37 ロロク南の沼地へと
すみません……ほぼロロク周辺の説明回になります。
未来は昼前にしっかりと目を覚ました。
未来が昼食を作っている間に、僕はアルベロスとの模擬戦。――当然の如く惨敗。
未来の作ったオムライス(だからケチャップで“LOVE”って書くのは止めなさい)を食べ、自室へ。
定期メンテナンスはもう終了したようなので、“brand-new World”へログインする。
あ、ちなみに僕の枕はまだ乾いてないので、昨日に引き続きクッションを丸めた物が枕代わりだ。未来の枕は持ち主にちゃんと引き取って貰った。
「トイレも行ったし、それじゃ、ログイン――」
――【“brand-new World”へようこそ】――
~~【定期メンテナンス終了のお知らせ】~~
「おうぅ?」
ログインして真っ先に目に入ったのは、なにやらのダイアログだった。
「定期メンテナンス終了のお知らせ?」
【以下がメンテナンス後の変更点になります】
・冒険者ギルド、アイテムショップ等の一部建物の内装を実装。
・武器、盾等にモンスターの攻撃が触れた時に、特殊効果が発動してしまうバグを修正。
・その他、軽微なバグの修正(詳細は__こちら__から)
・一部スキルの見直し
・一部敵モンスターの行動パターンの修正
・『エネミーのHPの表示』が初期状態でONになるよう修正
・不正行為の対策を強化
【これからも“brand-new World”をよろしくお願いします】
――――
ふーん……割と仕事が早いな。この間正式リリースしたばっかりだってのに。
「対応が早過ぎる」
「うおっ」
ライムがログインしていた。いつもは僕の後、少し時間が経ってからなので、ちょっとびっくりした。
「対応が早いのはいいことなんじゃ……?」
「にーちゃ……これはそう思わせる為の罠」
ふむ?
「バグの修正とかは分かる。だけど建物の内装とかがそんな短期間で作れるとは思えない。多分、βから意見が多くあって作ってはいたはず。……それが正式リリースまでに間に合わなかったから、後出しで『正式リリースからのユーザーの声に応えましたよ』っていうふうに見せかけただけ。こすっからい手口」
お前はこのゲームが好きなのか嫌いなのか判らんな……
「ま、まぁいいや。それでどうする? 新しい街なんだが」
「待って、移動しようにーちゃ。ギルド前だから混雑する」
てくてくと少しだけ歩く。
ギルド内部がどう変わったか見に来る野次馬も多いだろうという話だ。
ロロクはまだ人が多くないのでマシだが、ファアートは今頃混雑しているだろうな。
「今度は北の山岳地帯が次の街へのルート。東に森、南に沼地地帯。西は来た方だから特に狩り場はないけど、湖がある」
ふむ、ならば北はまだ後だろうな。いきなり次のボスに行っても勝てるわけがない。
「そして、南東に深層ダンジョンがある。ロロクに行きたがる人のほとんどは、これが目当て」
「ふうん? 普通のダンジョンとどう違うんだ?」
「普通のダンジョンはストーリー上の物だから、そこそこの長さで終わるけど、深層ダンジョンは何十階もある。ここのはβと変わってないなら30階まで、深くなる度に敵も強くなる」
ああ、よくあるローグライクダンジョンか……
正確にはローグライクともちょっと違うと思うが、まぁローグライクに似たようなモンだと思っていいんじゃないかな?
