84 "クレリック"マルタと行くロロク東の森 ※お食事は付きません
・前回のあらすじ
帰ってきた未来と夕食を取り、また“brand-new World”をプレイする主人公。
アイダリンを含めてなんだかんだと騒いだ後で、アイダリンは去って行った。
その時、主人公の背後から掛かる声。
その声の主は――
「Hey! “ヨーヘー”サン! お雇いスルとおいくら万Eデスか?」
突然話しかけてきたバカでかい外国人さんに面をくらっていたところ……
なんのことから分からずに僕が混乱していると、ライムが僕の頭上を指差した。
「にーちゃ、職業が“傭兵”になってる。だから話しかけてきたんだよ、この人」
…………ああ! そういえば、あの演劇部二人組の時に、職業欄を“傭兵”にしておいて、そのまんまだった! すっかり忘れてたよ。
……ん? と、いうことは、さっきの野良の時も“傭兵”のままだったのか?
う、うわ、恥ずかしい……。
「Oh……“ヨーヘー”ではアリマセンか?」
傭兵と言えば、金銭で雇われる兵士のことだ。
だからこの外国人さんは、僕がそういうプレイをしていると思ったのだろう。
しょぼーんとしてしまった外国人さん。
何か期待させちゃったみたいだけど、いったいなんだったのだろう?
それにしても外国人さんはリアクション――というかボディランゲージが大きいなぁ。
「“傭兵”に用があったってことは、この人は何かを手伝って欲しかったみたいだね、にーちゃ。いちおう訊いてみる?」
まぁ、このまま放置では寝覚めが悪いしね。
訊くだけ訊いて、手伝えることなら手伝えばいいだろう。
「で、英会話できるのか? ライム」
この人が英語圏かどうかも分からんけども。
「出来ないけど、さっきからこの人日本語で話してる」
……それもそうだった。
「――ということで、話だけでも聞くよ? クレリックさん」
と、外国人さんの顔がぱああ! と明るくなった。
……でも、ハゲヒゲマッチョの超いかつい顔だから、正直かわいらしさは欠片もない。
正直、逆に怖い。歯が見えてる。歯が!
「Oh! カンシャカンゲキキリガクレ! 八百万のカミに感謝しマース!」
なぁ、その恰好、クレリックだろう?
それなのに八百万の神でいいのか? そこは……
◇
「実は拙僧。ロロクの東の森に行きたいのデス。デモ日本の皆サン、ベリーシャイデス。パーティに誘っても、みんな「I can't speak English.」イイマス……」
ああ、うん。それは僕もだけど……。
でも、英会話が出来る人なんて、それなりに居そうな気がするんだけどな。
そもそも、なんか変ではあるけど、ちゃんと日本語話せているしねこの人。
「拙僧、ニホン語ソレナリに自信あるのデスが……。皆サン拙僧が話しかけるとスタコラサッサなのデス」
「にーちゃ、どちらかと言うとこの人、容姿とテンションで逃げられてる気がする」
……確かにな。この勢いでハゲヒゲマッチョの外国人さんに話しかけられたらなぁ。
まぁ僕は、英語自体はさっぱりだけど、西洋人顔には慣れている。
主に異世界で。
そういえば彼は。盗賊に二度目に遭遇した時のカシラに似ているかもしれない。
……アルベロスが斬っちゃったけど。それを見た僕は吐いてたけど。
「まぁいいや、それでどんな用かな?」
「ハイ――」
――
外国人さん――名前は“マルタ”さんらしい。
マルタさんの話によると、ロロクから東にある森。
その最深部に行って、そこの採集アイテムを取りたいのだそうだが……。
そこに一緒に行ってくれる人が見つからない(というか顔を見て逃げられる)のだそうだ。
……この人、よくロロクまで来れたな。いくらなんでもあのカエル相手にソロってことはあるまいに。
「どうする? にーちゃ」
「まぁ予定もないし、手伝ってあげてもいいんじゃないか? 幸い言葉にも問題は無さそうだし」
僕らのやりとりを聞いたマルタは、目と口を大きく開いて、ずいぶんとオーバーに驚いて見せた。だからリアクションが大きいって。
「OMG!! thank you very much! I’m on top of the world!!」
感激のあまり、勢いよく飛びついてきたマルタ。
そのままライムに抱き着こうとする――が、
「――やらせんよ」
スパン! と、僕の掌底がマルタの顔面を捉えた。
「どぅのっとたっちまいしすたー」
「Oh……ジャパニーズショーテー……」
いや、掌底にジャパニーズもチャイニーズもないからな? ……ないよね?
