51 タイトル回収?
森エリアからインスタンスダンジョンである峡谷エリアへ入った僕たち六人。
峡谷の中も特に危なげもなく進む。猪突課長をマイテが抑えられることが大きい。
僕とルゥネンで真っ先にクレセントベアーを片付け、その間にショウの広域魔法でレッサーコボルトを攻撃。討ち漏らしはキャペモが不思議なアイテムを使って撃破する。
クレセントベアーを倒しきった後は、ルゥネンはマイテの相手取る猪突課長を攻撃。
僕はレッサーコボルトの残存数によって分岐。猪突課長に向かうかレッサーコボルトの討ち漏らしを潰しに行くかの二択
ライムはマイテの回復と各種バフ。
最初から猪突課長が二匹出た場合は、一匹は僕が受け持つ。
そんな感じで坦々とモンスターを倒しながら、だんだんと巨大ガエルの待つダンジョン奥へと歩を進める。
インスタンスダンジョンでは、パーティの人数が多いと敵モンスターも多く出現するのか、以前にライムとアイダリンと来た時よりも圧倒的に敵の数が多いが、パーティでの連携が取れるので、やはり大人数での攻略は楽だった。
「墓が出てきたな」
そうして進んでゆくと、以前来た時にも見た、ボスで死に戻りしたプレイヤーの墓標が出てくるようになってきた。
つまりはそろそろあの大ガエルの出現ポイントということだ。
【スネーク(固形)】
:ヘビはカエルの天敵だ。カエルにやられるヘビなど聞いたこともなくぁwせdrftgyふじこ。
あ、この人フラグ回収しちゃってるわ。
乱立する墓を横目に、周囲を警戒する。
前回は頭上から不意打ちをされた。あのカエルは擬態によって姿を消す行動を取りもした。
……おそらく、今回もファーストアタックはプレイヤーの不意を突いたものになるだろう。あのボスの攻撃力は高い。不意打ちが成功してしまえば、初っ端からパーティの体勢が大きく乱れてしまう。
前後左右、上方にも意識を向けて警戒し、わずかな視覚のブレも見逃さぬように気を張りつめる。
――何処だ? 何処から来る。
人間の死角となりやすい上か?
それとも擬態してからの背後か?
次点での左右?
それとも――
「あ、出た」
接敵を知らしめたのは視界ではなく、ずしんずしんと連続的に地面を揺らす振動だった。
『ゲッコォォオオオッ』
正面から現れたジャイアントポイズントード。
巨大な身体を見せつける様にしたその風体は正に威風堂々。
紛うことなく王者の貫禄であった。
――……って、おい。
「不意打ち登場とかしないのか? この間のはたまたま運が悪かっただけ?」
僕の疑問にライムが、ふるふると首を振った。
「この間のメンテから変わったっぽい」
「はぁ……そうなのか?」
メンテナンス内容を思い出そうとしてみたが、建物内部が出来たというものぐらいしか思い出せなかった。
「一部の敵モンスターのバランス調整っていうのがありました。その“一部”にここのボスも該当したみたいですね」
そう言うとマイテはオオリクガメの甲羅から作った、身の丈ほどもあるタワーシールドを正面に構えた。
『ウォーハウンド!』
敵からのヘイトを集中させるスキルをマイテが使用すると、スキルの効果に引かれた大ガエルが、マイテ目掛けて猛進してくる。
カエルがこちらに到達する前に、後衛はパーティの後ろに広がり、ルゥネンはマイテの横手に広がる。
なるほど、タンクが前に出るのではなく、後衛が後ろに下がる誘い込みの陣形か。
僕は黙ってルゥネンと対極を位置取り、青剣を中段に構え、大ガエルが誘い込まれるまで待つ。
『ゲッコオオ!』
「ひやぁぁぁあ!」
ごぎん、と鈍い音を立ててマイテの大盾と大ガエルの体がぶつかり合う。
吹き飛ばされるかと思われたマイテの体は、大股一歩ほどの距離を地滑りしたが、マイテ自身は立ったまま、突進を止めていた。
「っしゃ! うらぁ!」
その隙を見逃すことなく、ルゥネンが大ガエルの脇腹に拳を突き立てる。
『壱ツ拳! 弐ツ脚! 参ツ肘! 肆ノ――』
そこから始まる連撃。しかし、三発の格闘術が入った時点で、大ガエルの目玉がぎょろりとルゥネンの方向を向いた。
「退け! ルゥネン!」
横合いから飛び出し、大ガエルの面を叩くように大剣を打ち当てる。
一瞬の衝撃に怯んだ大ガエルは、伸ばそうとしていた舌をだらりとぶら下げ、すでに間合いから離脱したルゥネンを睨むと、ゲコリと忌々しそうに呟いた。
「マイテ! もっかいウォーハウンド頼む! マジでっ!」
「クールタイムまだですって!」
