60 湖のダンジョンへ
――【“brand-new World”へようこそ】――
「あ、おかえりなさい。おにーさん」
ログインすると、すでにほとんどのメンツがログインしていた。居ないのはキャペモとショウか。
――と人数確認をしている合間に、ショウが昼食を終え、ログインしてきた。
「ヌふ……ただいま」
そして返るおかえりの合唱。
「はぅ……そろそろ夏休みの宿題もしろってかーさんがうるさかった」
はは……耳の痛いセリフだ。結局僕の夏休みの課題も全然進んでないしね……。
ショウがログインの後、間を置かずにキャペモも戻ってきたところで、ルゥネンが声を上げた。
「じゃ、午後からは湖底洞窟でマジOK?」
「ん?」
湖底洞窟ってなんだ? どこかにダンジョンがあるのか?
「にーちゃ、この湖の底にはダンジョンがある。この【ウォーターキャンディ】を舐めれば、水中で呼吸出来る」
そういって手の平に落とされたのは、最近では見かけなくなった、蝶のような捻じり包みの、ビー玉サイズの飴だった。
その飴を早速、口の中に放り込んでみる。
「……まんま、ビー玉甜めてるみたいだ」
「VRだから味しないしね」
ちょっとぐらいフレーバーを付けるぐらいならいいのにな。変な感じだよ、コレは……
―― …… ―― …… ―― …… ――
みんなでざばざばと水を掻き分け入水。湖底へと足を進める。
遠浅の湖とはいえ、奥に進むにつれて水深は深くなり、だんだんと辺りは暗くなってゆく。
まわりにいくつもの淡水魚が泳いでいたが、シュノーケリングのような華やかな色合いではなく、水草も緑色が主体で、苔のようなものばかりだった。
深緑の水の中を歩き、辛うじて数メートル先が見える程度の薄暗い中を進んだ。
段々と水の色が色を濃くしてゆく中を歩き、口の中の飴が少し小さくなってきたな、と思った頃――ようやく水底の岩場に縦穴が見つかる。
その穴を降り、道なりに進んでゆくと段々と横穴になってきた。
その内に登り坂へと変化し、そのまま進んで行くと水面の境が現れた。
そこから水の上に出ると、その場所はすでに、立派な洞窟の内部になっていた。
ごつごつとした岩肌は苔生し、緑色をしている。
ところどころに生えたシメジのような小さい茸が光り、薄暗いながらも視界は保たれている。
「うし、迷わず来れた。マジラッキー」
口の中に残った飴をガリンと噛み砕くルゥネン。
「私、ここ来たことないんですよねー」
アイダリンはパレオを絞り、水を切っている。波立った髪が、水を吸ってペタリと寝てしまっていた。
「アタシもだね。まぁ生産職なんてやってると、どうしてもダンジョンなんかにゃ縁遠くなるけど」
リンカは濡れた濃紫の髪をうざったそうに後ろに流している。
「まぁ、そんなに来るところでもないですしね」
マイテはピピピッと猫耳を動かして水を切っている。……あの耳ってあんなふうに動かせるんだ?
