89 買い物でぇと(リアル)
本日の投稿は三回になります(1/3)
日常回&デート回が三話にも渡ってしまったので、一挙に投稿しちゃった方がいいかな? と。
・前回のあらすじ
丸太を振り回すマルタにSAN値を削られながらログアウト。
さて寝ようとしている主人公の下に未来が訪れ、すこし悪趣味な嘘を吐く。
それに気を悪くしてむくれる主人公に、未来は萌えを感じて、主人公を押し倒そうとするのだった……。
「はぁ……」
朝起きると、軽い頭痛がした。
そして僕の隣では、肌をツヤツヤとさせた未来が眠っている。
この状況……コメント付きの動画サイトだったら、右下に“事後”とか絶対に書かれているだろうな。
「眠い……」
結局、昨日はなんだかんだの押し合い圧し合いの中で、疲れ果てて眠ってしまった。
なので、なんだかロクに眠れた気がしない。
「あ゛~~」
これから日課のランニングに行かなければならない。
こういうのはサボりだすとそのままズルズルとやらなくなってしまう。継続は力なり、だ。
そう思って、これまで出来るだけ続けてきたのだが……。
「体調不良ってことで、今日はいいよな……?」
誰に言うわけでもない言い訳を口にした。
いくら異世界生活で睡眠不足には慣れているとは言っても、眠いものは眠い。
睡眠不足時は注意力が欠如して、思わぬ事故を起こしやすい――と各所で云われている。
……だから今日ぐらいは休んでもいいだろう。うん。
ふらふらして、車に轢かれでもしたら大変だしね。
――等と自己弁護して、薄いタオルケットを肩まで引き上げ直す。
「ああ、クソ、全部未来が悪い」
少し冷え込む朝。
僕に抱き着いている未来がポカポカと温かいのも――
昨日の夜に暴れまわった未来を取り押さえる為に、僕がなかなか眠れなかったのも――
未来が眠った後も、なんだかドキドキして寝付けなかったのも――
――全部、未来が悪い。
「――ぐぅ」
久しぶりの二度寝は、甘美な甘美な堕落の味がした。
―― …… ―― …… ―― …… ――
「暑い……」
早朝は冷え込んでいた気温も、太陽が昇ってしまえばそれに釣られてグングンと上昇。
僕にひっついている生き物の体温は、不快の元でしか無くなった。
寝苦しさに僕は目覚める。
しかし、明け方から朝までのわずかな時間を二度寝に費やしている間に、状況は珍妙なことになってしまっていた。
「暑いワケだ……」
――“密着”。
この状況を説明するのに、それ以外の言葉が思いつかない。
未来の頬は僕の頬と触れ合い、まるで海外ドラマの親愛のキスをしているかの様子。
このまま、顔を少し横に傾けるだけで、僕の唇と未来の唇は重なり合ってしまうだろう。
二人の熱で蒸れた肌は、僕の匂いよりも未来の甘い汗の匂いのほうが強く、花の蜜のような芳香が鼻腔の奥を撫でるようにくすぐる。
――すぅ、すぅ。
今だに穏やかな寝息を立てている未来。
僕が少しだけ、顔を横に動かせば、未必の故意が成り立ってしまう状況なわけで――
「……起きてるな? 未来」
「ちぇ」
僕の問いかけに、未来はパチリと目を開けた。
こんな状況になっているのは当然、妹さんの張った罠だ。
本当……この妹は油断も隙もあったものじゃない。
「はぁ……暑いからさっさと退け」
少し力を込めて未来の肩を押すと、未来はその力を利用してゴロンと横に転がった。
そして天井を見つめながら一言。
「むぅ、なかなかハニートラップに引っ掛からないね、にーちゃは」
確かに蜂蜜のような甘い香りはしたけども……。
ハニートラップというのは、色仕掛けそのものが目的じゃないからな?
その後の諜報活動がメインだからな?
