表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/160

39 勇者のロールプレイング

 石の街ロロクに帰ってから僕たちはすぐにログアウトした。

 そろそろ夕飯の時間だ。

 ダイブモードが終了し、VRギアはビジョンモードに移行。いつもの通り僕の部屋の天井がバイザー越しに映し出される。



「…………」


 首を巡らせ、即座に周囲を見渡す。


 ……どうやら、今回は妹様のトラップは仕掛けられていないらしい。昨日のアレで気まずくなったからだろうか?


 ――と、思っていたそこに……


『ぴょこっ』


 ……と、小動物の様なものがベッド脇から現れた。

 なんだなんだと注視してみると、普段よく見ている顔に似ている。


 そう――それは二頭身の妹様であった。


 二頭身のSD妹様は、ベッドの上でぺちょぺちょ跳ねると、ごてんと転ぶ。……水色のしまパンだった。



「なんじゃこら……?」


 呟いた瞬間、二匹、三匹とSD妹がぴょこりと現れ、ベッドの上で、はちょはちょと戯れ出す。


 ……どう考えても未来の仕業なんだろうが、何を目的にしたものなのかさっぱり解らない。

 ただただ当惑する。


 一匹摘んでみる。

 ビジョンモードの立体映像なので触感は無いが、持ち上げる事は出来た。

 両手両足をジタバタとさせて、わたわたと慌てている……


 まぁ、かわいいけど……これにいったいなんの意味が?



「ふ、お悩みのようだね、にーちゃ!」


 あ、今日は普通にドアを開けて入ってきた。ドアに負担が掛からなくて嬉しいです。


「妹よ、兄に教えてくれ。これになんの意味があるんだ?」


 ミニ妹が膝の上によじ登って来た。かわいい。


「ふふ、こうしてちっこい妹が小動物のような可愛らしい行動を取ることにより、にーちゃの脳内に『妹=カワイイ』の方程式が植え込まれ、リアル妹も=カワイイと認識させる高度な心理戦だよ! にーちゃ!」


「……そうか」


 ……うん、そうか。


「……? にーちゃ、反応薄い?」


「ああ、うん。まぁ」


 別に実害ないし? 実際、ミニ妹カワイイし?

 ミニ妹のあごをこしょこしょとくすぐってやる。いやんいやんと首を振りつつも嬉しそうだ。

 触った感覚がないのが恨めしい。



「…………」


「…………」


「オチがない、ね……、にーちゃ」


「そういうときもあるさ」



 …………


 ……


「ああ、未来」


「なに? にーちゃ」


「別にこんなの出さなくても、未来は可愛いと思うぞ?」


 …………


「……ありがとう」


「うん」



 ――

 今日の夕食は、なんか豪勢でした。





 ―― …… ―― …… ―― …… ――





 夕食を終え、入浴を終えた後に部屋でVRギアを被る。

 その途端に部屋に現れるミニ妹。

 うん、カワイイ。


 僕がベッドの上に横たわると、お腹の上に乗っかって来た。カワイイ。


 ミニ妹の頭を撫でつつ、“brand-new World”を起動させる。ビジョンモードからダイブモードに変わる直前に、ミニ妹がばいばい、と手を振っていた。


 ……もう、今日はログインしないでミニ妹と遊んでいた方がいいんじゃないか?






――【“brand-new World”へようこそ】――






 ログインした先は石の街ロロク。石造りの街並みが美しい場所だ。


 そういや、まだロロクをロクに見て回ってないな……と、超微妙な駄洒落っぽい言葉を飲み込んだ。

 華の街ファアートも言う程は見て回っては無いが、あちらは一応、市場街には行った。


 これはイカン。エンジョイ勢とは、無駄に街中を走り回ったり、街中でダベったりしているべきなのだ(偏見)



 ――と、いうことで、取りあえず街を歩いて回ることにする。




 ――――


 ……いやまあ、うん。

 それでなんでこんなことになってるんでしょう?



「ふざけないで下さい! 私は貴方の妾になんかなりません!」


 ――チラッチラッ


「ククク、いつまでその強情が続くのかな? 貴様の母親の病気を治す為には、この薬が必要なのだろう?」


 ――チラッチラッ


 ……うん、お貴族様に拐かされそうな女冒険者が目の前にいます。

 ちなみにお貴族様がチラつかせているのは、どう見てもただの解毒ポーション。


 でもコレ、NPCのイベントではない。


「ククク、この俺、ガールト侯爵家三男のナリーキ様のモノになれば贅沢な暮らしが出来るというのに」


 ――チラッチラッ


「貴方の思い通りになってたまるもんですか!」


 ――チラッチラッ


 そう、僕は、NPCではなく、プレイヤーのロールプレイ(ナリキリ)に巻き込まれそうになっていた。


 おい、女冒険者さん。道具屋に行けば解毒ポーションぐらい、25Eで売ってるぞ?


