49 兄妹の昼
本日二話目です。(2/2)
一話目はサボテンの日常回でしたので、不快な方は読まなくてもあまり支障は御座いません。
前話概要。
:サボテンには利発そうな弟がいる。
:サボテンは中三の受験生。
:もしかしたら今度、山の別荘にいくかも?
:ストレス解消にゲーセンに行ったがボコボコにされてさらにストレス。
:ちょっと暴れたら出禁にされたよ☆
:リアルで主人公たちとニアミス。
:帰って寝る。
『注意! 落とし穴があります』
――という立看板を設置して終了。
みんなやりきった爽やかな良い表情をしていた。
……なんか、ボスとかどうでもよくなってきたな。
「ダメ押しだ“ラマ・マレ”」
創作魔法で穴の周囲を沼地に変えておく、これで這い上がってきた途端に泥まみれだ。
この魔法、戦闘中に使えれば便利なんだが、使う属性が水と土のハイブリッドなので複雑かつ魔力の消耗が激しい。
さらにそこそこの範囲で展開しなければならないので、さらに消費魔力アップ。
即時発動が難しいので前衛の僕には使いにくい。さらに下手をすると自分の足元までぬかるんでしまうので後々にこちらも戦いにくくなる……と、意外と使いにくい魔法だったりする。
「うわっ! 意外に時間が経ってたわマジ」
「もぉうお昼だねぇー」
「……ハラヘタ」
と、いうことで続きは午後からということでログアウト。
――【サーバーとの通信を切断しました。またのプレイをお待ちしております】――
ダイブモードからビジョンモードに移行すると、ぴょこりぴょこりとミニ妹ズが枕元で跳ねて遊んでいた。
「っと、そういえばランニング中にトマトを貰ったんだった」
朝のランニングルートにある畑で、おじいさんがビニール袋いっぱいのトマトをお裾分けしてくれた。
それ自体はありがたいんだが、走るのには非常に邪魔だったので、一度家に取って返して冷所に置いておいたのだ。袋いっぱいのトマトは冷蔵庫には入りそうになかった……。
その後にまたランニングに出たので、未来にそれを渡すのを忘れてしまっていた。
日持ちするものでもなさそうだし、未来に渡しておけばなんとか消費してくれるだろう。
だとしたら、早めに渡しておいたほうが良い。これから作る昼食で使われるかも知れないから。
VRメットを外して、ベッドから立ち上がるが――。
「う……」
その途端に立ちくらみがした。VR慣れするのはまだまだ先の様だ。
仕方無しにVRメットを装着しなおし、ビジョンモードにて部屋を出る。
「おー、よしよし」
ミニ妹のひとりを肩に乗せ、あごの下をこしょこしょとくすぐりながら廊下を渡り、未来の部屋に向かう――それが良くなかった。
ガチャ――
普段ならノックぐらいしただろう。
しかし、ミニ妹に気を取られていた僕は、未来の部屋のドアノブを、そのまま回してしまっていた。
「え……?」
驚愕に眼を丸くする未来。
ベッドの上にある人影はふたつ。
ひとつは良く知る妹の未来のもの。
そして、その横に寄り添う様に、未来より一回り大きな男の影があった。
「に……にーちゃ?」
慌てて起き上がり、その男を隠すように位置取ろうとする未来だが、その小さい身体では男ひとりを隠し切ることなんて出来はしない。なにより、もう完全にその男の姿を、僕が目にしてしまっているのだから――。
「み……未来……それ」
「まって! にーちゃ! ちがう!」
酷く慌てた様子で狼狽する未来。
精一杯に体を広げ、なおも背後の人影を隠そうと奮闘する。だが、どうしたってはみ出て見えてしまう。
そう、そこに居たのは――
「…………僕の立体映像だよな?」
以前、未来が僕のVR機に入れた『萌え萌え立体添い寝アバター作成アプリ(フリーソフト)』で作ったのだろうと思われる、僕の等身大アバターがベッドに横たわっていた。
つか、なんで胸元はだけてるんだよ、ソレ。寝大仏みたいなポーズで、なに流し眼しちゃってんの? ソレ。
「にーちゃ、話し合おう。話せば分かる」
「どんな意味があったとしても、分かりたくねーなぁ……」
というか、なんで不倫がバレた奥さんみたいな空気出してるんだ? 妹よ。
「未来」
「ふぁい……!」
「いくら独り寝が寂しくても、アレはちょっとな」
昔から、怖い夢を見た時や、神鳴りが止まない時。風の音が大きい夜なんかはしょっちゅう僕のベッドに潜り込んで来た。
『昔』とは言っても、十年も他所の世界に行っていた僕の感覚だ。
未来は高校一年生。
高校生と言っても、三年とちょっと前までは小学校に通っていたのだ。
中学に上がったから、高校に上がったからと言って、突然大人になれるほど、人は便利には出来ていない。
そもそもここ最近は、僕の方が戦争後遺症で眠れず、未来に依存してたりしたんだしなぁ。
「まあ、なんだ、うん。せめて抱き枕ぐらいにしておきなさい」
「あ、はい。うん……」
気まずい空気の中、僕もミニ妹をアンインストールすることを決意する。
等身は違えども、あれと同じことだ。ミニ妹にでれでれする兄に、未来もあまり良い気はしなかっただろう。
肩に乗せたミニ妹の顔を覗くと、こちらを見てきょとん? としていた。
ごめんな。妹さんにダメと言っておいて、僕だけ君たちと遊ぶわけにはいかないんだよ……
さらばミニ妹ズ。また逢う日まで――。
…………
……
「未来」
「な、なに? にーちゃ」
「やっぱり……たまに、たまにでいいから……ミニ妹と遊んでもいいか……?」
「……にーちゃの立体映像も、いい?」
「おう……」
またな、ミニ妹ズ。またすぐに会おう!
