34 創作魔法伝授
2017/08/06
31 東の森の門番
の内容を少々変更しました。
大筋の内容に変化はありませんが、『ライムがスネてバフ拒否』『アイダリンがスネたライムを気にして戦闘不参加』『ほっぺちゅーの約束はゲーム内のみ』となってます。
少し焦げてしまった生姜焼きの夕食を取った後、僕が先に入浴し、その後自室へ。
今は未来の入浴タイムだ。
ちなみに枕は取り戻せていない。なんで脱衣所まで持ってくの? 妹様。
妹の枕の前で正座する。今、未来は入浴中で、わずかにシャワーの音が聞こえる。
……つまり、しばらくは未来が僕の部屋に乱入してくる危険性はない。
…………
……
――いや、僕はいったい、何をしているんだ? 妹の枕がいったいなんだと言うんだ?
………………
…………
「やめだ、やめ!」
僕の部屋には不釣り合いな、ピンク色の枕をテーブルの上に放り投げ、そこらに転がっていたクッションを丸めて、今日の枕とする。
――ログイン。
――【“brand-new World”へようこそ】――
石の街ロロクに降り立つ。
さて、と辺りを見回すが、どうやらプレイヤーよりNPCの方が圧倒的に多そうだ。
つまり、あのカエルを突破出来るプレイヤーが、まだ多くは無いのだろう。
流石にトッププレイヤーやらガチ勢でなければ突破できない、というほどではないが、夏休みから始めた中高生プレイヤーや、社会人プレイヤーは、まだあのカエルを倒すにはハードルが高いのかもしれない。
取りあえず、忘れない内にオプション設定画面を呼び出して、敵のHPゲージを表示するように今のうちに設定しておく。
「ん?」
そして妙な項目を見つけた。
痛覚設定? そんなのもあるのか……
デフォルトでは80パーセントのカット。
シークバーをズリズリと移動させ、50パーセントに差し掛かったところで【安全基準を超えて痛覚設定を変更しますか? これ以上痛覚設定を下げますと、健康に被害を及ぼす可能性が非常に高くなります】とのダイアログが出てきたが、無視して下げる。
結局、最低でも35パーセントカット以下にはならないらしい。
別に僕はMの人では無いが、異世界で戦ってきた上で知った『このぐらいは痛いんだろうな』っていう経験と、まるで違う痛みだと、それだけで一瞬の違和感が生まれる。
相手のデコピンが失敗した瞬間の気持ちというか……心構えていたものが「あれ?」と思う一瞬が、一瞬、思考能力を減退させる。……これは最低の35パーセントにしておこうか。
決して、カレー屋に行って、大して辛いのが得意でもない癖に『オレ、辛さ10倍にするわ』とか注文しちゃう思春期特有のアレではない。違うからなっ!
……やっぱ40パーセントにしておこう。
そんなこんなでちょっとオプションを弄っている内に到着したメール。
『師匠! お暇でしたらご教授下さい。是非!』
……そんなに【創作魔法】が使いたいのか。アイダリン。
しばらくすればライムもログインするが、まぁいいだろう。
返信を送り、その直後にアイダリンは現れた。
「ちょっぱやで来ました!」
「……別に急がんでもいいのに」
「いえ、市場を冷やかしていただけですので!」
鼻息の荒いアイダリンを、どうどうと宥める。
そこまで【創作魔法】を期待していたんだな……うまくいくかどうか判らんが、こちらも手を抜くわけにもいかないな。
「そうだな、まずは――」
「ヤキソバパンっすか!? 40秒で行って来ます!」
「待て、誰がパシれと言った。キャラ崩壊してるぞ、お前……」
駆け出して行こうとするアイダリンの襟首を掴むと『ぐけっ』と嫌な声を上げた。
「魔法が使える場所はないのか? やはり街の外に出なきゃならんかな?」
「そ……それならギルドでいいと思います。『演習場』っていうシステムがありまして、パーティを組んでいるなら一緒に入れます」
ケホケホと咳をしながら、アイダリンが説明をしてくれた。
ならば、と早速冒険者ギルドへ行くことにした。
――ロロクのギルドは当然ながら石造りの建物で、無骨な灰色一色の建物だった。
とはいっても、どうせ中に入れば不思議空間なのだろうが……
アイダリンとパーティを組み、ギルドの演習場へゆく。
不思議空間から飛ばされた演習場は、まるでコロッセオの様な造りをしており、街の何処にこんな場所があった? と突っ込みたい建物だった。