濡れた透明なパレオが身体に張り付いて、なんかちょっとエロい。
「錬金的にはー、欲しい素材もあるんですけどぉー、そんなに量が必要でもないですしねぇー」
「ぅむ……旨味はない」
キャペモは水の滴る自分の赤茶髪もそっちのけで、ショウの髪を梳き、水気を切ってあげている。
「じゃあ、なんで来たんだ?」
「答えはかんたんだよ、にーちゃ」
ライムの浅葱色のボブヘアーも、濡れて乱れている。まぁ、これは風呂上がりによく見るので新鮮味はないけど。
「楽しいからだよ」
そうして、手渡されたのは、一丁の銃だった――
―― …… ―― …… ―― …… ――
「水鉄砲……ねぇ?」
僕の右手にはプラスチック感そのままの半透明なライフル銃。左手にはビート板が括りつけられている。これが武器と盾なんだそうだ。
恰好も水着姿のまま。
普通の装備に変更してみようとしても、エラービープが鳴るだけだった。どうやらここでは装備アイテムが限定されるようだ。
どうやらスキルやアイテムも一部を除いてほとんどが使用不可能らしい。
「銃には自信がないんだが……」
剣ならば十年の実績があるが、銃は使ったことがない。それこそBB弾を飛ばすトイガンを弄ったことがある程度の経験だ。
「まぁ、アトラクションだと思っていいよ、にーちゃ」
ライムの手にはタンク付きの大口径銃。
順に説明すると、
ルゥネンはハンドガンの二丁拳銃。
マイテはゴムボートの盾とハンドガン。
キャペモは昔ながらの押し出し式水鉄砲。
ショウはスナイパーライフル。
アイダリンは短機関銃。
リンカはショットガン。
「敵、出ましたっ!」
マイテが先陣に立ち、ゴムボート盾を構える。その向こうに見えるのは、青白い火の玉。
「ウィルオウィスプか」
いわゆる鬼火というやつだ。日本なんかでは昔は墓場で本当に見えたらしい。
土葬が当たり前だった頃に、遺体から出たガスの類いが自然発火したものだとか言われていたりする。
……まぁ、ゲームでは関係ないが。
「っしゃ、行くぜ! マジ!」
ルゥネンが飛び出し、両手に持ったハンドガンを、火の玉に向けて引き金を引く。
オレンジ色の半透明の銃が火を――もとい、水を噴いた。
――ジュッ
水を被ったウィルオウィスプは呆気なく消滅。
しかし夕暮れに街の明かりが灯り出すように、辺りからは次々とウィルオウィスプは出現を始めた。
「このっ!」
僕も敵にライフルを向け発射してみるが、水はウィルオウィスプの下をかすめただけだった。
水鉄砲らしく、弾はかなり山なりに飛ぶようだ……。
「慣れるまで少しかかりそうだ、なっ……っと」
次弾発射。今度は命中。ウィルオウィスプの一匹は消滅する。
「こりゃ、ルゥネンみたいに前に出た方が良さそうだ」
ルゥネンの持つハンドガンタイプでは、さらに射程が短いのだろう。ほとんど殴りかかるような距離で戦っている。
――ボッボッボッ
ウィルオウィスプが吐き出すテニスボール大の火球、それをマイテがゴムボートの盾で防ぐ。
うん、よくゴムが溶けないね。と思ってしまうのは野暮だろうか?
マイテは、盾と逆の手に持ったハンドガンで反撃はしているが、僕以上のノーコンらしく、まったくもって当たっていない。
うん、ガンバレ。あっちの敵がかたまっている場所を狙うといいよ。どれかには当たるでしょ?
――と、その敵が固まって居る場所に、タパパパパパッ……と水弾が連続発射される。
「アッハハハッ!! 小火は消火だァー!」
楽しそうですね、アイダリンさん。
良い笑顔をしたアイダリンが、サブマシンガンを乱射し続けている。
「ちまちましたのは性に合わないねぇ」
リンカがショットガンの引き金を引くと、散弾となった水飛沫が広がり、一度に4~5体のウィルオウィスプを消し飛ばしてゆく。
……ちまちましたのが苦手な生産職って、まずくないですか? リンカさん。
……なんだか、サブマシンガンとショットガンが異様に強くないか? ハンドガンとライフルとかオワコン?
「にーちゃ、サブマシンガンやショットガンは、弾がその分切れやすかったり、リロードに時間がかかったりする。威力も低い。ウィルオウィスプぐらいだと威力とか意味ないけど」
おう、そうか。バランスぐらい考えてあるよな? 運営。
――と、まあ、数は多いが鎧袖一触もいいとこのウィルオウィスプを殲滅し、洞窟の先に進む。
時折出るウィルオウィスプで射撃訓練をしながら歩いていると、なにやらぼんやりと霞がかった白いものが近付いてきた。
「っ――幽鬼か!?」
その白い霞は人の形をしていた。薄らぼんやりと光る人の霊は、生への執着という呪いによって、死に至れない抜け殻の魂――
僕の知っているレイスならば、厄介な相手だ。物理攻撃は一様に透過し、魔法攻撃もほとんどが効果を得られない。
神聖魔法で浄化するか、属性転換させていない、純粋な魔力による無属性魔法を撃ち込むかしないと倒せない難敵だ。
……というのは異世界での話で、今はゲームの世界なんだから、そこまで驚異的な敵ではないだろうが……
それでも現在のこちらの攻撃手段は水鉄砲のみしかない。果たして水鉄砲で倒せる敵なのだろうか?
