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63 コウモリだけが知っている

 苔生して湿度の高い洞窟の中を進む。

 途中、負けイベ突破のご褒美宝箱が人数分あった。


 僕が手に入れたのはエメラルド。

 素材アイテムらしい。そこそこの当たりだそうだ。

 後はルゥネンが気金属のインゴットというこれまたそこそこの素材。篭手の素材の一部にすると、気属性のスキルにボーナスが付くんだとルゥネンが言っていた。


 後のみんなは『まあこんなモンか』と口々に言う程度のアイテムだったらしい。

 まぁ、最初からアイテムには期待出来ないみんなが言ってたし、さもありなん、というところなんだろう。



 洞窟の中では、時折レイスとウィルオウィスプが混成して出てきたが、流石に先程の負けイベほどの量が出てくるわけでもなく……。

 無難に撃退しながら進む。


 特にアイダリンの勢いが凄く、「今の私はテンションアゲアゲですよー!!!!」と叫びながら、短機関銃を乱射していた……


 いや、アイダリンさん。そーゆーんじゃないからね? まじで。



 そうしてしばらく進むと、かなり道幅の広い場所へ出た。なにかしらのイベントがあるのがまるわかりだ。


「にーちゃ、ボス」

「だよなぁ」


 メンバーの殿(しんがり)が道の広がった場所に入り込んだ時点で、洞窟の奥の暗闇から、バサリバサリと羽音が聞こえてくる。


 そして姿を現したのは、体長150センチほど、翼長は3メートルにも届くような、真っ黒い巨大なコウモリだった――。


「“フライトコンバット”だよ、にーちゃ」

「……ううん、微妙なダジャレだな」


『コンバット』と『バット』――

 名前がダジャレになってるといえばなってるんだが、運営の悪ふざけに慣れてしまった今は、どうにもパンチが感じられない。



「……まあいいや、いくぞっ!」


 ライフルを構え、敵の前に躍り出る。

 ただでさえ命中精度の低い水鉄砲だ。飛び回られたら、当てるのに苦労するだろう。


 照準を巨大コウモリに合わせ、引き金を引いた。

 その瞬間――空中でホバリングしていたコウモリが、こちらに向かって、突如として急降下をしてきた。


「――なッ!?」


 慌てて身を捩り、コウモリの体当たりを回避する。

 ……なんだアレは? コウモリの動きなのか?

 どちらかと言うと、鷹や鷲が獲物を狙う時の動きじゃないのか? あれは。


「オイ、また来るぞ! マジ!」


 パーティの真ん中を突っ切るように飛んで行ったコウモリが、その身体を反転させて、再度突入してきた。


 ……というか上昇旋回(インマンメルターン)!?

 ――コイツ、鷹や鷲みたいな動きではない。

 これは……



「戦闘機だ……ッ!」



 ――ダタタラタッ!


 コウモリと交差する瞬間。コウモリの顔の辺りからなにか(・・・)が射出される。

 それをビート板の盾でなんとか防ぐ。

 軽くはない衝撃が盾を通じ、腕に伝わってきた。


「ッち!」


 即座にライフルを構え、飛び去るコウモリの背中にライフルを放つ。

 ――だが、高速で飛行する物体に、水鉄砲の弾などがそうそう当たるものではなかった。



「なんだ? 何を飛ばして来た……?」


 まるで銃弾のような何かを飛ばしてきたコウモリ。そんなもの飛ばすコウモリなど聞いたことがない。

「にーちゃ。他のプレイヤー間でもあれが“何”かはよく分かっていない。――でも、あれは鼻から出てきてる」


 あの、コウモリ特有の豚みたいな鼻か? なんでそんなとこから……


「だから、こう呼ばれている――“ハナクソバルカン”とっ!」


「きったねぇな!? おい!」


 なるべく喰らいたくないぞソレ。小学生のあいだじゃ、エンガチョまっしぐらの案件だぞ。



 ああ……そんなことを言ってる間に、あのコウモリが旋回を始めている。迎撃体制をとらねば――


「撃てっ! 弾幕を張って迎撃するぞ!」


 コウモリに殺到する水弾の雨。

 だが、そんなものは物ともせず、弾幕の合間を縫う様に飛来する一機の戦闘機。

 あいつ、バレルロールまでしてやがる!