コロッセオ風なのも、街の景観やギルドの施設と考えるには、なにやら違和感がある。
多分これから何処かで使う予定のステージの使い回しかなにかなのだろう。
ここもインスタンスダンジョンと同じ扱いになっているらしく、広いコロッセオの中にはアイダリンと僕以外は誰も見当たらなかった。
「いわゆるトレーニングモードですね。スキルの使い勝手の確認をしたり、パーティとの連携を研究したり」
「敵も出せるのか?」
「はい、とは言っても、倒してもアイテムも経験値も貰えませんが」
スキルも無制限に使えるが、それでスキルを使っても、スキル経験値は入らないのだそうな。
結局、本当に練習にしか使えない為に、わざわざここに来るプレイヤーは極少ない。
ただ、習得可能スキル発生の判定はされるそうなので、今回は都合が良い。
「では、“リアマグレル”!」
手本として僕は“リアマグレル”を何もない石壁の方向に使って見せた。
僕の手の平から、炎の散弾が飛び出す。
「やってみて」
「はい!『リアマグレル』!」
僕の真似をして、アイダリンが手の平を何も無い方向に突き出すが――
――うむ、なにも起きないね。
「やはり魔法名を唱えただけじゃ駄目か……」
「そうみたいですね……」
まぁ、そんな簡単にはいかないと思ってはいたが、何をどうすればいいのやらさっぱり解らない。
さあ困った、と僕は小首を傾げた瞬間、そこに、ライムからのメールが届いた。
『にーちゃ、ログインしたけど、どこ?』
「ライムがログインしたようだ。呼んでいいか?」
「はい」
ウチの妹さんにも相談してみようか。
――――――
フレンド一覧からライムをパーティに参加させ、そしてライムが演習場へやって来た。
周りを見回すと、妹様は一言。
「二人っきり?」
「ん? そうだな。インスタンスみたいだしな」
「にーちゃ、年頃の男女が密室で二人っきりとか、不健全」
「ゲーム内だっての」
なんかしようとしても、どうせセクハラ勧告がどうってダイアログが出て終わりだろうよ?
「そしてほぼ常に密室で二人きりの私とにーちゃは、とんでもなくいかがわしい関係ということになる。Q.E.D. 証明終了」
「どうしてそうなる……」
「い……いかがわしい関係なんですか……!?」
食いつくなよアイダリン。
「兄妹にいかがわしいもクソもあるか」
「あ、ご兄妹だったんですね?ライムさんが『にーちゃ』と呼んでいるのは分かってましたが……」
まぁ、年上の親戚とか、近所のお兄さんをそう呼んだりする人もいないでもないからなぁ。
アイダリンにはハッキリと兄妹だとは明言してなかったか。
「つ、つまりは兄妹の禁断の――」
「違う……」
「Exactly(その通りでございます)」
……妹と意見が合わない。
「いえ、いいんです。兄妹でも愛があれば、あたしは差別なんてしません!」
あ、駄目だ。この人ガチで信じちゃう人だ。大体は妹様のネタだと思う人がほとんどなのに……
こういうタイプは、相手にすると結構面倒くさい人だ。
「――今やエロゲーでも、必ず妹枠はあるのです! つまり妹は正義! 妹は萌え! 妹はエロス! 昨今は妹枠より幼馴染枠の方が少なかったりします! 一般メディアでも妹と兄の恋愛模様が描かれる作品が多くありますし、実際に兄妹で結ばれた例も数多くあるのです! ええ、実際には結婚は出来ません……しかし、しかしです! 勘違いなさっている方も多いのですがそもそも近親相姦などという名の罪はありません! もう一度言います。近親相姦は罪では無――」
……ほら、ね?
妹もネタを振る相手は選んでいるようだが、まぁその相手を見誤ることしばしば。やはり気持ち悪がったりする人間も少なくない。
まぁつまり、妹の発言をネタと思わない相手に、ウチの妹は合わない――のだが。
……これは妹の見当が外れたな。気持ち悪がられるよりはまだ対処しやすいタイプではあるが……
「アイダリン……、アイダリンっ!!」
「ハッ!?」
「いい加減現実に戻って来い」
「にーちゃ。現実もなにもここは仮想」
お前も揚げ足を取るなよ。
「……取りあえずアイダリン。【創作魔法】の続きをしたいんだが?」
「は、はい……お願いします……」
さて、と……先行き不安定ではあるが、どうにかアイダリンに【創作魔法】を教えることが出来るかねぇ?




