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40 傭兵さんといっしょ

「……はッ! どうした駆け出し冒険者(がきんちょ)。シケたツラをしてやがんな」


 ……と、ロールプレイ開始です。うん、恥ずかしい。

 ロールプレイをしている人に偏見とかは無いが、演技している自分が恥ずかしい。

 今の僕、赤面してないだろうか……?


「あ、いえ……その……」


 俯く女性。しばし逡巡した後に、意を決した様に顔を上げた。


「“北”に行きたいんです! 私は――どうしてもファルデンシアの花を手に入れないと!」


「駆け出しの嬢ちゃんが“北”へだと? 命がいくつあっても足りゃしねぇぞ?」


「そんなことはっ!! ――…………解っています。解ってるんです……私なんかじゃ、どうにもならないってことは……」


 いやまぁ、実際は僕よりステータスは高いんだろうけどね、この人。僕らは結構無理やりにカエルを突破してきたし。


「でも……私はっ!」


 俯いて、震える拳を握り締める女性冒険者。


 うん、なんだろう。悔しさの演技をしているのに、どことなく喜色が感じられるのだが……


「お願いします! 私一人じゃ無理なんです! 傭兵さん、手を貸して下さい!」


 うん、なんだか僕が傭兵設定になってる。

 アレか? 妙に(きず)だらけだから傭兵っぽかったのか?


「断る! 自分でなんとかしやがれ! ……と言いてぇとこだが、ガキがむざむざ死にに行くのを、黙って見送るのも寝覚めがわりぃな。いいか? ライム」


「おけー、12時までに寝たいけど、それまでなら」


 ……んん?


「おい、ライム。お前はロールプレイしなくてもいいのか?(ぼそぼそ)」


「うん、むしろ参加しないことで、『一般人にも受け入れられている』と思わせることで安心感を出してあげることも大事(ぼそぼそ)」


 なるほど、いざゲリラ演劇を始めても、通行人に見向きもされなかったり、明らかに『なにコイツ……』って目を向けられるのはきついだろう。

 例えるならば、ダダ滑りして空気が凍っているのに、途中で止められないお笑い芸人の気持ちというか……


「では、準備が終わり次第、北門に集まりましょう!」


【“ルシア”さんからフレンド申請が届いています。受理しますか?】


 はいよ【YES】っと。


「ではまた後で!」





 ―― …… ―― …… ―― …… ――





 準備を整えた僕たちは、北門で合流した。


 僕が背中に背負うのはいつもの芋剣と亀盾ではなく、一本の両手剣。

 先程、ライムから渡された剣だった。


『外見的な意味でのネタ武器はロールプレイに向かない。ベータの時に拾った微レア武器だけど、使ってにーちゃ』


 とのこと。

 まぁ、両手剣も使えないわけじゃないからいいんだが……そんなに芋と亀は駄目か?



