだか人が少ないんだが、やっぱりワールド・クエストとかいうのの影響かね?」


「ん~、ちょっと待って」


 僕の問いに、ライムは手早くウインドウを広げる。


「たぶんそうだね。みんなファアートに行ってるみたいだし」


「ふぅん、なんなんだ? それは」


「いわゆるストーリークエストってヤツだね。ゲームによってはグランドクエストとか呼ばれたりするけど」



 と、ライムの説明によると――


 今までの(かね)やアイテム目的のクエストではなく、いわゆるゲーム本来のストーリーを辿るためのクエストが『ワールド・クエスト』なのだそうだ。

 言ってしまえば、今までにあったクエストは、ただのサブクエスト扱いになるらしい。


 その『ワールド・クエスト』だが、クエストに順番にがあって、それを順繰りにクリアしていくことによって、このゲームにおけるストーリーが段々と判明してくるらしい。



「じゃあ、それをみんながやってるってことか?」


「たぶんね。水物ではないけど、やっぱり新要素は気になるものだし」


 新要素は一応やっておこう、と思うものか。なるほど、そんなものかも知れない。

 コンビニでも“新発売”って書いてあるものは、ついつい買っちゃったりするしね。

 ……ケ○ちゃんラーメン以外は。



「なので、わたしたちもGO」

「ミーハーだなぁ」


 でも、異論は無し。





 ―― …… ―― …… ―― …… ――




「うわっ、人多すぎだな、こりゃ」


 ロロクからファアートに移った僕たち。どうやら最初のワールド・クエストはファアートからのスタートらしい。


 そしてファアートの街の奥――高台の上にある屋敷の前には、大勢のプレイヤーが押しかけて来ていた。

 今までならプレイヤーなどまったく寄り付かなかったであろう屋敷には、今や長蛇の列が出来あがっている。


「どうするよ、これ」

「ま、この混雑も初日ぐらいだろうし、イベント感覚があっていいんじゃない?」


 と、まぁとりあえずその列に並んでみることにした。


「なぁ」

「なぁに? にーちゃ」

「そういえば、こういう風にきちんと並ぶのって、日本人特有だって云うよな?」


 今だって、別にロープが張ってあるわけでもないのに、何故か綺麗に整列して並んでいる。

 海外では我先にと、ぐちゃぐちゃに押しかけてしまうものだとか。


「そうでもないよ、にーちゃ」


 と、ライムが指を差した方向には――


「……マルタ」


 周りの人達から頭一つ分以上はみでたクレリック、マルタが行儀よく並んでいた。

 ……彼の周囲だけ、他のプレイヤーが一歩分離れているように見えるのは、気のせいだろうか?


「OH?」


 あ、こっちに気付いた。


「オーウ! ニーチャさんにイモートさん、昨日ぶりデース」


 いや、一昨日な?

 ――あれ? 時差を考えると、マルタにとっては昨日ぶりなのか?

 それはそうとニーチャは止めろっての。


「良い所で出会えマシタ。ゼヒまたパーティを組んでくだサーイ」


 そしてまたボッチかっ!!

 ……あ、それは僕がなにか言える立場でも無かった。


「……どうする? ライム」

「いいんじゃない? て言うか、この状態で断るのもなんだし」


 悪いなマル太。このパーティは二人専用なんだよ! とは言えんよね。


「OKマルタ。こっちに来い」


 パァ、と嬉しそうに目を輝かせたマルタは、周囲のプレイヤーにペコリと頭を下げて、嬉々としてこちらに向かってきた。


 ……うん、悪い奴じゃないんだよ。

 ただ、顔が怖いのと、一緒にいるとちょっと疲れるだけだ。


「OH、おフタリさん。どもアリガトゴザイマス!」


 こうしてマルタが参加した。

 少し列の並び順が変わってしまったが、先に並んでいたマルタが下がっただけで、パーティが統合されて数自体は減ったわけだし、後ろに並んでいる人からも文句は出ないだろう。