―― …… ―― …… ―― …… ――
「チーズがない」
貰った大量のトマトを渡し、昼食の準備をしようとしていた妹さんが言い出した。
「チーズがいるのか?」
「うん、イタリアンにはトマトとチーズ。悪いけどにーちゃ、買ってきてくれる?」
ふうん、今日はイタリアンか。まぁ大量にトマトを持ち込んだのは僕だ。そのぐらいのお使いなんか喜んで引き受けよう。
――
「で……なんでお前までついてくるんだ?」
「ミニデートだよ、にーちゃ」
人に「買ってきて」とお使いを頼んだくせに、ちゃっかりと妹さんまで付いてきていた。
ただチーズを買いにいくだけのお使いなのに二人で行くほどのことはないだろうに……
真夏の太陽がさんさんと僕たち兄妹に降り注ぐ。妹さんはつばの広い帽子をかぶって、紫外線対策はばっちりだ。
「それににーちゃ、一人でなんのチーズを買ってくるかわかる?」
……
「プロセスチーズ?」
「ぶぶー、必要なのはモッツァレラとパルメザンでしたー」
二種類かよ。
――
近所のスーパーで買い物。
いつもなら安売り品を見漁る未来だが、今日は昼食に必要なチーズを買っただけで店を出た。
あまり時間をかけてみんなを待たせるわけにもいかないし、腹も減るしね。
「あっついねー」
「夏場って、そんなことばっかり口に出るよな」
帰り道にアーケード街を通る。夏休みだからだろうか? 子供や若い男女の数が目に付く。ついでに昼の時間なので昼食を取りに来た会社員の人間も相まって、普段より人の数が多く見える。
この暑いのに、みんな外に出かけるもんなんだなぁ……
「それにしても、あれだけのトマト……どうしたもんかね?」
貰ったトマトはビニール袋いっぱいにはちきれそうになっていた。
今日の昼食で使い切れるものでもないだろう。
「ケチャップにしたり、ミネストローネとかトマト煮とかで、まぁなんとかなるよにーちゃ」
「頼もしいな。我が妹よ」
持つべきは料理が出来る妹である。
あまり母さんの料理を食べた記憶ってないなぁ。気付けば未来が精力的に料理を作るようになっていた。
……母さんは看護師だから、今頃は熱中症の患者でいっぱいいっぱいだろうか? 身体を壊さなければいいけど。
「にーちゃ、夏のあいだにまたデートしなきゃ」
「だから兄妹で出かけるのはデートじゃねーって……何処に行きたいんだ?」
「うーん、この前に海に行ったから今度は山?」
「キャンプでもする気か?」
キャンプ用品なんて揃えたら結構な出費になるぞ……僕一人ならマントに包まって寝てもいいんだけどな。
「山のアミューズメントパークって結構あるよ? ちょっと凝った公園とかね。そーゆーので遊んでもいいし、キャンプするならレンタルでだいたい揃う」
「ふむ……それならいいかもな」
僕の異世界流サバイバル技術を見るがいい。松ぼっくりは着火剤として大変に有能だぞ。
「百均に着火剤ぐらい売ってるよ、にーちゃ」
……そうですか。
「夏はやれることいっぱいで楽しいね、にーちゃ」
「たぶんお前は冬でも同じこと言うと思うよ」




