53 二度目のカエル戦(決着)
したたーん、したたーん。
ステップを踏む音が辺りに響く。
ルゥネンがなんやかんやとやってる間も、僕は反復横跳びを繰り返し、【プロボークステップ】でのヘイト稼ぎをしていたのだ。
「……かっこわる」
うるせーよショウ。戦いは綺麗事じゃねーの。昔の偉い人も言ってるだろ? 勝てば官軍。勝てば良かろうなのだ。って。
カエルと共に吹っ飛ばされた青剣は諦め、ストレージから芋剣と亀盾を出す。
盾を正面に構え、カエル目掛けて突進。
「ハァっ!」
構えた盾を、カエルの土手っ腹に身体ごと叩き込む。
グゲ、と空気の抜ける様なカエルの鳴き声。
こちらに振り返った大ガエルの顔面に、右手の芋剣で抜き打ちに叩き斬る。
『グゲゲゲ!』
カエルはだらりと垂らした舌を、首を振った反動で鞭のようにしならせてくるが、それを盾で弾いた。
前回の戦いでは使ってこなかった攻撃だ。
ただ単に見る機会が無かったのか、はたまた定期メンテから追加されたのか。
『ゲコッ』
カエルの攻撃はそれ以降に続かず、僕からぷいと顔を背けると、またルゥネンを追いかけ始める。
まだこちらにターゲットを向けさせられる程のヘイトは稼げていないらしい。
「お前の相手はこの僕だ」
あ、普通に人生送ってたら、まず使うことが無いだろうテンプレゼリフが無意識に飛び出した。異世界でも使ったこと無かったんだがな……
『サンダーブレイド』
雷のエンチャント魔法。芋剣に薄っすらとした黄色の光が纏う。
「からの――『パワースラッシュ!』」
カエルの胴体を薙ぐように、黄色の燐光が走る。
パワースラッシュのスキルレベルも多少上がってきたので、硬直時間も短くなった。
まぁ、勝手に身体が動く感覚は、今だに慣れないけど……
『グゲェ……』
ダメージを受けたカエルの大きな目が、こちらを睨むように細められる。
弱点属性の乗った大技に、流石に大ガエルのターゲットもこちらに切り替わったようだ。
どすりどすりと身体をこちらに向き変えると、飛び出た目玉で僕を見下ろしてくる。
『ゲコっ』
シャッ――と飛び出た舌に、芋剣が絡め取られる。
「む?」
これも前回に無かった行動だ。剣を絡め取ったカエルの舌は、ウィンチのような強い力でぎりぎりと剣が引く。
「っち……」
剣を奪われないように、と抵抗して剣を引く。
しかし確実にパワー負けをしている。ただでさえ相手はダンプカーのような巨大生物……
さらにこちらは片手だ。柄の短い片手剣は左手を柄に掛けることも出来ない。……やっぱりバスタードソードが恋しい。
まぁ、両手を使えたところで、こいつとの力比べに勝てる道理などないが。
「ならば――」
左手で剣を握る右手の拳を包み込み、両手の力で、グイっと一瞬だけ剣を引く。
負けじと強められる舌の力。
だが、今度はそれに逆らわず、僕は身体ごとカエルに引き寄せられるように跳躍した。
「でぇぇい!」
引き寄せられる力を加えてカエルの喉元に剣を突き刺す。
突きさした剣をえぐり込むように捻った後、剣を手放した。
『グゲェエエエ!!』
流石にこれは効いたようで、ボスカエルのHPゲージはグンと減る。
緑色だったゲージバーが黄色に変化した。
残り体力はおおよそ1/3といったところだろうか。
徒手空拳となった僕は、アイテムストレージからショートソードを取り出すと、それを正眼に構える。
『グ、ゲェエ……』
喉元の剣を無理やり引き抜いたカエルは、そのまま舌先で僕の剣をあらぬ方向へ放り投げた。
ひょういと飛んでいく剣はそこいらの岩に当たり、きいんと高い音を立て、岩の向こう側の影に跳ねて消えてしまう。
はてさてこちらはメインターゲットの身。
走り回ってさっきの芋剣を取りに行くわけにもいかず、青剣は爆風と土煙の中でどこへいったのやら検討もつかず。
手に握るは最後に使ったのはいつぞや? という、頼り難い刃渡り60センチの短剣。
神話伝説伝承に、『投げても必ず戻ってくる』という武器が数多く登場するのは、さもありなんと納得できた。
「あれだな、あれが欲しい。ないもんか? 無制限な鍛冶屋さんスキル」
生産職泣かせ。名剣神剣ポコポコ量産しちゃうやつ。
足利義輝、はたまた菊千代かというように、地面に立てた武器を取っ替え引っ替えするやつ。
「にーちゃー、あったとしてもMP9割消費とかだと思うよー。そのスキル」