 クエスト受注の列はぐいぐいと進んでゆく。

 そして、さほど時間をかけることなく屋敷の中に入ることが出来た。


 並んでいる人の流れは屋敷の中央広間へと続いてゆき、その広間の奥には、この屋敷の持ち主であろう貴族らしき壮年の男性が立っていた。


 見ていると、その男性の前まで歩いて行ったプレイヤーは、そのまま踵を返すように部屋を出て行く。


「……? どうしてここまで来て、何もしないで出て行くんだ?」


「にーちゃ、それはたぶん――あ、もう順番になるから、実際に見てみたほうが早いよ、にーちゃ」


「???」


 そうこう話しているうちに順番が廻ってきたようだ。



 壮年の貴族男性の前に立つと、ポップアップウインドウが現れ、クエストを受注するかどうかの確認を取られた。

 もちろん〔YES〕を選択する。


『おお、よく来てくれた。話は別の場所でしよう』


 そう渋い声で言うと、貴族男性はスタスタと部屋の外へ向かい、出て行ってしまう。


「え? おいおい……、いいのか? これ」


 僕たちの後方には、まだまだ大勢のプレイヤーが順番を待っている。

 それを放っておいて出て行ってしまうなんて……。


「にーちゃ、これは一種のインスタンス状態」


「え?」


「わたしたちの見ている依頼主は歩いて出て行っちゃったけど、他のプレイヤーからは、まだソコにいる状態だよ」


 と、ライムは先程まで男性が居た場所を指した。


 なるほど、確かに歩いてゆく依頼主を視線で追うプレイヤーは一人もいない。

 1パーティ1パーティ全部に、わざわざ一人でクエスト内容を説明していたら、混雑は今の比ではなくなってしまうもんな。


 そうして依頼主を追ってゆくと、廊下に出た依頼主は、そのまま隣の部屋へと入っていった。


 さっき、僕たちより先に並んでいたパーティも、僕たちより先にその部屋へ入ってゆく。

 この先の部屋は、完全なインスタンスエリアになっているのだろう。


「なんだか変な気分だな……」


 周りの人と、まったく見えているものが違うというのは――まるで幻影でも追いかけているかのような気分にされられた。


「ま、最初だけだよ。行こうにーちゃ」

「そうですヨ、行きまショーウ」


「お、おう……」




  ◇



 その貴族男性の名は『パルミーロ・ブリオスタ』

 この“華の街ファアート”の領主らしい。


 で、近年、何故か妙に活性化したモンスター、そのモンスターを抑える能力を、ここ領主の娘さんが持っていた。


 それで彼女は古文書に書かれていた“聖女”だとかなんとか言われるようになった。

 その能力を更に強める為に、世界各地にある“魔力聖域”と呼ばれるパワースポットを回って、その魔力聖域の魔力を身体に宿さなくてはならないのだそうだ。



 彼女は“聖女”と成るべく、各地の魔力聖域を巡る旅に出ることを決心した。


 しかし今はまだ、ただのか弱い女性でしかない。

 ――僕たちプレイヤーは、彼女が魔力聖域を巡るために雇われた護衛……という立場でのストーリーになるようだ。



――

「説明長いな……」

「ま、最初のクエストだからこんなもんだよ、にーちゃ」


 こしょこしょと、ライムと耳打ちをしあっている内に、ようやく話が終わったらしい。


『では、“ペネローザ”ここに来なさい』


 部屋の奥からプラチナブロンドで、金色の眼の女性が姿を見せた。


 ふわふわとした色の薄い金髪は腰ほどの長さがあり、Aラインのレモンクリーム色のドレスで、身長は160センチに届くかどうかといった所だろうか?


 決意を帯びた顔はキリリと引き締まり、顔立ちそのものは幼くとも、まるで剣士のような表情をした女性だった。



『ペネローザ・ブリオスタです。よろしくお願いします』


 と、見事なアニメ声で、彼女は自己紹介をしてみせた。




  ◇



「デハ、行きまショウ」


「そうだね。ペネローザさん、その服で行くのか?」


『???』


 流石にドレス姿でダンジョンに向かうのはどうかと思って質問したんだが……。

 当のペネローザは、質問の意味をまるで理解していない様子だ。


「ああ……ええと」

「だいじょうぶ。行こうにーちゃ」

「ん……? そうか? 良いなら良いんだが……」


 まるでペネローザが居ないかのように振る舞い、ライムとマルタは屋敷の外に向かって歩いていく。


「お、おい。待てよ」


 旅の装備が万全な僕たちに比べ、ペネローザは普段街を歩くような恰好だ。

 靴だってヒールの高いパンプスだし、そんなにスタスタと歩いては、彼女が付いて来られな――


「って、速ッ!?」


 え? なんでその靴でそんな速度で歩けるの? 靴ずれしちゃわない?

 妹さんと歩くときは結構、靴のこととか気にしてたんだけど!?


「置いていったとこで、どうせワープして追い付いてくるよ、にーちゃ」

「ワープ!?」


 怖っ! ペネローザ怖っ!!


「あとにーちゃ、ソレに色々話しかけても、AIがアホだからほとんど話が通じない」

「えええ……?」


 そうは言っても、最近のAIはかなり凄いって聞くぞ? 日常会話レベルなら違和感なく熟すとか……。


「それは専門的にAIを開発しているトコの話だよにーちゃ。ゲームのNPCに使うAIに、そんなに開発費を使ったら大赤字だよ」


「うえぇぇ……」


 夢も希望もあったもんじゃないな……。


「ユーシサン、現実ヲ見まショウ」


 マルタ……お前に言われると、なんだか腑に落ちねーよ。

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