◇
僕たち兄妹とそのクレリックさんと三人で、ロロクから東の森に向かう。
ファアートでは散々行った森のエリアだが、ロロクで森に行くのは初めてだ。
「てか、このゲームのダンジョンには正式名称はないのか? ファアートでも東が森だったから、『ロロク東の森』とか『ファアート東の森』だとちょっと言いにくいぞ」
「ロロクには森エリアが一つしかないから、ロロク森でおけ。『正式名称とか考えても、どうせ誰も覚えないじゃないか! バーカバーカ!』って加藤プロデューサーがキレて、ブログ炎上してた」
……なにしてんスか? プロデューサーさん。
まぁとにかく、その“ロロク森”へと僕たちは向かう。
「森の奥地に“石工樹”という木がありマス。それが欲しいのデス」
採集アイテムとか言っていたから、素材アイテムなのだろう。
彼は生産もたしなむのだろうか?
いや、素材を持ち込みで生産職プレイヤーに注文して作ってもらう可能性もあるか。
マルタは常に人を睨んでいるような厳しい顔つきの、外国人らしい掘りの深い顔の男性だ。
眉はごく薄く、頭はハゲて――と言うか、スキンヘッドだった。
口ひげは顎の下のほうまで伸び、まるでハルク・ホ○ガンのようなヒゲをしている。
法衣の下からでも判る筋肉質の体で、身長も二メートルを超えるとなると威圧感が凄い。
しかもこの人はエルフだった。
ハゲで厳つい顔にエルフ耳を足したところで、グレムリンにしか見えないということを、今日知った。
知りたくなかったよ、そんなこと……。
そのグレムリン似の大男が、鼻歌混じりに巨大メイスをブンブンと素振りしながら街道を歩いていた。
「三人パーティで、ヒーラーが二人ってのもどうかと思ったが、あの人は殴る気まんまんだな……」
「殴りヒーラーってヤツだねにーちゃ。ヒーラーは意外と防御力に長ける編成にしやすいよ。自分で自分を回復できるし、MINDも高いから魔法攻撃にも強い」
その防御力を活かして、敵を積極的に物理攻撃に行くのが、通称“殴りヒーラー”だ。
「そいやマルタ。“ぶにゅ”は日本国内だけの販売のはず。どうやって買ったの?」
「オーウ。インターネットでパッケージ版を買いまシタ。AMAZ○Nではなんでも売ってマス」
やっと一緒にダンジョンに行ってくれる人が見つかって嬉しいのだろう。
機嫌良く妹さんの問いに答えるマルタ。
だが、その件は前に僕がやったよ。
「ダウンロード版は買えなかったのデス……。いわゆる“おま国”デシタ……」
――なんでそんな日本のスラング知ってんの? あんた本当に外国人さんなの?
しかし、回線制限はしてないのかね? このゲーム。
「だが、わざわざそこまでして“brand-new World”をやらなくても……、あっち辺りじゃ他にも色々あるだろうに」
VRMMOなんて、それこそ全世界にあるだろうし、多国籍に対応しているものもあるだろう。
それなのに何故そこまでして、日本国内限定で言語設定も日本語しか対応していない“brand-new World”をプレイしているんだろう?
「“萌え”デス」
「ハ?」
「USAのゲームでは、“萌え”が足りまセンっ! 右を見ても左も見てもムキムキマッチョばかりっ! 女性キャラクターも頬がこけて、勇ましいのばかりデスっ!」
いや、それはお前が言うな。
あー……しかし、そういうもんなのか?