最前線と後方支援の距離だというのに、律儀にもツッコミを入れてくれるライム。
だよなぁ……。そして戦闘終了後には出した武器は全消滅だろう。うん、実にゲームらしい。
「――ってことで仕方ない! 喰らえ!」
ショートソードを振りかざし、まずはカエルの前足に一撃。
『ゲコ』
カエルの上から下に打ち下ろす舌の鞭を、半身になって回避。
そのままショートソードの切っ先をカエルの胸に突き立てる。
「ッつ!?」
そこにぶるんと鞭のようにしならせた舌が襲いかかってきた。
咄嗟に身を屈めてやり過ごす。
だが、ショートソードはカエルに突き刺さったままだ。引き抜くには時間が足りなかった。
さぁ、どんどんと装備が脆弱になっていくぞ?
ショートソードを取りに行きたくとも、おカエル様は大暴走。ぶるんぶるんと舌鞭を振り回している。
仕方ないので取り出したるは、なんの変哲もない初心者用のナイフ。
ひとつでは寂しいので、前回ここらで拾ったの、もひとつ出して二刀流。
あの時「いらねー」とか言ったのは誰だ。僕だ。
とはいえ、今だにカエルはビュンビュンと振り回される鞭の結界の中。
その中にナイフを抱えて飛び込んでゆく無謀は出来ない。
『シャイニーボール!』
そこに飛んでくるライムの光弾。
ばちりとカエルの体に当たり、地味なりともダメージを与えた。
まぁ、近距離で戦えないなら遠距離攻撃すればいいじゃない? ってことだね。アントワネットも上手いこと言ったもんだ。
僕も早々に魔法攻撃に切り替える。
うん、やはり初心者用ナイフでボスと戦おうなんて無理は止めよう。
これはあくまで予備の予備の予備武器。実際に使うことはないだろう――
うん? なんかフラグが立った音がしたような気が……気のせいか? 気のせいだよな?
さて、遠距離攻撃と言ったものの、無闇やたらとそこいらじゅうを逃げ回って、どっすんどっすんとデカブツガエルが、辺り一面を跳ね回るのはよろしくない。
あくまでカエルの注意を正面で引き付けたまま戦わなければならない。
『ファイヤーボールっ!』
カエルの舌鞭のギリギリ外周で、魔法を繰り出す。
遠距離攻撃といっても近距離で使う。それが勇者。
「おーい、ガツガツ撃ってくれ。僕の魔法じゃ大して効かん」
タンクの様にどっしりとした守りではなく、動き回る回避によって前線を維持している僕は、後衛からして見ればフレンドリーファイヤの的にしか見えないのだろう。後方からの攻撃がほとんど無い。
なんだかんだで僕の戦い方に慣れているライムは遠慮なく魔法を飛ばしてくるが、所詮はヒーラーの手慰み程度の攻撃魔法。ダメージとして期待できるほどのものではない。
『……サンダーランス』
『しゃいにーぼー』
「『雷爆玉ー』、ぽいぽーいっ」
後衛職の放つ支援攻撃がカエルを目掛けて殺到する。
「ハァァ……ッ!『気合弾っ!』」
「あ、えーえーっと……、えーい!」
ルゥネンも飛び技スキルを持っているようだ。手の平から光る玉を出してカエルを攻撃する。
……そっちはいいが、マイテ……。無理するな? 遠距離での攻撃方法がないからって、別に石を投げなくてもいいぞ? ぜんっぜん届いてないしな。
『ゲロぉ……』
ボムボムと、遠距離からの攻撃の集中砲火をその巨体に喰らい続けるカエル。
次々に飛んでくる遠距離攻撃に苛立ちを覚えたのか、カエルが低い咆哮を上げた。
「……ッ!? マズい! マイテ、構えろ!!」
僕の脇を巨大なカエルが猛進して通り過ぎてゆく。
敵対心によるターゲットシステムを、無視した行動パターンだ。
モンスターの攻撃の中には“ランダムターゲット”と言い、現在のヘイト値いかんに関わらずランダムに標的を変えた攻撃に出ることがあるらしい。
『ゲッココォ!』
ひと塊になった後衛に目掛けて、カエルは爆進してゆく。
その正面に立ち塞がるマイテ。
「ば、ばっちこーい!」
マイテはオオリクガメの大盾を正面に構え、すぐに襲い来るだろう衝撃に備えるが……
「え? と、飛んだ!?」
マイテの頭上を遥かに越えるように跳躍した大ガエル。
放物線を描くその落下地点にはライムたち後衛三人の姿。
「ライム!」
『せいんと☆ばりやー!』
ライムが杖を掲げると、半球型の青半透明の障壁が展開された。
……てか、間の☆は必要なのか?