【蒼軽鉄の大剣】:両手剣

攻撃力:43

装備条件:STR21

防御力-6



 ちなみにNPC売りの同ランクの両手剣は



【鋼のソード】:両手剣

攻撃力:48

装備条件:STR23



 ……と、装備条件の緩さ以外に利点が無く、唯一の利点もいまいちの差だ。

 さらに【鍛冶】での生産になると、作成アイテムのレアリティによって付加能力の付きやすさが違うらしい。

 レアの蒼軽鉄の大剣より、コモンの鋼のソードの方が、攻撃力が増える【+】数値が出安いのだ。


 なのでこれは、色が青いのが格好いい……ぐらいのイマイチのレアだ。


 つまり、性能的にはネタ武器と呼べるものなのだが、ロールプレイ的にこれはOKらしい……

 外見が良いネタ武器は『こだわり』とみなされるとか。

 ただし効率を求める人の間では地雷認定されかねない諸刃の剣でもある。



「では、行きましょう」

「ちゃっちゃと終わらせるぞ」

「ごー」


 ルシアと僕たちは、北の山岳地帯に向けて出立した。





――――


 ――街を出て真っ直ぐ北に向かうと、岩山を登る道に出る。

 岩の割れ目からひょろりと生えた木が、ぽつんぽつんと所々にあり、くるぶしほどしかない背の低い草がまだらに生えている岩山の山道だ。


 どこか寒々しい風景の土地に、僕たち三人は歩み入った。



 この北の山岳地帯は三番目の街“風の街ウィド”に通じているらしい。

 ウィドに行く為には、ファアートからロロクに来た時同様にボスと戦う必要があるのだとか。


 ただ、今回はウィドに向かうわけではないので、途中帰還となる。

 どの道ボスと戦って勝てるとは思えない。ガチ勢ですら、一握りのトッププレイヤーしか、まだ突破できていないらしいしね。



「山岳地帯か……どんな敵が出やがるんだ?」


 慣れないロールプレイをしながらもライムに質問する。

 しかし答えが戻って来たのは、ロールプレイヤーのルシアからだった。


「山岳地帯は岩山で、ライトニングバード、ロックパペット、カモンシカが出ます。ユーシさんは山岳地帯には来たことがありませんか?」


 ルシアの装備は弓。革の胸鎧に緑色の服と、狩人っぽい感じの装備だ。赤みの入った金髪はおさげにしてある。


「生憎、ロロクには流れ着いたばかりだからな」


 肩を(すく)めるオーバーリアクション。

 ちなみに僕の演じるこのキャラ付けは、アルベロスを参考にしている。両手剣使いだし丁度いい。


「来た」


 空からは鳶ほども大きい黄色の鳥が二羽。

 それと近場にあった岩が蠢いたと思ったら、それはゴロゴロと纏まって人型を取り、こちらに向かって来た。



「お出でなすったか」


 背中に()いた大剣を抜き放つ。

 濃い青色をした剣身が輝き、青い光が剣の動いた後に軌跡を残す。


「上ですっ!」


 急降下してきたライトニングバードの爪が僕を襲う。

 間合いをずらし、飛び退きながら一閃。

 ライトニングバードの胴体を真っ二つに斬り裂いた――……様な感触はあったのだが、たった今斬りつけられたライトニングバードは、元気に上空へと羽ばたいて行く。



「にーちゃ、流石にこのステータス差だと、一撃じゃ無理」

「そういうことだろうな……」


 本来、僕らはまだ最初の街で(くすぶ)っているのが普通のステータスだ。

 それが第二の街から第三の街に行くルートを進んでいるのだ、ステータス()不足は当然のこと。



「空の敵は私がっ!」


 ルシアがショートボウに矢を番え、弓を引き絞る。


『ホーミングシュート!』


 放たれた矢は、的中には僅かに射角が足りないかのように見えた。

 だが、ライトニングバードの手前に来てホップアップして、その羽に矢が突き立つ。


「傭兵さんはロックパペットを!」


 ルシアの声に、僕はどすりどすりと遅い歩みで近寄ってきた岩人形に剣を向ける。



「ゴーレム――と呼ぶには貧弱。だからパペット(人形)か……」


 このゲームではどうか知らないが、異世界(グランスモール)でのゴーレムは厄介な敵だった。

 剣で殴ればたちどころに刃を潰してしまう。岩を斬るなんて芸当は達人でも不可能だ。

 日本刀で鉄が斬れるとかいうアレは誇張だ。ミリ単位の厚みのものなら斬れるかも知れないが岩を割ることは出来ない。


 魔法で吹き飛ばすか、鎚で叩き潰すか……それが無難だと思う。

 僕らのパーティだと、魔導師ヘギサの魔法、メンテ知らず(不壊)の聖剣での攻撃。非常識にも岩を斬り裂く剣士アルベロスで、ゴーレムもなんとか倒せていたのだが――


「ゲームだしな、剣がイカれるということもないか……」


 のっそりと近付いてきたロックパペットの胴体を目掛けて剣を振り抜く。

 岩で出来た胴体に剣が接触すると、ガイン、と勘高い音を出して、剣が弾き返る。


「ちっ……駄目か」


 ダメージを与えられた様子は無い。音叉のように震える剣を握り締め、振動を抑え込む。


 だが、流石はゲーム世界。青い剣身は、刃が欠けることも曲がることもなく、真っ直ぐに輝いていた。


 どうやら、ロックパペットの外皮は、異常な防御力を持つ――と言うより、プレイヤーの盾のようにガードポイント扱いなのかも知れない。


 プレイヤーが盾で攻撃を防いだ時は、盾に設定された『ガード耐久値』以下のダメージは完全無効化。それ以上のダメージは多少軽減して受ける仕様になっている。

 もちろん防御力の数値を高くしてで攻撃を無効化する事も可能だが、その為の防御力はかなりの数値が必要になる。攻撃力と防御力から算出されるダメージの詳しい方程式は面倒なので覚えていないが……