「にーちゃ、銃の中の水は聖水だっていう設定」
ライムの大口径銃が水を噴く。
射出された水はレイスの肩口に当たり、その部分を大きく削り取った。
「むぅ、外れた」
再度発砲。見事にヘッドショットを決め、頭部の無くなったレイスは怨嗟の声――と言うにはちょっと迫力のない声をあげて消滅してゆく。
――だが、レイスは一匹ではない。
ライムに倒されて消えてゆくレイスの後ろからも、ゾロゾロと大量のレイスが姿を現し始める。
「なんだなんだ!? ここは戦場かなんかだったのか!?」
この数のレイスが出るのは異常だ。
それこそ大量虐殺があったか、戦場になった地だとか、なにかしらの曰くが無ければこうはならない。
「にーちゃ。運営がそこまで考えてるワケがない。敵キャラとして出しただけ」
……ですよねー。
「そもそも、銃ゲーム=ゾンビってイメージで、本当はゾンビ出したかったけど、グロすぎて無理だったって、開発ブログに書いてあった」
ああ~、うん。グロいよね、アレは。
臭いとか酷いし、臭いが身体に染みつくし、近距離で戦うとピチャっと飛ぶし、付くし……
セルシンもアルベルトもゾンビだけは突貫しないで、後衛の魔法攻撃に任せてたなぁ……
そうしている間にも、レイスはワラワラとこちらに向かって来る。
しかしいまいち足が遅い。本来はゾンビ出すはずだったことに影響があるのだろうか?
「ヒャッホー! レイスは浄化だァー!」
レイスにアイダリンの撃つ銃弾が殺到する。
アイダリンのサブマシンガンは連射こそ利くが、一発あたりのダメージが低い。それがレイス相手では顕著に表れた。
リンカのショットガンも、攻撃範囲は広いが穴だらけになってもレイスは動いている。効果は薄そうだ。
「っち!」
前に出て、石を投げたら当たる――ぐらいの距離でライフルの引き金を引く。
ヘッドショットが決まったレイスは、ライフルの威力で簡単に消滅する。
ライフルなら攻撃力が高いので、頭を狙えば一撃で倒せるみたいだ。
……とは言え、流石に数が多い。
『ォァオオオオオッ!』
レイスの咆哮と共に、霊気弾が投擲されるが、僕はそれをビート板で弾き、即座に銃弾を撃ち返す。
頭を失ったレイスは、光と共に消滅する――が、一体を葬ったところで、後続が次々にすし詰めでやって来る。
結構まずい状況だ。物量に押されてしまっている……。
「んじゅ……後ろからも来た」
ショウの声に、跳ねる様に背後を振り向く。
そこに見えたのは、前方の敵と変わらぬほどの量の白い幽鬼の大群だった。
水鉄砲は威力固定です。
だいたいの性能の目安としては五段階評価で(一部特化部分は6)以下のような感じになってます。
・ハンドガン
威力3 連射性4 弾数4 リロード5
射程3 範囲1
・ライフル
威力4 連射性3 弾数5 リロード3
射程4 範囲1
・サブマシンガン
威力1 連射性6 弾数2 リロード2
射程2 範囲1
・ショットガン
威力3 連射性1 弾数1 リロード1
射程2 範囲5
・強化ライフル
威力5 連射性2 弾数3 リロード1
射程4 範囲2
・クラッシックWガン
特殊武器
・スナイパーライフル
威力4 連射性2 弾数3 リロード3
射程6 範囲1




