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77 明日の予定は?

73話でアイダリンに謝罪させました。大きな変更点は御座いません。


・前回のあらすじ

 突発の防衛クエストを終えた主人公たち。するといつのまにかレアアイテムを拾っていた。

 それを物欲しそうにするアイダリンに進呈すると、興奮したアイダリンが主人公に抱き着いてキスの雨を降らせた。

 般若と化し、アイダリンにOSEKKYOUを始める未来。

 姉と近距離接触したことを逆恨みするシスコンのセイ少年。


「シスコンには救いがないな」


 主人公は、特大のブーメランを高く蒼い空に投げかけたのであった。

「ふう、終わった」


「…………」


 向こう側に行っていた妹さんが、なんだか顔を青くしたアイダリンを引きつれて戻ってきた。


「お、おい。いったい何をしたんだお前は……。アイダリン、大丈夫か?」


 と、アイダリンに手を伸ばすと、「ひっ!!!?」と悲鳴を上げて距離を取られた。


「……本当に何をしたんだ? お前は」


「別に? ちょっと“お話”をしただけだよ。だよね? アイダリン」


「ハイ、ソーデス。NTR、ダメ、ゼッタイ」


 しれっと話すライムに、壊れかけのブリキのオモチャのようにギチギチと返事をするアイダリン。


 ……どう見ても何もしていないって感じではないんだが?


 とはいっても、ここから見ていた限りは、ただ正座させて話していただけだったしなぁ。



「まぁ、問題がないならそれでいいんだが……」


「だいじょうぶ。軽率なマネはしないように言い聞かせておいただけだから」


「ヒトニハ、分相応トイウモノガアリマス。ソレヲ私ハ知リマシタ」


 ……本当に大丈夫なのか? コレ。





 ―― …… ―― …… ―― …… ――





「ええと、もう夕方ですし、もう落ちますね。セイもそろそろ落ちなさいよ? すぐ夕ご飯になるから」


 しばらくするとアイダリンも調子を取り戻したのか、元の状態に戻った。

 時間も時間なのでそのまま解散の運びとなる。


 ゲーム世界はもう斜陽していて、もう幾何ほどの時間もなく、この世界は夜の時間へと変貌してしまうだろう。



「それじゃ、本当にありがとうございました。私はもう落ちるからね、セイ」


「オレももう落ちるって。ちっ……おい、覚えてろよ! 次はお前に勝つからなっ!」


 ――と、ログアウトする寸前に、セイからフレンド申請が飛んできた。

 結局彼からは認められたんだが嫌われたんだか分からないな。

 まあ、フレンド申請されたんだからさほど嫌われてはいないんだと思うけど。



「さて、わたしたちも落ちてごはんにしよ、にーちゃ」


「ああ、そうだな」



 そういえば、昨日の『アレ』からなんだかんだと大騒ぎして、やっと丸々一日が過ぎたところか……、と斜陽を見て思い返す。


 なんだか、一日が妙に長く感じた。

 結局、ほとんど――というか何一つ解決はしていないんだけど、未来と僕の関係は少し変わったんだと思う。


 ほんの少しだけどね。






――【サーバーとの通信を切断しました。またのプレイをお待ちしております】――






 いつも通りベッドの上で覚醒する。


 さてはて、今回は妹さんのイタズラはあるのだろうか?