確かにアメコミなんかだと、女性でもガタイの良い人が出てくるイメージだしなぁ。
「マルタ。どっちみちVRゲームだから、プレイヤーはリアルと同じ容姿のままの人が多い。それなら日本もアメリカもそんなに変わらないはず」
だよな?
結局VRで下手に体格をいじると、違和感でロクに動けなくなると言う。
顔だって変に弄ると“不気味の谷”で気色悪くなる。
「non non non! 違うのデス。そもそもゲームやアニメのキャラはその国の人間をモチーフに作られるものデス。日本のマンガなら日本人が、USAのコミックならアメリカ人が……。つまり、日本のアニメやゲームは日本人がベースになっているのです。――ならば日本人そのものが“萌え”と言って過言ではありません」
いや、過言だと思うぞ?
それはともかく、なんだか日本語が流暢になってきたな。カタコト設定はどこに行った……。
「その証拠にそこのライムさんっ!!!! 丸みを帯びた顔に小さく華奢な身体。まるで小動物のように動く姿はまさしく“萌え”です! oh! so cute......」
いきなり大声に、ライムの肩がびくんと跳ねて、さささっと僕の背に隠れた。
……うん、そういうところが小動物っぽいんだよ。
「そして兄を“にーちゃ”と呼び、兄にべったりのその姿! 最高じゃないですかっ!? 私もそう呼ばれてみたいです。あ、いえいいのです。呼ばないで下さい。その呼び名が唯一、大好きなお兄さんだけに使うからこその“萌え”なのです。いつかカワイイ妹に“にーちゃ”って呼ばれたいな、と羨ましく思いながら、それを横で見ているのがいいのです! 我が家に義理の妹が空から降ってきませんかねっ!?」
「どーどー、ステイ! マルタ」
徐々にヒートアップし、まくし立てるマルタを制止するライム。
まぁウチの妹も義理――とか口に出したら余計酷くなりそうだな。
この人からは、アイダリンと同じニオイがする……。
「ハァ……ハァ……ハァ……。ソーリィ、ついハッスルしてしまいマシタ。それとライム。“stay”デース。リピート・アフタ・ミー “stay”」
「すてぁい」
「good!」
いや、アンタも滅茶カタカナ英語使ってるけどな?
アンタ、本当は普通に日本語喋れるんだろ?
「しかし、その割には自分はずいぶんゴツいキャラを使っているんだな。キャラメイクは出来るんだから、それっぽくしても良かったんじゃないのか?」
確かに動かしにくくはあるだろうが、それを我慢すればリアルと同じ体でキャラを作らなくてはならないわけじゃない。
たまに歩き方が妙な人が居るが、それはリアルとは違う体格でキャラを作っている人なんだろう。
顔だって不気味の谷さえ気にしないなら自由に変更できる。
そんな僕の疑問に、マルタは人差し指を左右に振って応えた。
「ノンノンノン。拙僧は視聴者でいいのデス。拙僧はマホー少女が好きデスが、マホー少女になりたい願望はアリマセン」
まぁ、ネカマプレイも出来ないしな……。
脳裏に浮かびそうになる魔法少女姿のマルタを、鋼鉄の意思で阻害する。
ダメだ、そんなのを想像しちゃダメだ! 下手をするとマーライオンになるぞ!
「それと、こちらのVRMMOは隙あらばヒャッハー! とPK三昧デス。拙僧はそんな殺伐とした世紀末ゲームをプレイしたいんじゃアリマセン。ほわほわ萌え萌えしたいのデス」
そういえば、日本はPKが不人気らしいからね。
このゲームも基本的にPK出来ない仕様になっているし。
そうこう話している内に街道の向こうに木々が見えて来た。あそこが目的地のロロクの森なんだろう。
「Oh! 森が見えてキマシタワー! ではドウゾヨロシクお願いシマース!」
「お、おう……」
こうしてヘンテコリンな外国人、マルタを連れた僕たちは、ロロクの森へと初挑戦することに相成ったのである。