「にーちゃに婚姻届のサインさせるのが目的だから、間違ってないと思う」
「目的を喋っちゃったら、そもそもが失敗だと思うぞ」
「しまった! 高度な情報戦か!?」
訂正、この妹は案外油断と隙だらけなのかも知れない。
「ほら、さっさと起きてメシにするぞ」
「はーい」
とは言っても、その飯を作るのは妹だ。
まともに家事もできない、この兄の情けなさよ……。
◇
今朝のメニューは太刀魚の塩焼きと、イカと里芋の煮物。それと大根の味噌汁だ。
「にーちゃ、今日は買い物付き合って」
「ん? いいけど」
ずず……と味噌汁をすする。
味噌汁に入っている大根は、少し歯ごたえが残っているほうが僕ごのみ。
細切りの大根を前歯でブチリと噛み切り、未来の話に耳を傾ける。
「昨日、ショッピングモールに行ったんだけど、荷物になりそうな物は買えなかった」
「いいよ、荷物持ちってことだな? 友達と遊んでいる最中じゃ、荷物になるものは買えないよな」
家事は全部、こうして妹さんがやってくれているんだし、たまの荷物持ちぐらいは喜んで引き受けよう。
こうして、朝食後の予定はショッピングモールへと買い物に行くことに決まった。
――
食事が終わり、出かけるための着替え。
今日は何故だか、簡単な恰好にする様に未来に指示された。
別にそれは楽でいいんだが、何の目的でそんな指示を出したのかは不透明だ。
……またロクでもない事を考えていなければいいんだが。
そして電車で十五分。
未来と共に街に出る。
今日は妹さんもデニムのショートパンツと、白いノースリーブのブラウスと、大分ラフな恰好だ。
駅からすぐに向かったのはショッピングモール。
ここ数年前に建てられたもので、この辺りの若者は買い物と言えばまずここに訪れる。
まぁ、地方と言うものは都心ほど選択肢が無いものだ。
そして妹さんが向かうのはテナント出店の服屋。
なるほど、服は案外かさばるので、友人と一緒の時では買いづらかったのだろう。
――と思ったら、
「なあ……、なんで僕の体に服が当てられているんだ?」
「え?」
服屋に連れて行かれた僕は、妹の手に持たれたハンガーに掛かった服を、こっちあっち――と幾度も当てられていた。
もちろん、婦人服ではなく紳士服だが……。
「にーちゃに似合いそうな服を、昨日見つけたからだけど?」
「お前は僕のオカンか。自分の服を見ろよ、女子高生」
もしかして、簡単な恰好にするように指示したのは、こうやって服を体に当てる時に、余計な情報が入らないようにする為か?
それはそうと……
昨日一緒に出掛けた友達は、いきなり婦人服エリアを無視して紳士服エリアに向かう娘に、ポカーンとしなかっただろうか?
あれ? 大丈夫かウチの妹。ちゃんと友達付き合い出来てるのか?
「そもそも、友達の一人が彼氏に服をプレゼントするって言って紳士服売り場に来た。だから心配は不要だよ、にーちゃ」
ああ、そう……。
その時についでに僕の服も見てきたのね。
「彼氏にプレゼントかぁ、いいなー、わたしもそのセリフ使いたいなー」
「あ、うん……、おぅ……」
「いいなー、彼氏」
「…………」
「いいなー、いいなー」
「やっかまし!」
待たせてしまっている状態で、悪いとは思っているよ!
でもお前も「気長に待ってる」みたいなこと言ったじゃん!
「まぁ、内縁の彼氏で手を打とう」
「彼氏に内縁も外縁もあるのか……?」
「あるんじゃない、教師と生徒とか」
「そう考えると、ウチも兄妹だしな……。内縁って言え――って違う! 言質を取ろうとするんじゃないっ!」
そしてボイスレコーダーを準備するんじゃない。
おまえは何故そんなものを持ち歩いてるんだ?
「ちっ、にーちゃ、もう諦めてラクになっちゃおうZE?」
「アホを抜かすな」
なんでもかんでも簡単に諦めるとか出来ていたら、僕は異世界から帰ってきていないよ。
◇
まぁ、そんなこんなで僕の服数点と、未来の服も買う。
それだけで服屋以外で見ることのない、巨大買い物袋が二つになった。
「もう帰るのか?」
「何を言いますかにーちゃ。これからが本番だよ」
「と言っても、これ以上の荷物は持てないぞ?」
重くはないけど、服ってやつはかなり嵩張る。
小物ぐらいならまだ持てるが、あまり大きなものだとこれ以上は手が足りない。
「大丈夫。次のは嵩張らないよ」
――
と、連れて行かれた先は、淡いパステルカラーが目に優しい下着売り場――
「って、ちょっと待て! こんな所、僕は入らないぞ!」
「大丈夫大丈夫、今どき恋人といっしょに来るとか普通だから」
そんなこと言ったって……。
たった今の時点で男性客は居なさそうだし、そもそも僕たちは恋人同士じゃない。
そもそも、僕が女性下着売り場に入る意味が見当たらないんだが!?
「にーちゃ、逆に考えるんだ……。女性しか入れない下着売り場――そこに入ってみたいと思わんかね?」
「う……」
好奇心はある、好奇心はある――が、
「今どき、仲のいい兄妹がいっしょに下着を買いに来るなんて、店員さんにとっては良くあることだよ? つまりわたしといっしょなら、にーちゃは不自然じゃなく下着売り場に入れる。……だけどにーちゃひとりだけで入れる?」
「うぅ……」
入れるわけがない。
こんな場所は、男が単身で乗り込む場所じゃないのだ。
「今なら合法的に、『あー、押しの強い妹に、無理矢理つれてこられちゃったよー』って顔で、合法的に入れるんだよ! にーちゃ!」
なぜ、“合法的”って二回も言った。
別に男一人で入ろうと、違法ではないぞ。
……まぁ奇異な目で見られるだろうが。
「ふふふ、そして今のにーちゃには、ワガママな妹に持たされているだろう大荷物のオプション付き!」
「ぬぅ……」
「まわりの人から『あーあ、恥ずかしいだろうに、かわいそう』って思われるだけで、にーちゃは今! 女の園に入れるんだよっ!?」
「ぬ、ぬ……ヌゥゥっ!!」
………………
…………
……
…………敗北しました。
下着? あんなもの、ただの布切れでしたよ? ホント。




