72 セイの聖戦
『バンっバンっバンっ! バンっバンっ!』
セイの発動ワードと同じ数だけ、僕は右へ左へと転がり回る。
手品の種は理解した。
だが、対処方法まで分かったわけではない――
「まったくっ! 厄介な相手だよっ!」
絶えることなく降り注ぐ、セイの雷魔法を回避し続ける。
だが、こうして逃げ回っていてもスタミナが減る一方だ。
そしてスタミナが切れた途端に僕は電撃の集中砲火を受けるだろう。
『ファイヤーボ――』
『バンっ!』
「!? ちぃっ!」
魔法で対抗しようとしても駄目。詠唱の短さで負けて、狙いを定めるどころじゃない。
セイの魔法が、いくら燃費効率が良いとはいえ、あれだけ連発しているのだ。いつかはMPが枯渇するだろう――
しかし、それを狙おうにも、その前に僕のスタミナ値が底を突くが先だろうな……
『バ――バン!』
「く!?」
陽動か!?
最初の『バ』の発声で、僕の身体は既に回避行動に入ってしまっていた。
何度も回避行動を繰り返している内に、僕はセイの声に合わせて身体を動かし魔法を避けるようになってしまっていた――
「ぬぅッ!」
もう回避が間に合わない。咄嗟に盾を上に掲げ、雷を防ぐ。
「ぐっ……あああっ!」
貫通性能を持った電撃魔法は盾を通過――
そして僕の身体を流れてゆき、やがて地面に散る。
貫通は100%ダメージではないが、流石に痛い。
「まだ終わっていないぞ!『バンっバンっバンっ!』」
休む間もなく立て続けに襲いかかってくる雷魔法。
「ッ……らあァ!」
身を低くし、セイを目掛けて真っ直ぐに走る。
まるで僕の足跡を消そうとするかのように、背後で雷撃が連続して落ちた。
――ロックオンした場所に落ちる雷ならば、一方向に走るだけでも回避出来る。
徐々に狭まる二人の間合い。
そのままセイに向かい、踏み込み斬りを行おうと剣を構えなおした瞬間――
『バンッ』
「――――ッ!?」
差し向けられていたのは『左手』ではなく『右手』の小指――
瞬間、セイの小指から発生したのは炎を吹き付けるような【ファイアブラスト】の魔法だった。
「くそッ! もう一つ指輪を隠し持っていたかッ!」
炎に遮られ、足を止めることを余儀なくされる。
その急停止によって、体勢が崩れた僕に差し向けられていたのは、セイの左手の五本の指全て――
セイの口元がニヤリと嫌な形に変化する。
『ばぁん――』
重なり合う五つの円陣。
天から振り下ろさせる絡み合った五条の雷光。
咄嗟に跳び退こうと腰を落としても、まだ身体がついて来てくれない。
「がっ! ぁあああ!」
五本分の【サンダーボルト】が僕の身体を穿つ。
ガクリと膝を突いた。
HPは一気に危険域。
一発一発は大したことのない弱魔法でも、それが五発分となるとかなりの痛手だ……。
「くっ……はぁ、やるなぁ、セイくん」
「ふんっ」
だが、おそらくはこれで持ち駒は全て出払っただろう。
――たしかに凄い。
こちらが魔法を使おうとしても、詠唱の短いマジックアイテムで後の先を取られ、近付いて攻撃しようにも炎の魔法で足止めされる。
しかしだ。
「だけど、手が無いわけじゃない」
「なんだと?」
僕の吐いた言葉に、セイの眉がピクリと動く。
「君が“魔術師”ではなく“手品師”だったならヤバかったかも、ね」
「“手品師”だと? 馬鹿にして――いや、ただの負け惜しみか? 見苦しいな」
「そうでもないさ」
セイの左手が僕に向けられる。
「スタミナが回復する前に押し切らせてもらう!『バン! バン! バン!』」
三発の雷撃。それを横走りにやり過ごす。
――ここまではいい。
