86 霊樹と聖職者
・前回のあらすじ
外国人プレイヤーのマルタと共に、ロロク森に着いた主人公一行。
森に着いて早々、「ミニゴースト」をトレインして来てしまったプレイヤーとご対面。
そして聖剣と芋剣を勘違いしてしまった主人公に衝撃が走る。わりとどうでもいい。
「HAHAHAHA!」
僕に続いて飛び出して来るマルタ。
メイスを振りかざし、ミニゴーストに襲い掛かる姿はまるで蛮族のようだ……。
「――っておい! おまえ聖職だろッ!?」
メイスでぶん殴るより、ライムと同じように、普通なら光魔法を使うべきじゃないのか?
「What? 聖職?」
「おまえだよ、おまえ」
「Oh! HAHAHAHA! 忘れてマシタ! そんな設定ありまシタね!」
え? 忘れんのソレ。忘れていいもんなの?
「ぶっちゃけRealでは、敬虔なクリスチャンってわけでもアリマセンしね☆」
てへペロ、と舌を出すマルタ。
キモいと言うより怖い……。なんだかナイフを舐める極悪人みたいな絵面だ。
……それはそうと“マルタ”って聖人の名前だよな?
どうやらマルタの信心は、日本人でいうところの「死んだらお寺のお墓に入るけど、仏教徒かと訊かれるとちょっと……」といったぐらいのものらしい。
さっき、八百万の神に感謝を捧げてたぐらいだしね……。
「それと、光属性魔法はイッサイ覚えてまセン」
「お前が聖職者を選んだ理由がまったくわかんねーよ」
マルタが殴りつけたミニゴーストが、ばいんばいんと弾んでゆく。
「にーちゃも頑張って」
「お、おう」
ライムから【エンチャント・ホーリー】を付与された芋剣を持ち、僕はミニゴーストの中に飛び込んで行く。
光属性を付与した剣は、今度はしっかりと敵のゴーストを両断する。
「Oh! そのマホーなら拙僧も覚えてマシタ!」
マルタは自身のメイスに光属性を付与し、メイスでミニゴーストを叩き潰してゆく。
まるでもぐら叩きを見ている気分だ。
ぷちぷちとメイスに潰されてゆくミニゴーストたち。
それに哀れみを投げ掛けるのは、間違っているだろうか?
「往生せいよ……」
暴れまわる聖職者と、ぴーぴーと悲鳴を上げて逃げ惑う悪霊。
それを見ていると、何が正しいのやら――
僕には何も判らなくなってきた……。
◇
ミニゴーストのトレインを発生させてしまったプレイヤーから謝罪を受けつつ、僕らは森の先に進む。
「ミニゴーストは仲間を呼ぶし、光属の攻撃方法がないプレイヤーには、ちょっと厄介なんだよ」
「そうか」
あの二人は戦士と魔法使いだったみたいだしな。
ここはヒーラー……というか、光属性の攻撃を持たないパーティだとキツイのかもしれないな。
ゴーストは光属性に弱いが、それ以外の攻撃だと、ほとんどダメージが通らないみたいだしね。
――
そんなこんなで、時折襲い掛かってくるモンスターを倒しつつも、ロロクの森最深部までやってきた僕たち。
森の最深部は円状にひらけた土地になっており、そこの中心部には、巨大な樹木がそびえるように立っていた。
「すごいな……」
「うん」
まるで、僕たちを見下ろし語り掛けて来るように、大樹はさわさわと葉を鳴らしていた。
灰色の葉を付ける大樹は、その色合いに反して生命力に満ち溢れている。
幹はまっすぐに天に向かって伸び、その太さは大人4~5人が手を広げて繋がなければ届かないだろう。
自然の雄大さそのものを象ったように、その大樹はそこに在った。
――さて、ここがこのダンジョンの最奥地。
マルタはここに用があったという話だったが、
「マルタ。ここでいったい何を――」
「やっと来れまシタね! ありがとベリマッチデス!」
――と、突としてストレージから斧を取り出すマルタ。
そのままスタスタと巨木に近付き、その斧を振り上げる――
「え? ちょ」
「どっせぇええいッ!!」
――ガッコンっ!
