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47 時よ止まれ!

本日二話目です(2/3)

決闘(デュエル)形式でいいんだな?」


「お好きにどうぞォ?『ボクチン負けペナがつくのが怖いから試合(バトル)がいい~』ってんなら、試合(バトル)でどうぞォ~~?」


 蒼軽鉄の大剣をしまい、芋剣と亀盾を出す。一対一ならこの方がやりやすい。

 元々両手剣は使えないこともない……程度のもので、慣れたものではない。


「いいのか? 振り出しに戻ったそのキャラじゃ、ステータスもこっちの方が高いぞ?」


「あー? テメーみてーなチートに頼ったヘタクソと違って、テクニックが違うんだよ、テクニックが」


 なら、もうなにも言うまい。


 奇しくも以前と同じ場所で、へちまへと変わったサボテンとにらみ合う。

 ライムから訊いたPVP申請の手順を終えると、両者の間でカウントダウンが始まった。



――【Ready?】


 今度は最初から剣を抜いた状態だ。もういいかげん面倒だ。すぐに終わらせてやる。


――【3】


 ヘチマサボテンはニタニタと笑ったままだ。何か策があるのか?


――【2】


 またなにかチートを使う気か?

 いや、またBANされたらどうしようもないだろうし、たとえこの間みたいな【スキル高速化】程度のチートなら、使われてもどうとでも対処できる。


――【1】


 逆に、その程度のチートだったから、今まで運営の目から逃れてこれたんだ。もっと大がかりなチートだと、流石にログイン前に弾かれてお終いのはず。


――――……【Go!!】


「ッ疾!」


 一足でサボテンに近付き、剣を振る。

 剣は正確にサボテンの首を狙い、小汚い首を跳ねた――


 そのはずだった。


「……!?」


 だが、剣は完全に空を斬った。

 完全に捉えた、はず……

 なのに手ごたえは一切なく、まるで立体映像(ホログラフィック)を斬ったような虚しい感触。


「なんだっ!?」


 異質な出来事に警戒し、すぐにサボテンから間合いを取って、辺りを注意深く観察する。

 サボテンはまるで動いていない……

 それは、まるで何かの置物の如く――



「グゥっ!?」



 瞬間。僕の身体を衝撃が襲う。訳が分からないまま、後ろに吹き飛ばされた。

 まるで一瞬で何回もの攻撃を受けた様な感覚――。


 浮き上がった身体でバランスを取り、なんとか地面に叩き付けられるのは免れた。

 見ればHPゲージはぐんと減り、ゲージの2/3ほどを下回っている。


「なんだっ!? 知らないスキルか!?」


 おかしい。一定時間の無敵の後に、数回もの攻撃を一瞬で当てるなんてスキルがあるとは思えない。

 ――そんなの、強過ぎ(チート)じゃないか。


「はぁッ!? そんなのマジありえねーよ! 改造コード(チート)だ!!」


 ルゥネンが声を上げる。

 その声に、サボテンはニマニマといやらしい嘲笑いを浮かべるだけだった。


「おいおい、何でもかんでもチート扱いすんなよ。立派なテクニックって奴だよ、ぶぅゎーか」


 それこそグランスモール随一の魔導師の、ヘギサの魔法でもこんな事は出来なかった。

 それこそラノベや漫画じゃあるまいし……中二が高じて突然に異能にでも目覚めなければ、こんなことにはならない。


「だが、どんな手を使っているか分からんが……多用出来るようなものじゃ――」


「……」



 ――動いていない!?



「グゥっ――!?」


 後ろから、まるで蹴られたような衝撃。

 堪えきれずに地に両手をつく。


「ハハハハハ! ダッセェ! カッコつけといて、雑魚じゃん雑魚!!」


 まただ。一瞬で背後に廻られていた。

 それこそ時間停止でも出来なければ、こんなことはありえない……


「わかった! にーちゃ、“ラグ”だよ!!」


「ラグ……?」


 ウインドウで何かを調べていたライムが伝えてくれた単語は、なんとも場違いなものに聞こえた。


 ――ラグ。

 通信不良や機械の負荷でゲームに遅延が起きること。

 ネトゲでこれが起きた場合。通信が正常に戻った瞬間に、まるでキャラクターが瞬間移動したかの様な挙動を見せるという――

 通信技術の発達した今では、殆ど見られることがない現象だ。

 それを利用?


