65 夕焼けの中で
ボスの戦闘機コウモリ――正式名はフライトコンバットとかいったっけかな?――そのコウモリを倒した後、僕たちは洞窟の奥へと進む。
ボス部屋を抜けた洞窟の最奥は、ちょっとした集落があり、いくつかの石造りの建物――その廃墟が立ち並び、この場所の過去に人々の生活があったことを示していた。
ロロクの石造りの建物のような精練さは感じられない。ロロクの街よりも先の時代にあったものなのだろうか?
「あのレイスは、ここに住んでいた人たちだったのか……? 何故こんな湖の底に人が住んで――」
僕のそんな疑問に、ライムがあっさりと答える。
「それにしてはレイス多すぎ。さっきも行ったけど、どーせ運営は何も考えてないよ、にーちゃ」
……そんな身も蓋もない。
「じゃあ、なんでこんな所に建造物が?」
「それは今からわかるよ、にーちゃ」
……?
――――…………
集落の中心地。そこに祭壇のような物があり、祭壇の中心部には見るからに物々しい宝箱が設置されていた。
これがこのダンジョンの目玉なのだろうか? アイテムには期待できないと誰かが言っていたはずだが。
「うし、いよいよだぜ。マジ」
ルゥネンが宝箱に近づき、その蓋を開ける。
ギィィと軋む音。
開かれた宝箱の中から突然、レモン色の光が、天を突くように発せられた。
――そして、宝箱の中から、その存在を誇示するように、一枚のメダルが浮かび上がってくる。
「……なんだこれは?」
「“キンキラメダル”だよ、にーちゃ」
【キンキラメダル(中)】
:金色に輝くメダル。大陸の何処かにある交換所に持っていくと、良い物と交換してくれる
「ふむ……」
「まだ未実装だからなんとも言えないけど、公式によると――小なら1pt、中なら5pt、大なら10ptに変換できて、ポイントと引き換えに何かのアイテムと交換して貰えるらしいよ」
ほー……
「それはともかく、ここは『アイテム的な旨みはないけど、楽しい』って話だったよな?」
いや、そういうのは主観だし、水鉄砲で戦わなきゃならないってのは珍しかったけど、言うほど楽しかったか? と問われれば疑問が残る。
……僕が銃の扱いが不得意だからって理由だけじゃないはずだ。
「それはね、にーちゃ――」
【突発クエスト発生】
「な、なんだ!?」
突然にけたたましく鳴るアラート。
視界に出るポップアップダイアログ。
【メダルを手に入れろ!】
:メダルの数は一枚! ここまで共に戦った仲間を蹴散らし、ただ一人の栄光を掴み取れ!
:30秒後にスタートとなります。自分以外のプレイヤーと水鉄砲で戦い、残った最後の一人が【キンキラメダル(中)】を手に入れることができます。
――――はぁっ!?
「こういうことだよ! にーちゃ!」
「うっしゃ! やってやるぜ、マジ!」
「はぁぁ……私、こういうの苦手なんですよね。う~……」
「フフ、こういう時にショットガンは便利さね」
「市街戦でサブマシンガン! ロマンですよ!」
「ハむ……ジェノッサイ」
「あらあらぁ、どうしましょー」
視界に現れるカウントダウン。
この場から離れる為に、めいめいに駆け出すメンバー。
「な、なんだそりゃーーーー!」
―― …… ―― …… ―― …… ――
「――つまり、ラストのサバゲーが人気ってことね……?」
「いえす、ざっつらい」
あの集落は、サバゲーのゲームフィールドとして存在していたらしい……意味深な設定とか全然なかった。
「にーちゃは楽しくなかった?」
「……まあまあ」
ちなみに結果は、ショウが見事に優勝した。以下内訳。
マイテ:亀になっているところをルゥネンに後ろから撃たれる。
ルゥネン:室内での、僕との1on1で敗退。
僕:路地でライムと遭遇。双方撃とうとしなかったのでジャンケンで決定した。ジャンケンで勝った僕の敗退。
ライム:曲がり角で出会ったリンカとの、出会いがしらのショットガンの前に敗退。
アイダリン:建物を挟んだ市街戦、リンカとのバトル中、ショウにスナイプされる。
リンカ:同じくアイダリンとのバトル中、ショウにスナイプ。
キャペモ:なんだか嬉しそうにショウに撃たれる。
ショウ:一番高い建物の屋上に布陣。正確なスナイプで敵を圧倒。
「ヌむ……芋砂最高」
「ショウちゃんすごいのねー」
結局、道中ではイマイチ目立った所の無かったショウが1位という結果になった。
ちなみに景品のキンキラメダルだが、キンキラメダル(小)は結構普通に宝箱から出るらしい。ロロクダンジョンなんかではよく出るのだとか。
つまり、別にここでしか取れないようなものではないってことね。本当にただのサバゲの景品だったみたいだ。
「ン……」
「あらあら、どうしたのショウちゃん」
ショウは手にもったキンキラメダルをキャペモに差し出していた。
どういうことだろうね?
「フぬ……今日のMVP。景品」
「あら~、あらあらあら~~!」
確かに、今日はキャペモがずいぶんと活躍していた。レイスの負けイベントはキャペモのレーザーが無かったら勝てなかったし、ボスのHPの6、7割を削ったのはキャペモだ。
「ショウちゃん、ありがとねぇー。大切にするわー」
「ヌむ……」
嬉しそうにはしゃぐキャペモと、少し照れ臭そうなショウ。
なんだかほっこりとしたやりとりを見てから、僕たちは祭壇の上に出来た転送陣に乗るのだった。
――――
「はー、なんか疲れたな」
廃墟の集落の転送陣を使うと、湖の畔まで転送された。
外はもう薄暗く、周囲の林から木の葉の擦れ合う音が大きく聞こえた。風が出てきたのだろう。
――そろそろ太陽が沈む。
この“brand-new World”の世界は、これから夜の時間になるのだ。
「キレイだね、にーちゃ」
「ああ、そうだな――」
湖面にオレンジ色の光が反射し、キラキラと輝いていた。
西日に照らされた木々は黒く影で染まり、その姿をシルエットとして浮かび上がらせている。
湖面に沈む太陽を眺めていた僕の隣にライムが並ぶ。
ライムの指が僕の指を絡め、僕の肩に体重を預けてきた。
二人とも身に着けているのは水着のみ。直接触れる肌と肌が、お互いの体温を伝えてくる。仮想世界でも、熱は感じられるようだ。
寄り添うように水際に立ち。西の空に沈む太陽を、二人で黙って見ていた――――
「ホント、仲良いねぇ。あんたら兄妹」
――っとっとっと……なんとなく感傷に浸ってしまったが、
そうだ……、今は二人きりじゃなかった。大勢の友人が一緒にいるんだった……。
「らいむちゃん。βの時から、『お兄さん大好き』ってよくいってましたもん」
「んだな。マジ重症のブラコンだ」
「ンむ……」
「うふふー、『オマエらもう結婚しちゃえよ』ってやつですねぇー」
「残念ながら現在の日本の法律では、三親等内の婚姻は認められていません! しかし、しかしですよ? 正式な婚姻関係ではなくとも、実質的な婚姻関係があると認められる『内縁関係』というものもありまして――――」
アイダリンは鼻血流しながらナニ言ってんだか……
「出来るよ? 結婚」
――――は?
なんでもないことの様に、ライムがそう口にした。
「ハハ、なに言ってんだ……? 兄妹が結婚できるワケ――」
「出来るよ? 血、繋がってないもん」
……………………え?