ローグライクライク。なんだかトゲアリトゲナシトゲトゲみたいだな……
「βの時の最強装備は大体ここで取れた。ちなみにβは次の街のウィドまでしか無かった」
「ふーん……」
まぁ、深層に行くにはこれまたステータスが足りないだろうし、これもまだしばらくはお預けか……
「なら、東か南か?」
「そだね、南の沼地に行こうよ、にーちゃ」
「OK」
―― …… ―― …… ―― …… ――
そうしてやって来ました沼地地帯。
なんとなくおどろおどろしい雰囲気で、足元が妙にぬかるんでいる。足元をしっかりと踏み込まなければ滑ってしまいそうだ。
所々に清潔とは言い難い濁った色の沼があり、誤って落ちてしまったら、悲惨なことになるだろう。
また、藪が多く、その陰に沼が隠れているので無計画に駆け出すのも危険だ。敵を追って行ったらドボン! ではたまらない。
「ライム、なるべく僕の後を歩いて」
「女を三歩下がらせる兄、素敵」
「褒めてんだか貶してんだか判んないよ、それ……」
三歩下がって付いてこい、という言葉は、現在では男尊女卑の代表的な言葉だが、元は妻を守る為だとか、妻に恥をかかせない為の言葉だとか言われている……らしい。
まぁ、諸説あるらしいが……
「しかし、こんなに動きにくいなら、狩り場としての人気は無いんじゃないか? そうとうなレアでも出るなら分からないが……」
周りを見回してみても、プレイヤーの姿は全く見当たらない。
まだロロクの街まで辿り着いているプレイヤーが多くはないというのは分かるが、それにしても僕たちはトッププレイヤーなどでは決して無い。それなりの数のプレイヤーがロロクまで来ているはずだ。
「うん、人気はないね。目玉のレアも特に無い」
おいおい、ならなんで来たんだ……?
「出た」
「ん?」
藪からチラリと顔を出しているのは、以前、ファアートの南の森で出てきたヘビに似たような敵だった。
先の割れた舌をチロチロさせ、じっとしているが……待ち伏せをしているつもりなのだろうか?
「あいつか? 似たようなヘビが前にも出たよな?」
「前のはブルーヘッドスネーク。ここのはテイルレッドスネークだね、にーちゃ」
ふうん? そういえば、青大将の素材もアイテム枠に入ったまんまだなぁ。
「あいつの素材が良いアイテムになるのか?」
「良いアイテムというか必須。あれがないと始まらない」
うん? どんなアイテムだろう? 必須アイテムだと言うのなら、もっと人が居てもおかしくはないんじゃないか?
それとも二つ目の街に来ているのは、β時代からプレイしている人ばかりで、既にその必須アイテムは調達済みなのか?
「取りあえずアイツを狩ればいいんだな?」
「いえす」
そうして戦ってみるが、特に難しいことも無かった。
近付いて行って、飛び掛かってきたところを盾で叩き落とす。
後はザクリと真っ二つにするだけだった。
「なんだか、青大将よりちょっと動きが速くなってるな」
「ステータスは一通り上がってると思うよ、にーちゃ」
まぁ、色違いのグレードアップ版だろうし、同じステータスで出てこないか。
確かにこちらのヘビは尻尾の部分が赤くなっていて、尻尾が二股に分かれていた。
「なんで“テイルレッド”なんだろうな? “ブルーヘッド”から考えたら“レッドテイル”なんじゃないのか?」
「さあ? ちなみにそのヘビは雌雄同体って設定らしいよ、にーちゃ」
うん、なんだか踏み込んではいけない気してきたぞ。よく分からんが運営の微妙な悪ふざけの匂いがする。
「他の敵はどんなのが出るんだ?」
「ヒールヒルと大工のゲンゴロウさんだよ」
いや、前者もどうかと思うが……、後者は色々とギリギリアウトじゃないかな?
パロディネタはそこそこにしておかないと、ユーザーが離れて行くぞ? 他人のフンドシで相撲をとるのは良くないぞ?
「大工か……」
「うん、大工」
「……その割には、この辺りに建築物はないように見えるのだが?」
「建築物を造れるような知能はゲンゴロウにはない」
「大工ナメてんのかっ!?」
世界中の大工さんと左甚五郎に謝れ、実在したか微妙だけど。
「多分苗字なんだよ。ゲンゴロウ・カーペンターみたいな」
なんだよそのハーフ感。
もういいよ……好きにしろよ。
微妙な疲れを感じながら、僕たちは沼地の奥へと進んでいった。




