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42 ロール・プレイング・ゲーム・オーバー

 レイモンドと別れたその後、突発のイベントは特に無く、なんとか敵を倒しながら山岳地帯を進んだ。

 ロックパペットは戦うのに苦はないが、倒すのに時間がかかる。

 そうして手間取っている間にライトニングバードが横槍を入れて来るのがここの敵の戦い方らしい。

 カモンシカは見てないが、これにさらに敵が追加されたら、少し立ち回りが難しいかもしれない。

 やはり一つ目の街周辺とは違い、かなり手こずるな……いい加減、ちゃんとステータスを上げなければキツイ。




 ――――


「あった! ありました!」


 喜色を浮かべ、ルシアが道端の花の前で屈み込む。あれがファルデンシアの花なのだろう。

 ……いや、もうだいぶ前からそれと同じ花はそこらへんに咲いていたと思うけどね?


 ルシアは花を優しい手つきで積み取ると、立ち上がって笑顔を向けて来る。


「ありがとう、傭兵さん、妹さん。これでお母さんの病気も治せます!」


「ま、良かったな。そんじゃ戻るか」



「あ……えーっと……」


 辺りを見回し、挙動不審になるルシア。

 ……まだ何かあるのか?


「は、はぁ……はぁ……、クク! やはり来ると思っていたぞ!」


 ――と、そこに息せき切らせた男の声が。


「あ、貴方はナリーキ! どうしてここへ!?」


 あ、レイモンドさんチィーッス。一人二役大変ッスね? でもなんで息切れてんスか?


「あの人、デスペナ付いてるよ、にーちゃ」


 ……ああ、ソロでここまで来ようとしたら死んじゃったかぁ。

 で、街から急いでここまで戻って来たんだね。大変だな、ナリーキ(レイモンド)さん。

 そもそも、貴族が供も付けずにこんな場所に来る事自体に違和感はあるけどね。演者不足なのは分かるけど……


「ククク……おびき出されて、こんな人気(ひとけ)の無い山の奥まで、のこのこと来たなルシア」


 いや、他のプレイヤーの人もちょこちょこ通りがかりますけどね?

 あ、ほら今もこちらを遠巻きに見ながら人が通った。


「こんな偽物の薬ももう不要だ、ハハハッ!」


 と、レイモ……――ナリーキは懐から出したポーション瓶を地面に叩き付けて割る。

 ……そりゃ、ただの解毒ポーションですもんね? 偽物ですよね。最初から知ってましたよ。



「ユーシ! よくやった! さあ、その女を捕らえろ!」


 ……と、突然に名前を呼ばれてしまった。

 え? ちょ……またアドリブ? やめてよ! どうすればいいんだかさっぱり分かんないからさ!?


 えーっと、えーっと……こういうパターンで僕の立場は……

 ナリーキの言う通り本当はナリーキの手下で、ルシアを裏切ってしまうキャラか。

 ――それともナリーキを追い詰める為の二重スパイ的な立場だったりとかで、ルシアに味方するキャラか――

 ってとこだろうけど、どっちを求めてるの? この人達は!



「にーちゃ、私に任せて」


 と、胸を張った妹様が、とことことルシアに歩み寄る。

 小声で何言か遣り取りした後、妹様は僕のところに戻って来た。


「貴族の手下として裏切ってくれって。でも、ルシアが追い込まれた時にまた寝返って欲しいって」


「そういうキャラかぁ~……」


 トリックスター的って言うの? 楽しそうな方に付くっていうヤツ?

 ……絶対に仲間にしたくないわ、そういうの。


 ――……まぁ、ソレ(・・)にこれからなるんだけどね、僕が。


「……台本寄越せよ、こんなん」


 ぼそりと呟いてから、僕は息を大きく吸う。


「言ったろ? 駆け出し(ルーキー)。“簡単に人を信じるな”ってな」


 青い大剣を抜き様に、真一文字に振る。

 ルシアはそれを弓を盾にして防ぐが、そのまま吹き飛ばされた。


 ま、PKは出来ないから、それでダメージを喰らうこともない。


「ぐ……よ、傭兵さん?」


「そうだ、傭兵だ。傭兵は“タダ”じゃ動かない。一つ勉強になったな」


 ふらつきながらも立ち上がるルシア。

 その眼は絶望に満ちて――ないねコレ。クライマックスに入ったワクワク感に満ちてる目だわコレ。


「ユーシ! ルシアに傷を付けるな! ソレは俺の“モノ”になるんだからな!」


「ハイハイっと、わかりましたよ」


 別に傷になっても、回復魔法で治せるでしょうに……とは思うけどメタ発言なので言わない。それ以前にダメージも通らない。“brand-new World”はPKが出来ない健全なゲームです。