 とにかく、防御力はダメージを無くすものではなく、軽減するものなのだと考えていい。それとは別に盾には『ガード耐久値』というものがあるのだ。


 ロックパペットの外皮が『盾』と同じ扱いということなら、盾部分ではない、まともなダメージが入る柔らかい場所があるはずだ。



「……ま、こういう場合、関節とかが定番だよな」


 再度剣を振り、今度は右腕の肘関節部分を狙う。

 パキン……と、まるでポッキンアイスを割ったかのように、肘から下の腕が斬れて落ちた。


 ダメージ差分があるってことは、破壊可能部位だって事か……


「ライム」

「はーいよ」


 ライムから補助魔法『エクストラエンチャント』を掛けてもらう。これはファアートのスキル屋では売っておらず、ロロクのスキル屋で買ったものらしい。


 効果は、『武器にエンチャントの掛かっている間に与えたダメージの○%を、エンチャント終了後に敵に与える』――というもの。○の中に入る数値はスキルレベルによって変動する。


 エンチャントの掛かった剣を振り、手首、肘、肩と順番に斬り落としてゆく、同じように足と頭、胴もだ。

 ロックパペットは、いわゆるデッサン人形のような姿をしており、球体関節の部分が弱点となっていた。


 球体を壊すごとにロックパペットのHPは減ってゆくが、全ての関節球を破壊し、首を斬り落としても、まだHPが残ったまま……だめだ、圧倒的にSTRが足りない。


 しかし、もう攻撃する場所がない。どうしたものかと考えているとロックパペットに動きがあった。

 細切れにした破片がゴロゴロと転がり、その岩の破片はしばらくもすれば磁石に吸い付くようにロックパペットの胴体へ集う。


 やはり、頭を切り離しても倒せないらしい……、まぁ生物ではないからと予見はしていたが……


 高攻撃力で胴体を破壊すれば一撃で倒せるのかも知れないが、今現在の僕のステータスでは無理。

 ならば元に戻った所を、またちまちまと削る他ないだろう。


 そうしている間にエンチャントエクストラの効果が終わり、ロックパペットに追加ダメージが入る。

 ……うん、まだスキルレベルが低いから、誤差程度のダメージだね。まぁ仕方ない。



 ロックパペットの手足が再生し、ゆらりと起き上がろうとした時、僕の足元に黄色いサークルが出現した。


 なんだ? と考える前に跳躍し、そのサークルの範囲から脱出する。

 その瞬間の稲光。

 サークルの中央に落雷が起きた。


「ライトニングバードの魔法です! 気を付けて!」


 と、そのライトニングバードと射撃戦をしてるルシアからの警告。一人で二匹のライトニングバードを牽制していたが、どうやら一匹が漏れてこちらに攻撃してきたようだ。


 なるほど、着弾前の場所にマーキングが出るってことね。お優しい世界だこと。


『マジックミサイル』


 お返しに魔力弾を放ってやる。

 威力極小、弾速遅い、消費MPわずかの弱魔法だが、属性相性無しで攻撃できる。

 さらにホーミング性も高いので、適当に放っても当たる便利魔法である。


 ちなみに“ミサイル”って、投擲武器って意味なんだそうだ。

 矢も手槍もダガーも手裏剣も石ころも全部ミサイルである。なにも近代兵器だけがミサイルでは無い。

 


 マジックミサイルが着弾するのを見送ること無く、僕は立ち上がったロックパペットに再度剣を振るう。

 胴体から遠いところから徐々に削り落とし、ロックパペットが胴体ダルマになった時点で背後から着弾音。


『ピィィイイイ!』


 勘高い鳥の鳴き声が聞こえる。

 さて――ライトニングバードの追撃に行きたい所だが、ロックパペットのHPも僅かに残っている。


「“グロムマルトー”」


 雷の鎚が胴体しかないロックパペットを穿ち、わずかに残ったHPを吹き飛ばす。

 どうやら雷魔法は有効なようだ。


 プレイヤーの盾防御も雷攻撃に対しては防御しても完全無効は出来ず、多少減退はするがダメージを受けてしまう……という事を今更ながらに思い出した。

 うん……あったねそんな設定。



『シャイニーボール』


 ライトニングバードへの追撃はライムがやってくれていた。


 マジックミサイルからシャイニーボールと、ぽんぽんとお手玉させるように浮いていたライトニングバードに、飛び込みからの大上段斬りを浴びせる。


『クェエエ!!』


 今度は流石にHPが持たなかったライトニングバードは、大剣の攻撃により光の粒になって飛散した。


 ――残るはルシアの引き付けているライトニングバード一匹だな。

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