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62 聖母のような抱擁で。

「次っ! 右いくよっ!!」

了解(ラジャ)


 中央のマイテを基点に、左右でレイスが抜け出しそうな方にショットガンを撃ち込んでもらう。


――ブパンッ――


 リンカの銃から散弾のような水しぶきが発射されると、レイスたちは消滅まではせずとも、強力なマン・ストッピングパワーで押し返される。

 

 流石は面制圧に優れたショットガン。

 そうやって敵の進攻を防いでくれるだけで、こちらの後退は無くなった。

 だとすれば、後は僕が、少しずつ数を減らしていけば良い。


「マイテ、押し返せ!」

「は、はいぃ!」


 しばらくそうして耐え続けている間に、僕たちの逆サイド――後方のレイスは殲滅完了。


 そのまま僕たちの方へと流れてきたメンバー。

 全員の攻撃で、前方のレイスに宛てれば、片付いた


「はぁぁぁ……終わった。なぁ、これって結構無理ゲーなんじゃないか?」


 かなりの敵数があった。数にして200体ぐらいのレイスが湧いたんじゃないかと思う。


 通常戦闘だったなら、攻撃魔法なりの広範囲攻撃でなんとでもなっただろう。

 しかし、攻撃力固定の水鉄砲とスキル封印状態のここでは、あれを撃破するにはかなり無理があると思う。

 キャペモの水鉄砲が無ければ、いずれ戦線は崩壊して押し潰されていただろう。



「いや、にーちゃ。本来は逃げるんだよ、ここの戦闘」


 そういってライムが指差した先には――

 なるほど今まで岩の影が差して分からなかったが、よく見ると狭い横穴が開いていた。


 ……となると。



「負けイベントを無理やりねじ伏せたのか……」

「こっちのが近道。正規ルートは罠とかいっぱいでめんどくさい」


――

 負けイベントとは、RPGなどでよくある、シナリオ演出のために設けられたイベント戦闘のこと。

 本来ならば敗北してしまえばゲームオーバー。

 プレイヤーが負ける事を前提に作られたその特殊戦闘では、敵に負けることで物語を進めることが出来るようになっている。


 ここも押し寄せる敵の大群から逃げるのがゲームとしては正しいのだろう。パニックホラーもののゾンビゲーでは必須とも言える展開だ。



 ストーリー上で『負けイベント』で負けるのは当然。

 それなのに『頑張ればなんとか勝てる』というゲームもまた多いのだ。

 たった今切り抜けたイベント戦闘も、そういった『頑張ればなんとか勝てる』タイプの負けイベントだったらしい。


 このタイプの負けイベントは、敵を撃破することによって、特殊アイテムが手に入ったりすることもあるし、もしくはほんの少しだけストーリーに変化があったりする場合もある。




 ――だが、負けイベントの業は深い。

  そうやって『勝てるかもしれない負けイベ』もあれば、やはり負けイベントの名の通り『どう足掻いても勝てない』ものも当然ある。


 負けイベントが発生するのはいつも突然だ。

 プレイヤー(こっち)は、その戦闘が負けイベントだなんてことは知らないから、なんとか勝とうとする。

 その際に希少なアイテムとかも使って敵を倒そうとするが、当然どうやっても勝てない。


 ――そして全力全霊を尽くした上で負けたらイベントが始まるんだ……。


 そんな経験があるプレイヤーは、当然『負けイベント』というものを学習する。

 なので、妙に強い敵と遭遇した時、『あ、この敵ちょー強い。負けイベントだな』とアタリをつけて、いい加減に戦う。

 そうして死んだら【GAME OVER】の文字が画面に踊った時の不満感は凄い。


 隔ターンで全体麻痺してくる敵をどうやって倒せってんだろう? え? アクセサリーで麻痺耐性をつけろ?

 初見殺しもいいとこじゃねーか!



 …………嗚呼、前にセーブしたのいつだっけ?