「クライアント様のご命令だ」と、剣を地面に突き立ててその場に残し、素手でルシアに迫る。

 

「くっ!?」

「遅い」


 ルシアは弓で殴り掛かって来るが、その弓を絡み上げて合気のようにルシアを投げ飛ばす。

 背中を強かに打ち付けたルシアは咳き込み、呻き声を上げた。


「何時までも寝転んでいたら的になるぞ? ルーキー」


 ルシアが身を起こすのを仁王立ちで待つ。


「どうして……どうしてなんですか! 傭兵さん!?」


「どうして、か。どうしてなんだろうな……」


 空を仰ぎ、過去を振り返るような遠い目をして言う。

 いやマジ、本当にどうしてなんだろうな? なんでこうなった……


「どうしたユーシ! 早くルシアを捕らえろ! 貴様の妹の病気を治すのに、金が必要なのだろう!?」


 病気設定好きだなアンタら!?


 僕の妹ならそこで我関せずと、ぬぼ~っと観覧してるぞ!? あ、なんか急に話題に上がった感じなので、ビクってなった。



「……弟だったかな?」


 ナリーキ言いなおした!? なんでわざわざ架空の人物を!? そこに妹いるのに!


「一般人を無理やりロールプレイに引き込むのは御法度だよ、にーちゃ。無理に参加させても、お互いに幸せになれない(白ける)


 もう一人妹が居るで押し通せなかったんですかね? あ、設定が面倒になる? そうですか。



「傭兵さん……」


「悪く思うな……とは言えねぇな。俺にはとにかく金が必要なんだよ」


 もうー、設定がコロコロ変わるから、キャラがブレまくりだわ。台本寄越せってマジ。



「……」


「……」


「分かりました。でも、私も負けられません」


 ルシアの弓の弦に矢が番えられる。

 ――緊迫した雰囲気。どうやらここがクライマックスらしい。


 応えるようにこちらも、地面に刺した剣を引き抜き上段に構える。アルベロスの剣は攻めの剣。飛び道具を前に剣を盾にすることなど考えない。


 ルシアの弓がぎちりと鳴き声を上げる。

 僕の剣の柄も、ぎちりと鳴き声を上げた。


 互いの視線が交合う。


 彼女の眼は戦士の眼をしていた――先程までの演者の眼ではない。

 こちらも全てを脇に置いて、ただ一人の戦士として相対する。


 風が吹き、チリチリと眼球を乾かす。

 次に動くのは、彼女の右手が動いた瞬間か、僕の腰が落ちた瞬間か――




『ぎゃあァァああ!!』




 岩山の空に響く突然の悲鳴。

 ルシアの(やじり)と僕の切先は、悲鳴の元へと瞬時に方向を変えた。



「っ……なんだ!?」


 僕とルシアの視線の先。

 そこに在ったのは、真っ黒に焦げた死体と、その死体の上に漂う、魂をイメージしただろう光のオブジェクト――


「あ……」


 上空には、悠々と青い空を舞うライトニングバード。

 きゅいきゅいと、ライトニングバードの鳴き声だけが遠く聴こえた――――……




 ――レイモンドさん、本日二度目の死亡。



 …………

 ……


「とりあえず蘇生させとくか……」

「そうですね……」



【女神の涙】:回復アイテム(蘇生)

:死亡したプレイヤーキャラクターをHP1の状態で復活させる。

:復活したキャラクターは以後10分間、アイテムや魔法による再復活はできない。

:500E




 ―― …… ―― …… ―― …… ――




「今日はこれぐらいにしとくか……」

「ですね……」


 視界の隅では、復活したレイモンドにウチの妹さんがヒールをかけている。 

 あんまり使う機会のないヒールの熟練度上げが出来て、妹さんは少し嬉しそうだ。

 ……ごめんなーライム。普段から回避主体の前衛でごめんなー。


「変なオチが付いちゃったけど、今日は楽しかったです。よろしければまたお付き合い下さいね」


 そういって微笑むルシア。



 ――その後の話によると、ルシアたちはリアルでは演劇部に所属しているんだそうだ。

 VRだったら、わざわざ衣装を作ることもないし、殺陣(たて)の練習も出来る。

 なのでたまにこうして、即興で演劇の真似事をしているそうだ。


「にーちゃ、そろそろ落ちよう。眠い」

「ああ、そうだな」


 時刻は24時手前。丁度いい時間だ。


「次はもうちょっと無理のない台本(ほん)を書いておくス。有難う御座いましたス」


 素に戻ったレイモンドさんともフレンド登録を交わして、今日の“brand-new World”は終了。僕らはログアウトした。



 ――【サーバーとの通信を切断しました。またのプレイをお待ちしております】――

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