「PVP板に書いてあった! PVPの場合、勝負を受けた方がメインクライアントになるから、ラグを利用して一方的に攻撃出来るって!」


「なんだそりゃ……」


 ネトゲというものは、クライアント(プレイヤー側の機械)とサーバでの間で情報を送受信して行われる。

 これを、何らかの方法で通信が切断ギリギリの状態に遅らせる。

 すると、自分以外のものは全て動かなくなる。


 ――当然だ。通信がほぼ途切れているんだから。


 その間に好きに攻撃して、遅延していた通信を正常に戻す。

 すると、通信が途切れていた間の行動が、一気にサーバに送られ、演算される。


 この時、プレイヤーとプレイヤーとの間のやりとりの結果に差異が生じた場合、どちらか片側のプレイヤーの情報をメインに情報が調整される。

 ――つまり、ラグ中のダメージ計算は、メインクライアントであるサボテン側がメインとされるのだ。


 それだけで、こちらの攻撃は届かず、相手の攻撃は当て放題の、無敵の能力の完成だ。



「結局インチキなんじゃねーか……」


 だから煽って、僕からPVPを申請するように仕向けたのか……

 どこがテクだよ。


 だが、サボテンのニヤニヤ笑いは止まらない。


「さぁて? なんのことだかなー? そういや今日はラグいなぁ。回線の調子が悪いのかもなー」


「……最低、本当にインチキするしか頭にないんですね。あの人」


 マイテの罵言も意に介さず、サボテンはなおも軽口を叩く。


「おいおい、別にチートでも規約違反でもないぜ? ただちょっと、ゲームと一緒に通信が重いプログラムを立ち上げているだけだしな」


 通信速度をコントロールするアプリケーションを使ってるってことか……相変わらずこすっからい手を使う。

 だが、こちらに手が無いのも事実だ。



「ぁぐッ!?」


 また唐突に顔面を殴られた。身体が大きくよろける。

 こんなの、受け身もなにもあったもんじゃない。

 止まった時の中を、あいつだけが一方的に攻撃出来るんだから……


 ……勝つだけのつもりなら、とっくに終わっている筈なのに、コイツ遊んでいやがる。


「ア、ハハハ! ギャはは! ハっハっハハ、ィヒー、ヒーヒー……ざま、ざまあねえ! ダッセ! ダッセー! 『まずはこの馬鹿を黙らせよう』キリッ! とか言っといて、パーフェクト負けしてやんの! 臭ッセー!!」



 ぎしりと奥歯が音を立てる。

 落ち着け、このぐらいの屈辱、大したことじゃないじゃないか。

 いままで、辛酸なんて、舐めて舐めて、舌の感覚が無くなるぐらいに舐めた。

 それに比べれば、ゲームに負けそうになってコケ降ろされるぐらい、どうってことない。


「ほら、認めろよ。『ぼくちんはチート使っていい気になってた馬鹿でーっす』って、『ぼくちんの妹はビッチなんで、運営とヤラせたコネで、運営とグルになって好き放題してましたー』ってな」


 ――ならば、やることは一つ。



「ハァアアアア……ッ!」


 剣を構え直し、サボテンに斬りかかる。


「無駄だっての!」


 ブンっ――


 そこに姿はあるのに、剣は空を斬る。

 だが、まだだ。


「ォオオオオっ!」


 周囲に出鱈目に剣を振りまくる。サボテンの回線が戻った瞬間に、攻撃が当たる可能性を考えて。


「ぐ……」


 ――カラン

 右手に走った衝撃に、剣を取り落とす。


「だから無駄――」

『ファイアランス!』

「ッぅひ!?」


 当然のように、ファイアランスはサボテンの身体を透過する。


 ラグ戦法の弱点は、回線が通常に戻っている間の時間だ。

 その性質上、サーバーとプレイヤーの間の回線が、完全に遮断したとサーバとクライアントが判断してしまえばログアウトしてしまう。


 つまり、定期的に通信を通常の状態に戻す必要があり、さほど長時間時間停止(ラグ状態に)しておくわけにはいかない。

 ならば、通信が正常に戻った瞬間とまたラグらせるまでの間に攻撃を加えればいい。



 弱点と呼べるほどのものではないかも知れない。しかし、何もせずに負けを認め、諦めていたら、僕はたとえ()だろうが、勇者だなんて誰にも名乗れない。


 足掻け、足掻け、足掻け!


 ――それだけが、勇者の証。勇者の素質だ。


 とか言うよりなにより、僕はアイツをブン殴りたい! 



「らァァあああああっ!」


 剣を拾い、何も無い空間をひたすらに斬る。


 ――ザクリ、と手応えを感じた瞬間に、僕の身体は再度吹き飛ばされた。


「ぅっげ! まぐれ当たりしやがった! もういいわ、トドメを――」

『ファイアランスっ!』



 透過。知るか。


 斬る、斬る、斬る。


 バーサーカーもかくやと、兎にも角にも暴れて回る。



「アアアアアアア……!」



 何もない空間に、ただ一撃だけを求めて剣を振る。




――――――

――――

……



 ――――って、あれ?

 そろそろラグから戻ってきてもいい頃合いじゃないか?



 ……暫しの沈黙。

 動かないサボテンの像。


 変化が訪れたのは、一泊置いてから。



【プレイヤー:“ルゥーファ”の回線が切断されました。PVPを終了します】


 は……?


 消えるサボテンの像。その場に残ったのは、僕一人のみ。


「……無理やり“ラグ”を起こすのは、諸刃の剣。ラグを起こすたびにいっきに高負荷がかかるから、VR機の方で脳へのダメージを考慮して自動的に切断される」


 ラグらせる、ということは、たとえ数秒の事でも、その間の情報が一気に脳に流れ込んでくるということ。

 ラグってない僕たちはサボテン一人分の負荷しかないが、サボテンからしてみれば自分以外のゲーム世界そのものの全ての情報が一気に流れ込んでくるということになる。

 そりゃ、負荷もかかる……


「つまり……?」


「『あ、こいつラグがひでーや。まともにゲームにならんだろうし、脳障害でも出たら困るし、落としちゃえ』って、VRから自動的に判断されたんだね、にーちゃ」


「……なるほど」


 ラグ利用なんて、そうそう上手くいくわけがない、か。


「あんだけラグってたらかなりの負荷がかかった。たぶん、プレイヤーの脳への負担を考えて、VR機そのもの自体にロックが掛かっていると思う。半日は再ログインできないんじゃない?」


「お……おう」


 なんだか白けた雰囲気のなか、僕は剣を鞘に納める。結局はサボテンのただの自爆ルートだった……

 こうして、幕引きは、なんとも締まらない形で終了してしまった。

「え~? また出すの? サボテン……」って幻聴が聞こえる……

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