斧は大樹に叩きつけられ、その幹に大きな疵をつける。
「な……なにやってんのォオオオ!?」
下手をしたら、霊木や神木として祀られていてもおかしくない――長い歴史と年月を感じさせるような樹木に、平気な顔で斧を突き立てる聖職者。
高度成長期の土木企業だって躊躇しそうな行為を、目の前の外国人さんはためらいなくやってみせた。
「にーちゃ、にーちゃ」
「おいおいおいっ! それは流石に――って、なんだ? ライム」
「大丈夫。切っても数分で元に戻る」
「はぁっ!? ……あ、そうか」
そうだ、これはゲームだ。
ゲームなのだから、この樹だって、別に神木でもなんでもなく――
「HAHAHAHAッ! 切り倒しマスヨーっ!」
ガッツンガッツンときこり作業を続けるマルタ。徐々に樹の幹に入った疵が大きくなってゆく。
う、う~ん……。
ゲームだから、というのは解ったが、やはりこの光景はなんというか、後ろめたさを感じる……。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ――
「なんだっ?」
マルタのきこり作業を見ている内に起き始めた地震。
そうして、ぼこり、ぼこりと地面が隆起を始めた。
「あ、ボスだ」
「このタイミングでかッ!?」
盛り上がった土から顔を出したのは、太い太い木の根――
「……おい、もしかして」
「うん、この木がここのボス」
やっぱり霊木じゃねーかッ!! おもいっきり!
◇
【千年霊樹:ロックウッド・スピリチュアル】
スピリチュアルって付いちゃってるよ!
「にーちゃ、来るよ」
「ちぃ!」
うねうねと触手のように蠢いていた木の根が、どごん、とその根の先端を叩きつけるように動いた。
「くっそ!」
“プロボークステップ”を発動させ、ヘイトを稼ぎながら根の攻撃を躱す。
立て続けに上段からの叩きつけ攻撃をしてくる木の根。それを避ける僕。
その合間に剣を振り、根を斬り続ける。
しかし、流石に植物特効のついた芋剣とはいえ、巨大な樹の根は到底一撃で切り倒せるほど細いものでは無かった。
「にーちゃ! こいつの弱点は“火”」
「だろうな!」
【ファイアブレード】を使い、剣に炎属性を付与し、霊樹の根を斬り付ける。
根を切り倒せはしなかったものの、剣の纏っていた炎が根に燃え移り、根は一気に炎上した。
「良し、効いているな」
幾本もある根の一本が燃え、そして焼け落ちる。
――だが、焼け落ちたその根の生えていた穴から、ずもりと新たな根が地中から顔を出した。
「なぁッ!? キリが無いぞ!?」
倒しても倒しても次から次へと新たな根が生えてくる。
そして、木に一番有効そうな斧を持っているマルタと言えば――
「まだ切ってんのかよ!」
コーン、コーンと心地よい音を立てて、霊樹本体の伐採に勤しんでいた。
「にーちゃ! マルタを護衛して!」
「何? うおっ!?」
きこりをするマルタの狙い、振り下ろされる霊樹の根。
それに割り込み、盾でなんとか軌道を逸らす。
――しかしその重い一撃は盾のガード耐久値を大きく超え、僕のHPバーがググっと目に見えて減った。
「ぐ……かなりHPが持っていかれたな」
「亀盾に“土耐性”が付いててよかったね、にーちゃ」
すかさずヒールでHPを回復してくれるライム。
「にーちゃ、マルタが木を切り終わったら、戦闘終了になる。木を切っているマルタが狙われやすいから注意して」
確かに、木の根には個々にHPが表示されているが、ボスのはずの霊樹にHP表示がない。
ボス戦がスタートしたのはマルタが霊樹に斧を入れてからだ。
つまり、このボスはパーティの一人がが霊樹を切り倒すことがクリアの条件になる。
「護衛ミッションってことか……クソ、盾職じゃないぞ、僕は」
「HAHAHA! ガンバってくだサーイ」
他人事じゃねぇぞ、コラ。
どうやら伐採作業自体は自動で行われているらしく、作業中に呑気にエールを送ってくるマルタにイラっとした。
そもそもクレリックが刃物使うなよ。え? 武器じゃなくて伐採道具だから大丈夫? なんだその理論……。
「来たよ、にーちゃ」
「はいはい、まったく。飽きないゲーム作りに感服だよっ!」
霊樹の根は、再び僕たちを狙おうと、地中から顔を覗かせていた。