三発目の雷を避けた瞬間。僕は足を止めて、右手を大きく振りかぶった。
『……バ』
「今ッ!」
手に持った剣を投擲。
それは逸れず、真っ直ぐにセイに向かって飛んで行く。
「なッ!?」
指差しで発生する連続の落雷魔法。だが、それの一連の動作には、一瞬の隙があった。
――薬指だ。
セイの戦い方の条件として、『指一本で敵を指差す』という動作条件が必要になる。
だが、薬指というのはそれ一本の単体では上手く動かないものなのだ。
その分、薬指の時は当然もたつく。
もちろん、指先がどんなふうにも動くように訓練された“手品師”ならば、その限りではないだろうが――
「ッく!『バン!』」
右手の小指を剣に向けるセイ。火炎放射が投擲された剣を包み込む。
――だが、それも悪手。
「う? うわぁ!?」
生き物だったなら、炎の前に生存本能が働き、その足を止めるだろう。
しかしなんの意思もないただの物体が、炎に怯むはずがない。
炎自体に飛来物を弾き返すような力はほとんどないのだ。
「う、くあ」
飛んできた剣をギリギリで避け、足をもつれさせるセイ。
その瞬間にさらなる隙が出来る。
「――“リアマグレル”」
「え?」
僕の放った炎の礫がセイを襲い、散弾がセイの身体を打つ――だが、それだけではセイのHPを削り切ることはない。
「く、くそ!『バ――』」
「……」
続けざまに僕は炎の散弾をセイに向けて放つ。
セイは、それを飛び退いてなんとか躱した。
「な、なんで詠唱無しで魔法が使えるんだよ!」
「悪いな、僕の知る魔法ってのは、そういうモンだったんだよ」
魔力を練る僅かな時間、それと狙いを定める時間。それさえあれば発動できるのが異世界の魔法であり、ここでの【創作魔法】だ。
この【創作魔法】は、クールタイムが無い代わりに魔力を操作するのに時間が掛かる。
だが……その魔力操作も僕には一日の長がある。
セイがリアマグレルを避け、それから指差して発動キーワードを口にするまでの時間より、僕が魔力を練る時間の方が早い。
「一応、“魔女王”直伝なんだよ。まだまだだけどな」
むしろ鼻で嗤われるだろう。「私なら、お前が一発撃つ前に十発の魔法を十倍の威力で発動できる」ってね。
「ぐっわ! うっ!」
回避の難しい散弾による連続攻撃に、セイも魔法を避け切れずに段々と被弾を増やしていく。
セイにゆっくりと近付きながら“リアマグレル”を連続して使い続ける僕。
二人の距離が縮まるほどにセイの被弾率は上がってゆく。
そして、剣の届く距離に至った時、僕はストレージからショートソードを取り出した。
「なんとか持ったな。もうMPがカラだ。悪いがトドメは剣にさせてもらうよ」
こっちのMPは空だが、セイのHPもリアマグレルの散弾に奪われ、もう残りわずかだ。
このショートソードで一撃入れるだけでも倒せるだろう。
「クソっ……! お前みたいな――お前みたいなストーカー野郎なんかに負けるわけがっ!」
……んん? ストーカー?
なんだそれ?
「リン姉が言ってた! 最近、変なヤツに付き纏われて困ってるって! それお前だろっ!?」
う、う~ん……。どっかで聞いたような話だ。
それ、たぶん情報がかなり古いんじゃないかなぁ?
「リン姉は俺が守る!」
セイは右手のナイフで、やけくそ気味に僕に切り掛かってきた。
それをショートソードで弾き上げる。
「……まぁ、説明は後でするよ」
するりとセイの背後に回り、身体を反転させながら剣を振り抜く。
そして背後から、撫でるように背中を斬り付けた。
背後からなら、斬られてもあまり怖くはないだろう?
【――YOU WIN――】




