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32 東の森の門番 2

「ハァァアアッ!!」


 怒号を吐き、一直線に進撃。

 僕が近づいたことでカエルは足を止め、迎撃の体勢を取る。


『ゲッゲ……』


 正面から襲い来る僕に、カエルの舌攻撃。

 それを僅かに軸をずらすことで躱し、そのままカエルに接近する。


 駆け抜け、接近ざまに一太刀。そのまま流れるようにカエルの側面に回り、何度も剣を振るう。


――カエルの正面に位置取ると、舌攻撃と突進と仕掛けて来る。

 だが側面への攻撃は乏しい。精々がジャンププレスをしてくるぐらいだ。


 カエルも側面に取り付かれるのを嫌ってか、その場を旋回して僕を正面に入れようと試みる。

 だが、その動きはドスリドスリと重苦しいもので、大した速度ではない。


 側面に纏わり付いた僕と、僕を正面に入れようとするカエルとで、クルクルとその場を回転する。

 まるで童話のバターになったトラのようだ。


 そのちびくろサンボをしている最中、何度もカエルの胴を斬り付ける。しかしどのくらい効いているのかもよく分からない。

 残念ながらまだHPバーが見えるようにはしていない。戦闘中にそんな設定がいじれるほど僕は小器用では無かった。


 その場でクルクル回る僕とカエルに、魔法を放つタイミングを失しているのだろう。アイダリンは杖を構えたまま当惑していた。

 別にいつ撃たれても構わないんだがなぁ……

 かつての僕の仲間の黒髪のダークエルフなら、むしろ面白がって僕を狙って魔法を撃っただろう。

 ……まぁそれも僕が躱せるはずだという信頼の上での行動だが。



『シャイニーボール!』


 ……っと、妹様は普通に魔法を撃ってきた。どうやら攻撃魔法も覚えたらしい。

 治療法師って言っても、今までまともにヒールを使う機会も無かったしなぁ……


 ライムの光の玉の魔法は、カエルに当たるとバチリと音を立てて消えた。


 ……効いてるんだか効いてないんだか全然判断できない。

 これが終わったら、ちゃんとオプション設定を変えよう。


『ゲコぉ……』


 大ガエルの腰が沈んだので、早々に距離を取る。

 案の定、直後にジャンププレスが来たが、既に僕は間合いの外だ。


 大ガエルが落ちてきたところを狙い、一足飛びに接近。再度剣を振るう。これを繰り返していれば、なんとか倒せそうだ。



『サ、サンダーボール!』

『シャイニーボール』


 後衛二人の魔法。

 その魔法の後ろを追いかけるようにライムが駆け寄ってくるのが見えた。

 そろそろバフの掛け直しの時間か……


 カエルに密着したまま二つの魔法を避けながら剣を振り続ける。

 わざと人に掠らせるように、魔法を誘導操作して飛ばしてくる魔導師ヘギサの魔法に比べれば、これを避けるぐらい簡単なものである。

 ……まったく、底意地の悪い魔女だったなぁ。僕らにまともに当てることは絶対に無かったが。


「にーちゃ、バフ」

「おう、サンキュ」


 近づいてきたライムが僕に補助魔法を掛け直す。これでまたしばらくは平気だろう。

 しかし中々にしぶとい……まだ倒せないのか?


「にーちゃ、“パワースラッシュ”は?」

「動けない時間に攻撃されるのが怖い。アイツの予備動作からジャンプまでの時間が意外と短いんだ」


 パワースラッシュの硬直時間と、カエルのジャンププレスが発生する時間では、パワースラッシュの方が若干長い。

 パワースラッシュの発生中にジャンプが始まってしまえば、回避は難しい。そうでなくともパワースラッシュの硬直時間で、カエルが正面に回ってしまう可能性も高い。



『ゲゴォ!』


 側面にへばりつく僕に業を煮やした大ガエルは、正面に跳ぶことで僕との間合いを離す。


――だが、


「逃がすかっ!」


 獲物の背後に牙を立てた肉食獣が振り払わされまいとように、カエルを追撃しようとしたところで、カエルの顔がこちらを向き、その口がパカリと開けられた。



「舌攻撃かっ!?」


 位置的に、背後にはちょうどライムがいる。

 避けてしまえば、その舌先がライムに流れて行ってしまう。


 僕は駆け始めていた足を踏ん張り、盾を構え直した。


『ゲッコゲッ!』


 口の中から何かが飛び出した。

――舌じゃない?


 カエルが吐き出したのは、薄緑色をした液体の球体。


(――わからんが、触れない方が良さそうだっ)


 咄嗟に盾を大きくスイングさせ、薄緑の球体を叩き散らす。


 パンッ! と小気味良い音を立てて弾き散らした飛沫は、一滴たりとも僕の身体には掛かっていない……筈だった。



「ぐっ……なんだっ!?」


 ぐらりと僕を襲う目眩。

 胸の辺りがムカムカとし、締め付けられるような感覚――



 毒っ!?



――その一瞬の怯みが、カエルの予備動作を見逃す要因となってしまった。


 僕を目掛け、真っ直ぐに飛び込んでくる大ガエル。


「!? ちいい!!」


 咄嗟に斜め後ろに跳び、カエルの頭を盾で防ぐ。

 しかし完全に回避したとは言い難い状態。

 カエルの体当たりの衝撃で僕の身体は吹き飛ばされた。


「っぐぅ!!」


 宙に舞う身体でなんとか受け身を取り、地面に叩きつけられるのだけは防いだ。

 しかしそのたった一撃でHPは大きく減少する。



 くそ……あのカエルは『ジャイアント“ポイズン”トード』

 毒を持っていて当たり前だ。

 先程飛ばしてきた液体が毒だったのだろう。


 だが、何故だ? 毒そのもの自体は完全に防いだはず。なのに一体何故?



