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8 チュートリアルダンジョン

「……明るいな」

「うん」


 洞窟の中は、外に比べてしまえば薄暗いとも言えるが、それでも精々(せいぜい)電球の点いた夜のトイレぐらいのもの。辺りを見るのに不便は無い。


「……まぁ、ゲームで、カンテラで片手を塞がれるなんて仕様にはならないか……」

「そうそう、やっと分かってきたね、にーちゃ」


 普通のRPGでも、たまに灯りの必要なダンジョンなんかがあったりするが、それはあくまでもイベント扱いで、戦闘なんかに影響などは無いものばかりだ。

 片手が塞がって盾が持てない。なんてことは無い。


「……いまさら何を言っても仕方ないけど、随分とまぁ、ヌルい感じだなぁ」

「今はストレスフリーの時代だよ、にーちゃ」


 時折襲ってくるのは、スライムとジャイアントバットという巨大コウモリ。ジャイアントと言ってもせいぜいがバスケットボールぐらいの大きさだ。

 それが、『え? なんでそれで飛んでいられるの?』というゆっくりとしたスピードで襲いかかってくる。


 僕は当然ナイフ一本でも倒せるし、ライムも時折、その手に持った杖で打ち倒している。


 この子治療法師(ヒーラー)じゃなかったっけ? まぁ、そもそもヒールもまだ覚えてないとか言ってたか……



 マッピングの必要もないほど単調な一本道を進み、たまにある脇道も入ってすぐに行き止まり。そして無造作に置かれた宝箱には薬草や少量のお金が入っていた。

 まさにRPGの最初のダンジョンって感じだ。


「MMOなんだっけ? こんなとこの宝箱とか、普通じゃ取られてるんじゃないのか?」

「ここはインスタンスダンジョンだからね、にーちゃ。MOとおんなじだよ。ちなみに普通のダンジョンだと、宝箱はランダム出現だから、運がよければニョキニョキっと生えてくる宝箱が見れるよ、にーちゃ」

「なにそれキモイ」


 そんな約体もない話を二人でしながら、最深部へと足を進める。

 洞窟の最深部はぽっかりと開けた行き止まりになっており、いかにも『ボスが出ます』と言わんばかりの造りをしてた。


「ボス?」

「うん、たぶん」


 ドーム状になった部屋の真ん中には、キラキラとしたエフェクトの掛かったキノコが生えている。あれがクエストアイテムのマタン茸なのだろう。

 僕とライムがそのキノコに近づくと、キノコの生えた地面が、ずもりと盛り上がった。


『マタン~~!』


 マヌケな鳴き声で現れたのは、手足の生えた大きなキノコ。

 だいたい特撮物の敵役ぐらいの大きさで、人型と言うより着ぐるみ型といった感じだ。それの天辺に先程のキノコがちょこんと生えている状態になっている。


「キノコ怪人マタン(ゴッド)だって、にーちゃ」

「ナメてんのか」


 巨大キノコの頭(?)の上にふよふよと浮かぶ文字に、確かに【キノコ怪人マタン(ゴッド)】と書かれている。ご丁寧にルビ付きだ。


「っ、来るぞ!」


 ……と、気を吐いたのはいいが、短い足をどすどすと動かすマタンGは、気が抜けそうなほどに遅かった。


 ライムを三歩後ろに下がらせ、腰溜めになって相手の出方を見る。


『マタン~~ゴォォォッド!!』


 叫びと共に繰り出されたのは、横に薙ぐような頭突き。

 大振りのそれを後ろに跳んで回避する。


「そりゃ、あの身体じゃ頭突きぐらいしか出来んよな……」


 着ぐるみ型の宿命なのか、マタンGの手足は非常に短く、あの身体では拍手もできるかどうかも微妙なところだった。パンチやキックなんて不可能だろう。


 つまりは隠し種がない限りは、コイツの攻撃は頭突きオンリーの筈だ。

 そう見立てた瞬間、振り抜かれた頭から緑色のキラキラした光の粒が飛んできた。


「ッ!?」


 さほど速いスピードでもなかったそれを横に回避する。


 だが、僕の後ろにいたライムはそれを躱せずにまともに受けてしまった。


「うっ……」

「未来っ!?」


 クソっ! つい、昔の仲間たちと同じつもりでいた!

 あいつらなら、あれしきの速度の攻撃などに当たるはずも無かったが、俺の妹はただの女子高生だ。

 ――戦い慣れているあいつらと一緒に考えて良いはずなんか無かったのに……



 片膝をつき、みるみると顔色の悪くなっていく未来を見て、俺の中の焦りが膨らんでゆく。


 ――毒か!? 畜生! なんて厄介な!


 未来を抱きかかえると、俺はドームの出口に向かって駆け出した。

 だが、女の子一人の重さが影響して、思うように走れない。


「う、クソったれ!!」


 ステータスの低さが恨めしい。

 勇者なんて呼ばれていた当時なら――少なくとも今の現実の俺なら――未来一人抱えたところで、なんてことない筈だってのに!


「に、にーちゃ?」

「動くな! 黙ってろッ! 毒が回る!!」


 上手く動かない身体に苛立ちながら、なんとか部屋の入り口まで辿り着いたが、そこから外に出ようとして、見えない壁に阻まれた。


「結界か!? なんでだッ!?」

「ボ、ボス戦だからだよ、にーちゃ」


 クソっ! アイツを殺さなきゃならねーってことか!

 一刻も早く、未来を街まで連れ帰って、解毒剤を調合して貰わないとならないのに!


「……ちっ」


 未来を出口脇の壁にもたれさせ、俺は腰のナイフを引き抜いた。


 最短で殺す。十分――いや五分で殺して、十五分で街まで戻る。

 直接皮下組織に取り込まれたような毒じゃない。間に合うはずだ。

 いや、間に合わせる。絶対に。



「未来……待ってろ、俺がすぐにアイツを殺して、街まで――」

「にーちゃにーちゃ」


 その場にすくりと立ち上がる未来。そんなことをすれば毒が――!


「未来!? 大人しく――」


「もう治った」


「……ハ?」


 両腕を上下にジタバタさせて、ブンブンと暴れて見せる未来。

 ――確かに顔色は良くなっているが……


「毒は一定時間のスリップダメージ。しかも序盤の敵だから、効果時間もたいしたことないよ、にーちゃ」


「あ……」


 かぁ、っと顔が熱くなるのを感じた。

 そ、そうだよな……ゲームの毒って、そういう扱いだもんな……

 ほっときゃ時間経過で、そのうち治るっていう……


「なのでにーちゃ。とりあえずアイツを倒そう」

「お、おう……」


 クソっ!! こんな恥ずかしい思いをするのも、全部アイツの所為だ!!


 ――と、俺は八つ当たり気味にマヌケ面キノコに向き直った。

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