85 ロロク森
・前回のあらすじ
ハゲヒゲマッチョの外国人クレリック『マルタ』の手伝いで、ロロク東の森のダンジョンに向かった主人公たち兄妹。
外国人マルタは、日本の萌え文化に魅せられた大きなお友達だった。
ちなみに日朝の魔法少女もののファンらしい。
「Oh、森デース。フォレストに着きまシタ」
僕たちはロロクの森の、その入り口に立った。
ロロクの森は全体的な色調が妙に灰褐色な場所で、何やら木々が石の彫像めいて見えた。
その理由は、どうやら木々の葉が灰色になる種類のものばかりだからだろう。
幹も白樺のようなものばかりで、森全体がグレースケールの色合いになっていた。
色彩の少ない白黒の世界に、僕たちプレイヤーだけが多色で、なんだか漫画の世界で人物だけがカラーで描かれているような奇妙な違和感があった。
「ここはどんな敵が出るんだ?」
「あ、えっと――」
と、僕の質問に、ライムが説明を始める前に森向こうから早速敵が……
「“ロックイーター”、それと“プラントウォーカー”か」
子供程度の大きさをした大きな灰色トカゲと、ロロクダンジョンで見た蔓植物のモンスターだ。
「そういえば、植物系モンスターはしばらく出て来ないんじゃなかったか?」
芋剣を取った時に、ライムがそんなことを言っていたはずだ。
「あー……いたね、こんなの」
ライムは微妙な顔。
「これ、こんな姿だけど、バグで種族が獣種になってたから忘れてた」
「バグかよ……」
ちなみに今は、ちゃんと植物系に変更されたらしい。
「まぁいい。それじゃ行くぞ」
僕が剣を構え、敵に攻撃を仕掛けようとした瞬間。
その脇を通り越して前に躍り出る人影――
「HA-HAHAHAHA! イキマースっ!」
つるりとした頭をキラリと光らせ、法衣を纏った巨漢が大砲の弾のように飛び出していく。
「うわ……」
もちろんマルタだ。
マルタはロックイーターの下に飛び込むと、両手持ちのメイスを勢いよく振り払う。
『ぶぎゃしィ!」
……それはロックイーターの悲鳴だったのか、はたまたメイスが敵を殴った時の物音だったのか。
とにかくして、ロックイーターはスラッガーに打たれた野球ボールのように、勢いよくライナーしてゆく。
「HAHAHA! イチ□ーデース!」
違う! イチ□ーは技巧派の選手で、そんなむりくり敵をかっ飛ばすようなパワーファイターじゃねぇ!
「にーちゃ、触手の方が来てる」
「触手言うな」
僕たちの方に向かってきたプラントウォーカーを斬り払う。
……別にマルタに対抗意識を持っているわけじゃないが、あのかっ飛ばしに比べると、こちらは地味な絵面である。
「なんとも……」
ハゲのおっさんが嬉々として、さっき吹き飛ばしたロックイーターを追撃して、メイスでボコスカと殴っている。
「HEY! HEY!! ふんふふ~ん♪」
明るくPOPな鼻歌と合わせて振り下ろされる巨大なメイス。
まるで手拍子の様にドガリドガリと打撃音が辺りに響く――
「ふぅ、倒しまシタ。――オヤ? お二人とも、どうしたのデスか?」
……わかったよ。
顔の厳つさとか、外国人に対する気後れとかじゃない。
マルタが嫌厭される理由はもっとシンプルだ。
「怖えーよ、お前!」
◇
まぁ勇者たる僕が、「なんかおっさんの戦い方が怖いので帰ります」――とも言えず。
妹さんもクソ度胸はあるのでそのままロロク森の攻略に移る。
灰色の森の景色は、なんだか暗澹としていて気分が暗くなる。
奥に進めば進むほどに辺りが暗くなっていき、なんだか幽霊の類いが出て来そうな雰囲気が漂ってきた。
とは言っても、この森にも人の入りはそこそこにあるらしく、夜中に心霊スポットに訪れるほどは不気味というわけでは無かったが――
「うわぁぁぁ! ちょ! 無理ィ!」
知らぬ誰かの声が聞こえ、こちら側に向かってくる二つの足音。
「トレイン発生です、逃げてください! すみませぇん!」
戦士風と魔法使い風の男二人。
二人のプレイヤーの後ろを、宙に浮かんだ何かがわらわらと追いかけて来ていた。
青白く発光し、つるんと丸い雫を逆さまにしたような形。
その雫に落書きをしたかの様な、点の目とべろんと出した舌があり、頭には天冠と言われる三角の布が付けられている。
簡単に説明してしまうと、児童書に出てくる“おばけ”。
そう言われて思い浮かぶそのまんまのようなモンスターが、必死で逃げるプレイヤーたちの後をわらわらと何匹も追いかけてきていた。
「あれは?」
「ミニゴースト。集団で襲ってくる」
そう説明すると、ライムは杖をミニゴーストに差し向けて掲げた。
「にーちゃ。戦うよ? いい?」
「OK。やっちゃえ」
『ホーリーシャワー!!』
ライムの魔法。
ミニゴーストの集団の上に、光の球体が現れる。
『キャピィ?』
その球体から、降り注ぐ雨の様に光の線が伸びてミニゴーストを貫いた。
「おお」
「さすが特効。いいかんじ」
光の雨がミニゴーストを上から降り注ぐと、雨に打たれたミニゴーストたちは明らかに動揺し、逃げ回っていた。
そうしている間にミニゴーストの数が一匹減り二匹減り――
ホーリーシャワーが終わる頃には、20は居ただろうミニゴーストの数は1/3ほどに減っていた。
「すげーな」
「心霊系に光魔法は超特効。こういう時でもないと使う機会もないけど」
「――よし」
剣を鞘から抜き放つ。
まだ数は残っているが、その残ったミニゴーストも、ライムの光魔法でかなり弱っている。
「にーちゃ、心霊系は光属性以外は――」
「大丈夫だ」
ゴーストやらのアンデッド系は、昔から僕の独壇場だ。
これだけはアルベロスやセルシンよりも僕の方がうまく戦えた。
「疾っ!」
ミニゴーストの群れの中に、一足飛びに駆け込んでゆく。
剣身が煌めき、ミニゴーストを両断せんと、剣を唐竹に振り下ろす。
――そう、僕のこの“聖剣”ならば、アンデッドなど一撃で――
「あ……」
――ぶぎょん。
僕の剣で殴られたミニゴーストは、まるでゴム鞠のようにバウンドして転がって行った。
「光属性以外は、ダメージが半減以下――なんだけど? にーちゃ」
「あ、あはは! そうだったのか! 知らなかったなぁー!」
……まさか、芋剣が余りにも手になじみすぎて、十年を共に戦ってきた聖剣を持っている気になってしまっていたなんて……。
誰にも言えないな、これは……