『シャドウミストっ!』


 アイダリンの魔法でカエルの周りに黒い霧が掛かった。良い援護だ、有り難い。


「にーちゃ!」


 ライムがすぐに駆け寄って来てくれた。

 吹き飛ばされた先が、ちょうどライムの近くだったのだろう。


「大丈夫だ――が、あれだけでHPが半分以上持ってかれた。中々厳しいな」


 ライムがヒールを唱えてくれる。僕がライムに回復されるのは、これが初めてだったか?



「にーちゃ、毒は?」

「すぐに消えるんだろ? ならいい」


 毒のダメージは自体は微々たるものだが、受けた瞬間の目眩は予想外だった。あの所為で意表を突かれてしまった。情けない……

 だが、もう心構えは出来た。二度目は無い。


「霧がなくなりますっ!!」


「分かった! 有難うアイダリン!」



 徐々に薄くなってゆく黒い霧。

 その中に、石色のカエルの姿が――



――いない?



 そこには、あの2トントラックほどもある巨体のカエルは見当たらなかった。


「どこに行った!?」

「なにこれ……わたしはこんなパターン知らないよ、にーちゃ……」


 警戒して周りを見渡す。

 あの巨体を隠せるような場所はそうそう無いはずだ……



「――!? ちぃっ!!」


 わずかに陽炎が揺らいだ。

 先程拾った初期装備のナイフを、アイダリンに向けて投擲する。



「ひっ……!?」


 迫りくるナイフにアイダリンが短い悲鳴を上げた。

 だが、ナイフはアイダリンに届く前。何も無い空間(・・・・・・)に突き刺さる。



『ゲゴォ!』


 その空間から悲鳴が上がると、透明な水にインクを落としたかのように、カエルの姿が浮かんできた。


「擬態だ」


 周囲の環境に合わせて、自分の体表の色を変化させる生物がいる。

 有名なのはカメレオンだが、カエルの中にも擬態を持つ種もいる。例えばアマガエルだって擬態をするのだ。


「行動パターンが変わってきたな……ライム、アイツの今のHPは?」


「3分の1を切ったとこ。そこで変わったかも?」


 ゲーム――特にアクションやシューティングゲームでは、一定の体力を下回ると攻撃が変化する敵は少なくない。


「オープンベータの時点では無かった。正規サービスからの変更点だと思う……」


「ちなみに攻略法は?」


「今も昔も『遠距離から高火力で一気に削れ』だよ、にーちゃ」


「……なるほど、真理だ」


 当たらなければどうと言うことはない。

 さらに、当たらない距離なら言うことなどない。

 残念ながら参考にはならんが……


 どの道、僕らには接近攻撃をするしか無い。

 遠距離から十分な火力がありそうなのはアイダリンだけ。僕はMP不足、ライムは本来は治療法師。



「突貫する」

「気を付けて、にーちゃ」


 既に擬態が解けたカエルに向かって地を蹴る。

 僕の突撃に気付いた大ガエルは、毒液を吐きかけて来るが、大した速度でも無いそれは、走りながらでも避けるに労するものではない。


「りゃぁああ!!」


 接近直後に掬い上げるように前足を斬る。返す刃で胴体を斬り、そのまま側面へと回り込む。


 こちらを追従するように顔を向けてきたので、それにも一太刀。

 Hitエフェクトが消えた後は、平気な顔の大ガエル。

――慣れないな……これ。


 そのままカエルが僕に向き直るが、今度は無理に側面は取らない。

 初期の行動パターンでは比較的安全だった側面だが、行動パターンが変わった時から、恐らくは何かしらの攻撃方法が増えているだろう。

 シューティングで、安全地帯だと思っていた場所が、パターン変更から危険地帯になるなんて、実にゲームらしいだろ?


 ならばわざわざそれに引っ掛かってやるつもりはない。



 ……結局、正面からのガチ勝負になるのか。


 カエルの口が開いたのを確認すると、素早く軸をずらしながら顔を斬り付ける。

 するとカエルは顔をのけぞらせ、短く悲鳴を上げた。


 ……そこで初めて気付いた事実。


 どうやら舌伸ばしや毒液は、攻撃発生前に顔にダメージを与えると攻撃をキャンセルできるようだ。

 ならば、と顔にラッシュをかける。


 カエルは攻撃しようと口を開くが、連続攻撃によってすぐにキャンセルされる。

 ……パターン入ったな、これ。最初からコレを知ってればなぁ……



 ――と、まぁそんなに簡単には行かず。カエルの腰が沈んだのでその場から急速離脱。カエルの正面タックルだ。


『サンダーランス!』

『シャイニングアロー!』


 タックルを難なく躱し、突進行動の終わり際には、ライムとアイダリンの二人の魔法が待ち構えている。


「ついでだ! “グロムマルト”!」


 二人の魔法に遅れて、雷槌の【創作魔法】がカエルを穿つ。



「残りHPはっ!?」

「ちょびっとだよ! にーちゃ!」


 顔面ラッシュが思いの外効いていたらしい。顔面攻撃だし、ダメージ倍率が高かったのか?



「っし! 一気に削り切る!」


 カエルに向けて、もう一度駆け出そうと腰を落とす

――が、


『……げこぉ』



 ……ん? あれ? カエルさん、体色が赤くなってませんか?

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