 ログインする前の記憶を呼び起こしてみるが、今回はシーツを交換しに来たぐらいで、妹さんがイタズラを仕込むような時間はなかったはずだ。



 ……なにはともあれ、とりあえずはVR酔いをしないように、VRギアはしばらく装着していないとならない。




 ………………

 …………

 ……




――

「あ、にーちゃ。ごはんまだ出来てないよ?」


「あぁ……」


 まだ少し時間が足りなかったのだろう。

 VR酔いで軽い眩暈(めまい)のする頭を抱えてリビングへと降りてきた。


 そのままソファにどかりと座り、そして項垂れる。


「にーちゃ、早かったけど、VR酔いに慣れてきた?」

「いや、そうでもないかな……」


 ……ただ、暇だっただけなんだよ。

 なにもしないでジッとしているのが。





 ―― …… ―― …… ―― …… ――




 今日の夕食はうなぎ丼と肝吸い。

 うなぎ丼のタレは妹さんのオリジナルだ。一度市販の蒲焼きを買ってきて、そのタレを洗い流してから軽く焼き直すらしい。



「ねぇにーちゃ、こう……ムラムラしてきたりしない?」


「食った直後に栄養にはならん」


 シャツの首から肩を出して、ブラ紐をちらっちらっと見せつけてくる妹さんだが……。

 覚えておくといい。そう露骨にやられると、男ってのは逆に萎えるんだよ。

 まだまだ勉強が足りないな。未来。



「ところでにーちゃ、わたし明日はお昼前ぐらいからいなくなるけど――」

「ん? そうなのか?」


 僕の返答に、未来は「やっぱり」とため息を吐いた。


「昨日の夕食の時に言った。やっぱりにーちゃ聞いてなかった」


「う……すまん……」


 昨日の今頃の僕は、上の空もいいとこだったしな。

 正直、夕食に何を食べたかも覚えていない。


「友達と遊ぶ約束がある。お昼ごはんは作っておくから、それを食べて」


「ああ、了解。……というか未来が外で食べるなら、わざわざ僕の分だけ作らなくてもいいぞ?」


 ――と、まぁ当然のようにその提案には未来から“NO”が宣言される。



「にーちゃの身体を形作っているのが、わたしの料理だと思うとゾクゾクしない?」

「わお、ヤンデレ発言だな。別の意味でゾクゾクするぞ? こっちとしてはな」


 って言っても、嫌悪感なんてまるでないけどね。


「にーちゃにはずっとわたしの料理を食べてもらいたい」

「……おう」


 どうにも、未来の口にする言葉の全てを冗談と切り捨てられなくなってしまったら、どことなく調子が狂うようになってしまったな……。


 真っ当に告白されたわけじゃないが、未来はたぶん――いや、ほぼ確実に、僕を兄じゃなく男として見てくれているのだと思う。


 ――いや、兄だけ(・・)じゃなく、男として()――が正解かな?


 兄であり、男でもある僕を慕ってくれているのだろう。


 今はまだ未来は待っていてくれる。

 僕の中の“何か”から、僕自身が踏ん切りをつけるまで。


 ごめんな。

 まだもうちょっと、あのクソ野郎の“呪い”は、僕の中で強いみたいだ。



――

「明日会うのは、女友達だけだから大丈夫だよにーちゃ。にーちゃも浮気しないでね?」


「そんな心配なんてしてないよ、バカ」


 ……ちょっとだけホッとしてしまったのは、未来にはナイショにしておこう。





 ―― …… ―― …… ―― …… ――





 夕食後に入浴。

 部屋に戻って、久しぶりにミニ妹ズとしばらく戯れてからログイン。




――【“brand-new World”へようこそ】――




 ログインした所で、妹さんもほぼ同時にログインしてきた。


「あ、にーちゃ」

「おう」


 ファアートは先程のイベントの面影など何処へやら、もう完全に平常運転だった。

 プレイヤーがパーティを組み、東の門から出てゆく。


 街の中に居るプレイヤーは、せかせかと道具屋に向かう人や、はたまた回復の噴水にいくのだろうか、大通りを早足に歩いてゆく人などがいた。


 道の端に寄ったあの数人は、(チャット)を楽しんでいるのだろう。くすりくすりとかすかな笑い声をあげている。

 あちらの初心者の青年は、買ったばかりの剣を携えて一人で門の方向へと進んでゆく。




「さて、僕たちはどうしようか?」


 僕はいつも通りにライムに問いかける。


 男として、女の子に丸投げは格好悪いのかも知れないが、正直なところ、ライムに訊かないと何をすべきなのかも良くわからないんだよね。


 その都度ライムが用意する答えを楽しんでいるという面も少なからずあるのだが……。



「んー……、にーちゃ、明日はどうするの?」


 明日?

 ああ、ライムがいない間の話か。


 どう、と訊かれても、特に何も考えていなかったな。



「別にゲームをしていなくても、夏休みの課題でも片付けていてもいいんだが……。まぁ“brand-new World”をプレイするにしても、どこかの野良募集にでも混ざるよ」


 そういえばまだ野良プレイなんかを経験していない。無理に経験しなければならないものでもないが、一度二度程度はやってみたくはある。


 僕の返答に、「うーん」と唸る妹さん。


「なら、ちょっと市場でも見て回ろ。――にーちゃの装備。悪いとは言わないけど、けっこう空欄だらけのはず」


 確かに、僕の装備アイテム欄を開くと、頭装備は無いし装飾品の欄も空っぽだ。

 足装備もゲーム始めに買った【ブーツ】なんて基本装備だしな。


「一応、野良に行くなら装備は整えていった方が無難。最低限の装備ぐらいはしていかないと、失礼にあたる場合もあるよ、にーちゃ」


「それもそうだな……」



 敵の根城に攻め入りに行くのに、「俺も連れて行ってくれ!」なんて言って、身一つで僕たちの前にやってきた奴もいた。


 旅の装備も、武器も防具もなく『お前は何をするつもりなんだ?』と突っ込みたい気持ちでいっぱいになったよ。

 それらを全て僕たちが用意するとでも思っていたのだろうか?


「……じゃ、見繕ってくれ。僕じゃゲームのことはよく分からん」

「おけ」


 また【荷袋】なんて無駄なアイテムを買っても仕方ないしな。



 ――そして、今日のこの時間は、僕の装備の充実の為に割かれることになった。

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