「ちぃっ!」


 ――ダダダダッ


 すれ違いざまにハナク――弾をばら撒いてくるコウモリ。

 こちらの弾も、アイダリンのサブマシンガンやリンカのショットガンの弾は、少し当たっているが、ダメージとして見たら微々たるものだ。


 一方でコウモリのバルカンの攻撃力も、さほどは高くはないものの、こちらの体力を確実に削ってきている。

 今の交差で僕も、盾で防ぎきれなかった弾を多少食らってしまっていた。


 ――そしてまた旋回。

 通り過ぎて行ったコウモリが、またも僕たちに襲い掛かる。


「マイテ! 突貫して、ヤツを盾で叩き落とせっ!!」


「は、はいっ! うおおおー」


「他はマイテを掩護! 弾幕で飛行経路を制限して、マイテの正面にヤツを(おび)き出せ!」


 味方の弾幕を背に、マイテが突撃する。

 他のメンバーはマイテの左右上部に弾をばら撒き、コウモリがマイテの正面に来るように誘い込み、マイテとコウモリが正面から衝突するルートを作り上げる。


「うわっ! 思ったよりデカっ!! 怖っ!」


 マイテがなにか叫んでいるが、もう慣れた。

 ご褒美なんだろ? それ。


「衝突するぞ! 踏ん張れ!」

「はいっ!」


 マイテは足を止め、衝撃に備えて腰を落とす。

 コウモリは速度を落とすことなく、グングンとマイテに迫る。

 あの勢いでぶつかれば、その衝撃で確実にあの飛行物体は地に叩きつけられるだろう。


 ――なのに、何故あいつは減速をしようとしない?



「ど、どっせーーーい」


 衝突の瞬間に合わせ、マイテが咆哮を上げる。

 ――否、しかし


「……はぇ?」

「なっ!?」


 戦闘機コウモリは、マイテの盾と衝突する直前でを機首を上げ、盾を(かす)めるような軌道でマイテの頭上ギリギリを通り抜ける。

 そしてすれ違う瞬間に、まるで落とし物をするように、ポロリと何かを投下させた。


「はわ? はえっ!?」


 ――ド――ゴォオオオオ……ンッ!!!!


 その“なにか”は、接地すると同時に閃光を放ち、マイテを爆心地に爆風と爆煙が巻き上がる。


 土煙が舞い、視界は遮られる。煙の中心にいるはずのマイテの姿は見えない。


「はえ……はえ……はえぇ~……」


 土煙が落ち着き、その中心に見えたのは、ピヨピヨと失神しかけのマイテの姿だった。


「クっ……ヒール――いや、ポーションは!?」

「どっちもここでは使用不可だよ、にーちゃ」


 くそ、これ以上マイテに無理はさせられないな。

 あのコウモリ――あんな攻撃まで隠し持っているとは……。



「ちなみにアレは、おしりから投下するので“う○こ爆弾”と呼ばれているよ、にーちゃ」


「またきったねぇな!? おい!」


 いや、わかるよ?

 ファ○コン時代のレトロゲームとかは、荒いドットで敵の弾が表現されていた。

 なので実際には何が出ているかは判断できないから、当時の子供プレイヤーからはその攻撃を「う○こ投げてきた!」とか、「ハナクソ飛ばしてきた!」とかよく言われてたらしいけどさ!


「とりあえずそれはいい、それよりどうやって倒せってんだ? あの敵は」


 無理ゲーもいいトコだ。あんなのを撃ち落とすのは不可能に近い。


「攻撃するチャンスはあるよ、あのボスは一定時間飛び回ったら、天井に張り付いて休憩するんだよ、にーちゃ。ほら、飛んでった」


 今までは戦闘機のように、まったく羽を動かさずに前傾姿勢で飛んでいたコウモリが、バサバサと羽を動かして天井に向かってゆく。


 なるほど、そうして動きが止まった時が反撃チャンスか。


「よし、一斉攻撃をするぞ! 構え!」


「ダメ、にーちゃ。一人が攻撃したら、またすぐに飛んでっちゃう。複数人で攻撃するのはタイミングがシビアすぎる」


 ヌゥ……めんどくさい敵だな、ちくしょう。


「ならキャペモだ。レーザー水鉄砲のチャージは溜まったか?」


「半分くらいですねぇー。撃っちゃいますー?」


「頼む」


 キャペモが逆さまになって天井に止まるコウモリに狙いをつける。その間に僕たちはリロードを済ませておく。



「む……むむむ? いきますよー」


 ――ピィイイイッ


 レーザー光線のような青い光がコウモリ目掛けて放たれた。

 そして、一拍置いてからの爆発。


 ――ズドコォォッ!!

 

 先程レイスを一掃した時ほどの威力はないが、それでも空気を震わせるほどの音を立て、爆風が頬を打つ。



「みゅむ……? やったか?」


 ……普段あんまり喋らないくせに、なぜそういうフラグは立てるんだ? ショウよ……


「残念ながらまだだ」


 視線の先。爆煙の中から煙の尾を引かせ、コウモリが飛び出してくる。


 残念ながら、先程のレーザー光線はコウモリを直撃する軌道を取っていなかった。

 爆発の直撃から逸れた為か、コウモリに与えられたダメージはHPの3割程度でしかなかったようだ。


 キャペモのレトロ水鉄砲は、他の水鉄砲に比べて一直線に飛びはするものの、照準を合わせる部分が無い。あれで正確に敵を撃てというのは酷だろう。



「とはいえ、手が無くなったことに変わりないか……――来るぞ!」


 高速で飛来するコウモリに向けて、僕はライフルを構えた。

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