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6 迫撃! スライム戦

「……買い物しなおす? にーちゃ」


「……いや、このままでいいよ」


 スタート時の準備金で、どうやら余計な物を買ってしまったらしい僕は、武器や防具を買うほどの残金を持っていなかった。

 まぁ、ナイフ一本でもなんとかなるだろう。その為の初期装備なんだろうから……


「とりあえず、北西の洞窟に生えるマタン茸の採取クエストを受けた。行くよ、にーちゃ」


「おう」


 どうやらクエスト受注のチュートリアル用の簡単なクエストを受けてきたらしい。

 兄妹揃って、とことこと草原を歩く。

 ただっ広い草原には、僕らと同じようにゲームを初めたばかりらしい簡素な装備の人たちがそこいらじゅうに居た。

 小型のモンスターと戦っている人も大勢いたが、特に苦戦している様子はなく――戦闘が行われているはずなのに、どこか牧歌的な雰囲気ですらある。


 丸々と肥えた一角ツノの生えたウサギと戦う冒険者を横目で眺めつつ、僕らはその先へと進む。


「そういや、オープンベータの頃の仲間とかは良いのか?」


 サボテンくんじゃないが、よく一緒にプレイした知人の一人や二人ぐらい居たんじゃないかと思う。

 僕みたいな剣でも魔法でも使うタイプ(予定)ならソロプレイも出来るだろうが、ライムは治療法師(ヒーラー)

 治療法師ならば、敵を攻撃する為の仲間が必要だろう。

 だから、ライムにも、β時代からの付き合いのあるパーティメンバーがいるんじゃないだろうか?


「心配ないよ、にーちゃ。オープンベータの時から、正式サービスはにーちゃと一緒にプレイするって何度も言っておいたから」


「ふ……ふぅん?」


 随分前から、僕にプレイさせる気まんまんだったんだね……? 間違えてコンシューマVR機を買ったっていう設定はどこに行った……


「なのにあのサボテンは……」


 ライムの額に皺が刻まれた。

 まぁね……思春期の少年だから、ある程度は感情で暴走するのは仕方ないとは思うけど、迷惑なのは間違いない。


「まぁ、そのメンバーに不義理にならないんだったらいいよ。――っと、来たな……」


 さっきまでは、周囲に沢山いるプレイヤーが、POPしたモンスターを倒してくれていた。

 だが、街から少し離れて周囲のプレイヤーの数も減ってきたので、mob狩りから漏れた敵が近寄って来たようだ。


「さて、初の戦いだ――」


 俺はナイフを構え、敵と対峙した。





 ―― …… ―― …… ―― …… ――





「逃げろ逃げろ逃げろッ!! 早く逃げろ! ライムッ!」


 改めて敵の姿を確認した俺は、その瞬間に即座に逃げ出した。脱兎の如く逃げ出した。


「ちょ、にーちゃ。なんで?」


「こんな装備で勝てる相手かっ!? 嬲り殺されちまうぞ!!」


 クッソ! ゲームだから序盤は雑魚しか出ないと思って油断した! こんなナイフ一本で勝てる相手じゃない!


 不形の魔物。自然の始末者。時間さえかければミスリルすらをも溶かし、人の身体なんて数分で溶かしきる。そして、取り付かれたら最期、絶対に引き剥がせない。


 細切れにしても再生し、体内に蓄えた水分の所為で、威力の低い火魔法では倒し切ることは出来ない。


 更に意外と俊敏で、隙を見ては強酸を吐きかけたり、顔に飛びつき張り付いて、獲物を溶かしながら窒息させる事もある。


 強力な火魔法で蒸発させるか、水魔法で個として成り立たなくなるまで希釈しながら水圧で吹き飛ばすか。もしくは土魔法で大量の砂を作り、完全に水分を砂に吸収させきるか――後は魔剣で攻撃するぐらいしか、倒す方法は無い。


 ……それが、“スライム”というバケモ――


「えいっ」


 ――ぽこん。


【戦闘が終了しました】




「は……?」


 スライムをなんの変哲もない杖で殴り付ける妹。

 そして、光の粒子を残して消えるスライム。


 間髪を入れず流れる『戦闘終了』のアナウンス――


「スライムは雑魚。これが日本の常識だよ、にーちゃ」


「はい……」


 妹さんの呆れ(まなこ)が、妙に胸に突き刺さるのだった。

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