落下してきたカエルと、バリヤーが衝突する。
バリヤーに遮られ、カエルの体は空中で一瞬停滞したが、バリンとガラスを割るように、すぐにバリヤーは破壊されてしまった。
『……インパクトウェイブ』
『突風ガンー』
ライムのバリヤーで稼いだその一瞬の合間に、ショウの吹き飛ばし効果のある無属性魔法とキャペモが腕に取り付けた錬金アイテムの攻撃がカエルに放たれた。
……あの腕にはめた、ただの塩ビパイプのようなアイテムは、どう見ても某国民的アニメの長編映画の時によく使われる二大武器の片方にしか見えないんだが? キャペモさん。
『グゲっ』
二人の攻撃がカエルの腹を打つ。
しかし二人の攻撃も、カエルの滞空時間をわずかに伸ばしただけで、あのダンプカーのような巨体を吹き飛ばすには至らなかった。
だが、そのわずかばかりの時間で、ルゥネンが間に合った。流石はAGI特化の武闘家である。
『爆拳ッ!!』
ルゥネンはカエルの真下に飛び込み、拳を真上に突き上げる。
その瞬間、拳を中心に爆風と爆炎が巻き起こる。
――しかし、その拳撃でも、カエルの巨大な体はわずかに浮き上がっただけ。
「ォオオオオオッ!!『爆拳!』『爆拳!』『爆拳!』『爆拳!』『爆拳!』『爆拳!』――」
だが、それだけでは終わらない。
ルゥネンの拳はそこから次々と繰り出される。
右拳を出したら次は左拳。左拳を出したら次は右拳――
その全てがスキル【爆拳】
猛烈なラッシュ。まるで誘爆する爆竹かのように、カエルの腹で拳が爆ぜる。爆ぜる。爆ぜる。
『グゲ、ッゲ!?』
押し寄せる怒濤の爆撃に、カエルの体が少しづつ押し返され始めた。
落下の勢いはもはやゼロ。カエルの巨体は空中に浮いた状態になっている。
「オオオオォ!『大爆烈拳ッ!!』」
渾身の右ストレート。ひときわ大きい花火が炸裂し、大ガエルの体がぐわりと放物線を描いて押し戻される。
追撃のチャンス――
なのだが、ルゥネンはその場で膝を突き、動けなくなってしまった。
「MPもスタミナも|看板《ゼロ》だ……マジ疲れた……」
「OK、トドメは貰うぞ。ルゥネン」
カエルの残りHPは一割を切り、ゲージは赤色に変化。後はひと押しで終わる。
『サンダーブレード、サンダーブレード』
宙に浮いたカエルを追いながら、両手のナイフにエンチャントをかける。そして――
「喰らえっ!」
跳躍。逆手に持ったナイフをカエルの両目に突き立てた。
『ゲココ!!』
「ついでだ、クソガエルっ!」
残った魔力全てを使い、“テーラランサーズ”を発動。
数は1。しかし、3メートルにも及ぶ巨大な石槍が、大ガエルの真下からそそり立つ。
『ゲロォッパ!?』
落下の勢いを用いて、それはさながらモズのはやにえのようにカエルを貫く。
石槍がカエルを貫いた瞬間、カエルの体力ゲージはゼロになり、カエルはガラスが砕け散るように光の粒子へと変わった――。