敵のヘイトを集めるのに便利な『ウォーハウンド』だが、連発できるようには出来ていない。それなりのクールタイムが必要なのだ。
「っち! マジか!」
こうなるとルゥネンはマイテの後ろに下がり、クールタイムの終わりを待つしかない。
武闘家は防御力が低く、大ガエルのような一撃が重すぎる敵相手では分が悪い。
『んむ……サンダーボルト』
ルゥネンが退いた後に、ショウの落雷魔法が大ガエルを襲う。
ただし、それも単発限りの攻撃。
「ヌう……これ以上はタゲが」
後衛にターゲットが移ったら目も当てられない。
ターゲットを取るべきタンクであるマイテは、防御はともかくとして攻撃は精彩を欠いている。攻撃によるヘイト上昇は見込めないようだ。
……前に一緒に北の森に行った時も、盾に隠れていただけだったしなぁ。
「よいしょ~」
錬金術士のキャペモの投げた薬瓶が、マイテに当たって弾ける。
何らかの補助なのだろうが、何かは分からない。
「“敵意寄せ薬”ですよー」
……と、キャペモが補足してくれた。
名前からしてヘイトを稼ぐアイテムなのだろうが、効果のほどは然程高いものでも無さそうだ。
キャペモは引き続き各人にポイポイと薬瓶を投擲し続け、何かしらの補助効果を作り上げている。
……
被弾一撃で戦闘不能の危険性のあるアタッカーに、なかなかヘイトを稼げないタンク。
前衛がヘイトを稼げないので二の足が出ない魔法使いに、補助は出来るが直接的な行動は今ひとつの錬金術士――か。
雑魚モンスターと戦っていた時はバランスが悪いとは思わなかったパーティ。
だが、確かにライムの言っていた通り、ボス相手になると問題点が多く見えて来るな。
武闘家のルゥネンは素早く撃破出来る相手なら良い立ち回りが出来るが、反撃に弱く、さらに一撃の大きい相手には接敵しづらい。
タンクのマイテは、スキルで呼び寄せられる分の敵には有効だが、継続的にターゲットを取らなければならない敵は苦手。
魔法使いのショウは直接的な攻撃魔法は得意だが、搦手になる類いの手札を持ってない。
逆に錬金術士のキャペモは、補助的な立ち回りは出来るが、直接的な攻撃手段にイマイチ欠ける……と。
これは、おそらくはβプレイヤーだからこその弊害ではないだろうか?
下手に一度経験した道だから、なるべく無駄を省いての効率的な構成になりやすい。
自然に上がるDEFとHPで、最終的には敵の攻撃を一撃だけ耐えられるようになれば良いと、防御ステータスを打ち捨てたルゥネン。
いずれ充実するヘイト稼ぎのスキルに、余分な攻撃は必要ないと割り切ったマイテ。
結局はほとんど攻撃魔法しか使わないのだからと、攻撃魔法にばかり傾倒したショウ。
後々に必要となりうる素材を確保して、コストパフォーマンスの良いアイテムだけを作ったキャペモ。
最終目標を念頭に置いて育てられたキャラは、得てして序盤中盤では戦いにくいものである。ステータスやアイテムが充実してくれば話は別にだが……
これがガチ勢だった場合は、途上でもその時点最高の装備を用意し、現時点最大級火力と、熟知した攻略法で押し通すことも可能だろう。
しかしうちのライムが所属していた辺りのことから考えても、このパーティの人たちはエンジョイ勢ないし、せいぜいがそれに毛が生えたぐらいのものなのだと思う。
そもそもガチ勢なら、いまだにこんな所で燻っているはずがない。
エンジョイ勢でも、レベルリセット後の二回目プレイは「ちょっと効率良くやっちゃおうかなー?」と思ってしまうのは、案外と普通のことなのである。
現時点ではそれなりに使えるスキルでも、後々使い道が無くなると知っているスキルを育てたりする気は無くなってしまうものだ。
「ううむ……」
弱い、とは言わない。プレイヤースキルも決して低いわけではない。
だが、このボス相手では明確に相性が悪い。
このままでも、順当にステータス上げをすればこのボスも倒せるようになるのだろうが、それに必要な最低ステータス値を確保するには、まだまだ時間が掛かるだろう。
「にーちゃ」
「おう」
マイテにヒールを掛けつつ、ライムが僕にアイコンタクトを送る。
「作戦変更!【にーちゃにまかせろ】」
声を張り上げるのと同時に、ライムのバフが僕を包む。
キラキラと光が振り降りるエフェクト。
それをたなびかせながら走り出す。
「ま、たまには勇者様プレイもいいか」
大剣を手に、僕はジャイアントポイズントードの前に躍り出た。