――


「いくよにーちゃ。……どうしたの?」


 ――っと、そんなどうでもいいことを考えていたら、他のメンバーは既に道の先に進んでしまっていたらしい。

 その場から動かずにボーッとしていた僕を、ライムが怪訝そうな顔で振り返っていた。



「あぁ、いやごめん。ちょっと嫌なことを思い出してね……」


 いやまあ、すっげぇくだらないトラウマですが。


「……にーちゃ」


 すると、ライムはすととと、と近寄ってきて、ぎゅむりと僕の胸元に抱き着いてきた。


「にーちゃ……だいじょぶ?」

「は? え……?」


 ライムの、僕を抱きしめる腕の力が、きゅっ――と強くなる。

 お互いが水着。触れ合う肌と肌がライムの体温をダイレクトに伝えてきて、心地良いような、恥ずかしいような感情を揺り起こす。


「にーちゃ、だいじょぶ。だいじょぶだよ」


「え、あ、いや……」


 え? なに? どゆこと? これはどういう状況なんだ?



 ――――……あ、解った。

 これアレだ。未来の甘えさせモードだ。


 さっき、僕が『嫌なことを思い出した』――なんて言っちゃったから、僕が異世界でのトラウマを思い出したと勘違いしちゃってるんだ、この子。



「にーちゃ、わたしがいる。だいじょうぶ」


 未来の甘く柔しい声と息が胸にかかり、じんわりと熱を伝えてくる。

 ただただ優しく、まるで泣きぐずる子供を抱きしめる母親のように、未来は僕を柔らかく包み込む。



 …………うわー、とてもじゃないが、


『昔やったゲームで、負けイベだと思って早々に諦めて全滅したらGAME OVERになっちゃった。んで再スタートしたら最後にセーブしたのが二時間前でげんなりした事を思い出していたよ、ハハハ』


――なんて言えない雰囲気だよ? これ。



「にーちゃ」

「お、おう」


 さて、そんなことをしていれば、奥の方から『あれ? あの二人は?』なんて声が遠く聞こえる。

 ……付いてくるはずのメンバーが見当たらなかったら、当然、誰かが探しに戻ってくるよね……?


 んで、今の我々と言いますと、水着という肌の露出が極端に多い恰好で抱き合っているわけで……


 ……どう考えてもマズいです。事案発生です。兄妹のスキンシップで通すにはちとキツい状況です。


「未来、ほら、誰か来ちゃうから……」

「……」


 スッと、肩を押して未来を離そうとするが、未来は離れようとしない。離してくれない。


 駄目だコレ。

 甘えさせモードの未来は、ただ僕の味方で有り続ける。ただ僕の弱さを許容する。人にどう見られようと気にしない。人にどう思われようと関係ない。


 ――僕の心が落ち着くまで、絶対に離しはしない。


 それは言葉に出来ないほど、ありがたいし嬉しい。



 ――だけどね? でもね? 今回はそーゆーんじゃないからっ! すっげぇくっだらねぇこと思い出しててボーッとしてただけだからっ!!


 妹さんゴメン。マジゴメン! 後で土下座でもなんでもするから、今は早々に離れてください!!



「未来、もう大丈夫だから……、な?」

「ほんと? 無理してない? にーちゃ」


 むしろこうしてると、どんどん胸が痛くなってきます。罪悪感でね!

 今の未来は、いつもの悪ふざけでくっついてきているんじゃなくて――100%善意っていうか、愛情からだからなぁ……。無理に引き剥がすことも出来ない。



「ああ、大丈夫。ありがとう未来」

「うん」


 軽く背中を(さす)ると、ようやく未来は離れてくれた。胸に残った温もりが急激に失われてゆく感覚に寂しさを覚えるが、事は急を要する。


 妹さんが離れた瞬間、慌てて周囲を見回すが、まだ他のメンバーは僕たちを迎えには来ていないようだ……。

 良かった。誰にも見られなかったか……。

 と、ホッと胸を撫で下ろした瞬間、岩の陰に隠れた人と眼が合った。


 ひくりと上がる僕の頬。

 眼の合った人物は、恍惚の笑みを浮かべてこう(のたま)った――



「近親相姦は、犯罪じゃないんですよ……」


 岩陰からこちらを覗くアイダリンの鼻からは、一筋の血が垂れ流されていた……。

私はなんで、長文で負けイベの力説をしてしまったんだろう……?


9/2

流石にくどすぎたので改稿……(あんまり変わってない気もする)

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