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50 ガンガンいこうぜ?

 ――ビィーンビンビンビンビンヴィー


 家の庭木に止まったセミの鳴き声が騒々しい。

 真夏の昼の太陽は、白より白い光を僕の頭の上に打ち下ろし、構えた剣の偽物っぽい銀色のメッキをギラリと眩しく反射させている。


 今日は盾を持たず、そして誰も投影しない。

 いつものバスタードソードを両手剣に見立て、両手で構える。

 突き、薙ぎ、斬り下ろし、払い――ただひたすらに基本的な動きで剣を振るう。


「……ゼィ!」


 ついでにアルベルトの真似をして、大上段からの打ち下ろしもしてみるが……

 駄目だ。あいつの動きは両手剣と呼ぶのも生易しい巨大な剣を使うからのもので、片手剣から毛が生えた程度の両手剣では、ただ隙だらけもいいところだ。

 自己流で剣を振ると、どうしても持っていない左手の盾を意識してしまう。普段使いがバスタードソードだったのも良くないのだろうか? 両手剣と片手剣の意識がうまく切り替わらない。


「ふっ! はっ! せっ!」


 体さばきも、どうしても普段盾を持つ左手側が前にでてしまう。


「ぬぅ……」


 真夏の太陽の下、ぽたりぽたりと汗を滴らせた僕は、ひとり唸っていた。思うようにいかない。



「にーちゃー、ごーはーんー」


 未来の合図で今日の一人チャンバラは終わり。

 両手剣での戦いかたのコツは、結局掴めず仕舞いだった。




――――


 今日の昼食はトマトソースのパスタとカプレーゼ。イタリアンにはトマトが多いなぁ。


「やっぱりバスタードソードが欲しいな……」


 トマトとモッツァレラチーズをフォークで串刺しにしつつ、そう漏らした。


「AGI上げに片手剣使ってたんだっけ? もう、AGIは【回避術】とかのパッシブスキルのセットで上げればいいよ、にーちゃ」


「なるほど、そうやってバランスを取ることも出来るか」


 スキルを使えばスキルレベルが上がるだけじゃない。使ったスキルの系統によって、ステータスの上がり具合が変わる。

 同じ杖を持っていても、攻撃魔法を使っていればINTが上がりやすくなるし、回復魔法を使っていればMINが上がりやすくなる。


 それと同じで、パッシブの【回避術】なんかをセットしておけば、AGIが上がりやすくなるんだそうだ。

 逆に「オレ、パワーファイターだからAGIとかいらんわ」という人が【回避術】をセットしてしまうと、STRに割り振られるはずのステータスがAGIに割り振られてしまうので、セットしないほうがいいんだそうな。


 ……まぁ、セットはしておいてもノンアクティブにしておくんだけどね【回避術】……。邪魔なんですもん。



「そうなると芋剣とも、青剣ともおさらばかぁ」


「短い寿命だった、蒼軽鉄の大剣」


 未来から貰っておいてなんだが、やっぱり両手剣は僕にとっては少々扱いにくい。

 なんで両手剣に人気があるんだろう? 盾いいぞ? 盾。


『だろう?』


 おい、無闇に出てくるな。セルシンの投影像(イメージ)


『両手剣の良さが分からんたァな』


 お前も出てくんな。アルベルト。



「にーちゃ? どうかした?」


「いや……どこぞの戦闘狂を思い出していただけだよ。悪いな未来。せっかく両手剣を貰ったんだが……」


 頭の上で手をパッパと払い、浮かんできたイメージを払い飛ばす。


倉庫(ストレージ)の肥やしを渡しただけ。例えるなら、タンスを整理してる時に『もう絶対に着ないなー、この服。でも捨てるのもなー、でも着ないのにタンスに入れておくのもなー』って感じ。で、それをにーちゃに渡しただけ」