 それとガールト侯爵家のナリーキさんよ。あんたも名前欄に【レイモンド】って表示されてるぞ? ……まぁ名前は書き変えられないから仕方ないけどな。


 そう考えるとロールプレイって言うより小芝居? ヤラセ? と言うべきなのだろうか……


 ちなみに、この場には小芝居をしている二人を除いては、僕ぐらいしか辺りには居ない。

 ……つまり、チラ見の標的は僕ってことになる。


「クククッ! この薬が欲しければ、いつでも俺のところに来い。手遅れにならない内になっ!」


「貴方の言いなりにはならないわ! 北の山岳地に生えるという、ファルデンシアの花さえ手に入れれば、お母さんを治す薬は作れる!」


「ククッ、貴様のような駆け出しに、ファルデンシアの花が手に入るはずが無いだろう!」


「そんなこと……わからないわっ!!」


 ――チラッチラッチラッチラッ



 …………うぜぇ。チラチラとこちらをうかがう視線もうぜぇし、説明的なセリフもうぜぇ。


 やっぱりログアウトして、ミニ妹と戯れようかと思い始めた時、等身大妹が来てしまった。


「おまたせ、にーちゃ。……どうかした?」


「あ、ああ……いやな」


 取りあえずの経緯をライムに耳打ちする。


 そうしている間に小芝居は一段落したようで、ナリーキ(レイモンド)は高笑いしながら消えて行った。


「う~ん……」


「お母さんの病気を治す為には、北の山岳地に行ってファルデンシアの花を取ってこないと……でも、ナリーキが言うように、駆け出しの私だけじゃ……!」


 ――チラッチラッ


 うぜぇ……


「なぁ、妹よ。今、思いっきり『NO!』と言ってやれば、たいそう気持ちいいんじゃなかろうかと思う自分がいるのだが?」



 だが、断る――ってね。


「うん、気持ちは分かるよにーちゃ。でも、付き合ってあげてもいいんじゃない?」


 ほう? 妹様なら『面倒くさい』の一言で一蹴するかと思っていたのだが?


ロールプレイヤー(ナリキリ)さんは今や絶滅危惧種。保護してあげるのが吉」


「そ、そういうもんなのか……?」



 妹様曰く、ただでさえ減少傾向にあったロールプレイヤーは、VRになってからさらに激減したらしい。


 原因として考えられるのは、『プレイヤーと操作キャラクターの距離感が近くなりすぎた』からと考えられる。


 VRはその性質上、現実のボディとかけ離れたキャラクターを作るのは難しい。

 リアルとは違う身体でキャラクターを作成してしまうと、その差異のせいで上手く身体が動かせない。

 さらに異性のキャラを選択できない仕様と、下手に顔を弄ると不気味の谷が発生したりと不都合が多い。


 ナリキリプレイというのは、自分が物語の登場人物を演じるのが面白いのである。

 ネット上のなんのしがらみの無い人たちの前で、現実の自分とは違う人間として振舞うのが楽しいのである。


 だが、リアルの自分とそっくりのキャラクターでナリキリプレイをするということは、ゲリラ活動的に路上で突然に演劇を始めるようなものなのだ。

 それも仮面も被らず、さもすれば一人きりで。


 あまりに自分に近い姿、近い感覚に“リアルバレが怖い”とかいうよりなによりも、素の自分から生まれる“羞恥心”が邪魔をするのだ。


 ネカマプレイだって、キーボードを打つのなら平気だが、ボイスチャットになると『ボイスチェンジャー機能で女性声にしていてもちょっと……』と思う人がほとんどだろう。

 キーボードを叩いて「大好きだにゃ!」とかは発言出来ても、マイクを前に同じことを言えと言われたら、ほとんどの人が躊躇する。


 それがVRとなると、立ち振るまいからなにから全部だ。それはネカマというより既に女形――



 ともかく、ナリキリプレイをするためには、自我とアバターとの精神的距離が重要になる。

 VRはその距離がひたすらに近いのだ。


 さらに、MMOとは大規模多人数同時参加型オンラインRPG。

 そこらじゅうに他人のパーティがあるのに、恥じずに演技をしなければならないのだ。



 …………


「――それでナリキリプレイヤーは少ないと?」


「うん、今やロールプレイをする人は、演劇をやっている人か、相当こじらせた中二病患者ぐらいじゃないかと思うよ、にーちゃ」


 ヒソヒソと兄妹で話す。


「別にあちらの流儀に合わせる義務は無い。だけど心無い拒絶はロールプレイヤーの心を抉る」


「とは言ってもなぁ……」


 だったらなんで僕を巻き込もうとなんてしたんだ? 仲間内でやってた方がダメージはないのに……


「多分……にーちゃもロールプレイヤー(お仲間)と思われた」


「はぁ!?」


 え? なんで? 僕は素プレイヤーだぞ? ロールプレイヤーと思われる要素が――


「リアルにはそんな(きず)だらけの人はいない。ヤのつく自由業の人でも、恐らく軍人さんでもいない」


 ――要素あったぁ!?


「というか、もうロールプレイヤーどころか、ロールプレイングゲームの主人公だよ、勇者(にーちゃ)って」


 ……おっしゃる通りです。



「……付き合ってあげたら? にーちゃ」


「……はい」


 僕の人生初のロールプレイが決まった瞬間だった。

※実際のロールプレイヤーは他人を巻き込むことはまず無いと思います。

あくまでフィクションとしての演出の一環です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