「お下がりかよ」


 まぁ、それなら安心してタンス(ストレージ)の肥やしにさせてもらおう。


「まぁ、今回のカエルには青剣のままで行くか」

「バスタードソードは今度探そう。にーちゃ」


 んだんだ。






 ――【“brand-new World”へようこそ】――






 昼食の後、すぐさまログイン。

 ……なんだか廃人の様な生活になってきたなぁ。夏休み終わってから、元の生活に戻れるのか? 僕。


 ま、夏休みが終わったら未来も学校だし、僕もさほど頻繁にログインしたくはならないだろう。

 とりあえず未来ありきでプレイしてるんだよな、コレ。


「お、兄貴の方が戻ってきたな、マジ」


 ログインするとその場にはまだルゥネンだけしか居なかった。


「ただいま。ライムは後片付けでもうちょっとかかるよ」


「あー、ライムが飯作ってるって聞いたなー。『片付け手伝え!』とか言われねーの? マジ」


「片付けまで料理の内だってさ。僕を甘やかし過ぎなんだよ、あの妹は」


「マッジうらやましいわ。大学生の一人暮らしなんて、コンビニ弁オンリーだぜ? マジ。時々味噌汁と茶碗に入った白米が無性に恋しくなるんだわ、マジで」


「っても、今日はイタリアンだったけどね」


「コンビニのペペロンチーノより良いだろマジ。スパゲッティ茹でるのも七分とかかかるしなぁ。どうもかったるくてコンビニで買ってきちまう。どーせ茹でてもソースはレトルトだし」


「あ~……僕もみら――ライムが居なかったらそんなもんだろうなぁ。ライムが修学旅行中は毎日コンビニだったし」


 リアルの話をしていると、つい“未来”と呼びそうになるな……。注意せねば。


「マジ、最寄りコンビニに飽きたらちょっと遠くのコンビニに行ったりするわ。そんな労力を使うなら自炊しろってのな? マジでな」


「そもそも自炊するにしても冷蔵庫がカラなんじゃないか?」


「調味料と飲み物だけ入ってるわ。調味料も賞味期限確認してねーわマジ。米も置いといたらカビが生えた」


「コクゾウムシが湧かなくて良かったな……」



 なんて、下らないやりとりをしていると、ショウとキャペモが戻ってくる。


「ただぁいまぁー」

「ぬむぅ……ただま、またそうめんだった」

「夏場はぁ、仕方ないですよねぇー。お中元のおそうめんがぁ、減らないんですよぉ。本当にぃー」


 そういうキャペモも素麺だったらしい。ウチは母親は医療関係者だからお中元なんかは断っているし、父親は単身赴任中なので、こちらの住所にお中元が届くこともない。

 ハムとかだったら嬉しいんだろうけどね。大量の乾麺は困るだろうよ。ホント。


「ただまー」

「お待たせしましたー」


 ライムとマイテも戻ってくる。

 ……なんか、ここの人と居ると影が薄い気がするな……マイテ。


「じゃ、行こう。森の中の峡谷まであとちょっと」



 ふと見ると、先ほど泥沼化させた場所で猪課長が数匹、泥遊びに興じていた。あの穴から出てきた瞬間にエンカウント確定。


 そうして六人でさっさかと歩き出す。もうあの禍々しいオーラを出す穴のことは誰も気にしていない。



 (くだん)の場所から十分ほど歩いて、インスタンスダンジョンの入り口へと到達する。

 前回と同様に、数組のパーティが入り口前でボス戦での手順確認をしていた。

 その人の数も前回の倍近くになっている。かなり人が増えてきたみたいだ。


「僕たちはどうする? 何か作戦はあるのか?」


「“みんながんばれ”マジガンバレ」

「ここはぁー“いろいろやろうぜ”じゃないですかぁー?」

「にむ……“じゅもんつかうな”」

「いやそれ、ショウくん何もしませんよね? それ」

「“にーちゃにまかせろ”バリバリー」


 ……なんにしてもゆるふわなのね。


「……“いのちだいじに”で行こう」


 皆さんの元気な「はーい」って返事が貰えました。てか、パーティリーダーは僕じゃないよね? 誰かちゃんと仕切ってよ。


 ……なんにせよ、二度目の大カエル攻略が始まる。

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